異世界で記憶喪失になったら溺愛された

嘉野六鴉

文字の大きさ
1 / 89

0.目が覚めた

しおりを挟む


 痛い。

 とにかく痛い。体中が痛い。全身にくまなく針でも刺したかのような鋭い痛みと、火傷後のようなじくじくとした鈍い痛みの双方が同時に襲い掛かってくる。

 そんな最悪な感覚にふと、目を開いた。

 目を開いて初めて自分が今まで眠っていたことに気づきながら、飛び込んできた景色に混乱する。


(…は?どこだ…ここ…)


 夜なのか、部屋が暗いだけなのか。ぼんやりとした暖かみのあるオレンジの光が照らす室内は薄暗くほとんど様子がわからないが、部屋はかなり広そうで。
 見つめた先にある天井から垂れ下がる布に、これって天蓋付きベッドってやつ?うーわー初めて見た、と体を苛む苦痛から現実逃避気味に考えていると、不意に何かの気配が傍にあることに気づいた。
 首を動かして顔を向けることすら億劫で、どうにか視線だけで気配の方、自分の左へと視線を向けて、息を呑む。

 そこにいたのは、これまでお目にかかったことがないと断言できるほどの、秀麗な人間だった。

 ベッドに横になっている俺を見下ろすように、恐らく椅子に腰掛けているその人間は、眠っているのか腕を組んで目を閉じている。
 すっと通った鼻筋、伏せられた長い睫毛、引き結ばれた薄い唇。年は二十代後半くらいだろうか?嫌味なほど整ったパーツで完璧と言っていい美貌は、陽光を紡いだような癖のない見事な金糸の長い髪で彩られている。

(外国の神様っぽいよなぁ…目…何色だっけ……)

 体は激しく痛いし、熱もあるのかかなり怠い。そのせいか、思考はどうでもいいことばかりに割かれていくが、見知らぬ人間の寝顔を見つめながらぼんやりと思った。


きっとこの男の瞳は――――――


 その時、伏せられていた長い睫毛が震え、ゆっくりと開くその瞳と、目が合った。

 それはどこまでも深い、けれど光の加減で淡くも見える、不思議な紫水晶アメジスト


(あ、当たった……)


 その瞳が驚きに収縮するのを見つめながら、自分の予想が当たったことが嬉しくて、笑おうとして、次の瞬間襲ってきた激痛にひきつった喉から情けない悲鳴が零れる。


「カナタ!大丈夫か!?どこだ!?どこが痛む!?」


あぁ日本人離れした顔して言葉は流暢なんだな、と焦った声音すら耳に心地良い男へどうにか痛みをやり過ごしてから、もう一度視線を向ける。とりあえず、


「…ぜん、しん…いたい…、です……」


本当もうどにかしてくれこの痛み。その一心でそう告げてみた。ていうかここどこ?俺なんでこんな痛い思いしてんの?あれ?俺何してたっけ………?


「…っそれだけ話せれば大丈夫か……。この、馬鹿者が…魔力回路が酷い損傷を受けているのだぞ。痛くて当然だ。肉体の傷には回復魔法が効いたが、魔力回路はいつも通り自然治癒を待つしかない。誰よりもお前が一番よく知っていることであろう。

これにこりたら…っ少しは、私を頼れ…頼むから……!」


 苦々しく眉を寄せた男がそう口にした説教とも懇願ともとれる言葉は、はっきり言ってあまり理解できない。聞きなれない単語もちらほらあったし…。ただ一つわかるのは、なんか迷惑かけたんだろうなぁということで。


「えっと…ごめーわく、かけて…すみません、でした?……で…あの、ここどこ…ですか?」


痛い、痛いー、とにかく痛みの感覚が強すぎてもうマジ泣きしそうなのを必死に耐えながらそう言い切ったら、芸術品みたいな男の顔色が変わった。眉間の皺も消え去り、ただ呆然とその紫色の瞳が見開かれていく。
 そしてしばしの沈黙の後、小さくその口がかすれるような声音を生む。


「…お前の、名前と年は……?」

「…えと、……新堂奏多しんどうかなた、17歳の日本人です。……あの、親は…ここ来てます?なんか……えと……ごめーわく……」


ご迷惑おかけしてすみません、は17年間で言い慣れた台詞なのに掠れた喉が音を上手く出せない。それがなんだか情けなくて、体もいよいよ我慢の限界を超えて痛くて、本当なんでこんな目に合ってるのかと不安と焦燥で一気に視界が滲み始める。


(ヤバい…泣く…)


マジで情けなさすぎる、と自己嫌悪が最高潮に達する直前暖かな手にそっと視界を覆われた。穏やかな闇の中で、どこまでも優しく、いっそ甘いとさえ言えるのではないかと思えるほどの低い声音が囁く。


「何も迷惑ではない。今は何も考えずに眠ればいい。

 ここなら私がいる。必ず傍にいる。だからゆっくり眠れ。怪我が少しでも治ってから話をしよう。


 必ず、守る。」



 まるで誓いを立てるような言葉が静かに響く中、急速に意識はまた闇へと呑まれていった。








 俺はこの世界に迷い込んだ異世界人で、知られているだけでも既に500年ほどはこの世界で不老のまま生きていて、しかも《黒の殲滅者ルシフェリア》や《魔導の頂点レグ・レガリア》などの恥ずかしすぎる二つ名を持つ、神にも等しき最高位魔術師だと知らされたのは、それから三日後の事だった。



……………夢オチじゃないの?これ。マジで。






しおりを挟む
感想 35

あなたにおすすめの小説

聖獣召喚に巻き込まれた俺、モフモフの通訳をしてたら冷徹騎士団長に外堀を埋められました

たら昆布
BL
完璧っぽいエリート騎士×無自覚な愛され系

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。

はぴねこ
BL
 高校生の頃、片想いの親友に告白した。  彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。  もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。  彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。  そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。  同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。  あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。  そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。 「俺もそろそろ恋愛したい」  親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。  不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

もふもふ獣人に転生したら最愛の推しに溺愛されています

  *  ゆるゆ
BL
『もふもふ獣人転生』からタイトル変更しました! 白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で息絶えそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 本編、完結済です。 魔法学校編、はじめました! リクエストのお話や舞踏会編を読まなくても、本編→魔法学校編、でお話がつながるようにお書きしています。 リトとジゼの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントなくてもどなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! 第12回BL大賞さまで奨励賞をいただきました。 読んでくださった方、応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうにありがとうございました! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...