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0.目が覚めた
しおりを挟む痛い。
とにかく痛い。体中が痛い。全身にくまなく針でも刺したかのような鋭い痛みと、火傷後のようなじくじくとした鈍い痛みの双方が同時に襲い掛かってくる。
そんな最悪な感覚にふと、目を開いた。
目を開いて初めて自分が今まで眠っていたことに気づきながら、飛び込んできた景色に混乱する。
(…は?どこだ…ここ…)
夜なのか、部屋が暗いだけなのか。ぼんやりとした暖かみのあるオレンジの光が照らす室内は薄暗くほとんど様子がわからないが、部屋はかなり広そうで。
見つめた先にある天井から垂れ下がる布に、これって天蓋付きベッドってやつ?うーわー初めて見た、と体を苛む苦痛から現実逃避気味に考えていると、不意に何かの気配が傍にあることに気づいた。
首を動かして顔を向けることすら億劫で、どうにか視線だけで気配の方、自分の左へと視線を向けて、息を呑む。
そこにいたのは、これまでお目にかかったことがないと断言できるほどの、秀麗な人間だった。
ベッドに横になっている俺を見下ろすように、恐らく椅子に腰掛けているその人間は、眠っているのか腕を組んで目を閉じている。
すっと通った鼻筋、伏せられた長い睫毛、引き結ばれた薄い唇。年は二十代後半くらいだろうか?嫌味なほど整ったパーツで完璧と言っていい美貌は、陽光を紡いだような癖のない見事な金糸の長い髪で彩られている。
(外国の神様っぽいよなぁ…目…何色だっけ……)
体は激しく痛いし、熱もあるのかかなり怠い。そのせいか、思考はどうでもいいことばかりに割かれていくが、見知らぬ人間の寝顔を見つめながらぼんやりと思った。
きっとこの男の瞳は――――――
その時、伏せられていた長い睫毛が震え、ゆっくりと開くその瞳と、目が合った。
それはどこまでも深い、けれど光の加減で淡くも見える、不思議な紫水晶。
(あ、当たった……)
その瞳が驚きに収縮するのを見つめながら、自分の予想が当たったことが嬉しくて、笑おうとして、次の瞬間襲ってきた激痛にひきつった喉から情けない悲鳴が零れる。
「カナタ!大丈夫か!?どこだ!?どこが痛む!?」
あぁ日本人離れした顔して言葉は流暢なんだな、と焦った声音すら耳に心地良い男へどうにか痛みをやり過ごしてから、もう一度視線を向ける。とりあえず、
「…ぜん、しん…いたい…、です……」
本当もうどにかしてくれこの痛み。その一心でそう告げてみた。ていうかここどこ?俺なんでこんな痛い思いしてんの?あれ?俺何してたっけ………?
「…っそれだけ話せれば大丈夫か……。この、馬鹿者が…魔力回路が酷い損傷を受けているのだぞ。痛くて当然だ。肉体の傷には回復魔法が効いたが、魔力回路はいつも通り自然治癒を待つしかない。誰よりもお前が一番よく知っていることであろう。
これにこりたら…っ少しは、私を頼れ…頼むから……!」
苦々しく眉を寄せた男がそう口にした説教とも懇願ともとれる言葉は、はっきり言ってあまり理解できない。聞きなれない単語もちらほらあったし…。ただ一つわかるのは、なんか迷惑かけたんだろうなぁということで。
「えっと…ごめーわく、かけて…すみません、でした?……で…あの、ここどこ…ですか?」
痛い、痛いー、とにかく痛みの感覚が強すぎてもうマジ泣きしそうなのを必死に耐えながらそう言い切ったら、芸術品みたいな男の顔色が変わった。眉間の皺も消え去り、ただ呆然とその紫色の瞳が見開かれていく。
そしてしばしの沈黙の後、小さくその口がかすれるような声音を生む。
「…お前の、名前と年は……?」
「…えと、……新堂奏多、17歳の日本人です。……あの、親は…ここ来てます?なんか……えと……ごめーわく……」
ご迷惑おかけしてすみません、は17年間で言い慣れた台詞なのに掠れた喉が音を上手く出せない。それがなんだか情けなくて、体もいよいよ我慢の限界を超えて痛くて、本当なんでこんな目に合ってるのかと不安と焦燥で一気に視界が滲み始める。
(ヤバい…泣く…)
マジで情けなさすぎる、と自己嫌悪が最高潮に達する直前暖かな手にそっと視界を覆われた。穏やかな闇の中で、どこまでも優しく、いっそ甘いとさえ言えるのではないかと思えるほどの低い声音が囁く。
「何も迷惑ではない。今は何も考えずに眠ればいい。
ここなら私がいる。必ず傍にいる。だからゆっくり眠れ。怪我が少しでも治ってから話をしよう。
必ず、守る。」
まるで誓いを立てるような言葉が静かに響く中、急速に意識はまた闇へと呑まれていった。
俺はこの世界に迷い込んだ異世界人で、知られているだけでも既に500年ほどはこの世界で不老のまま生きていて、しかも《黒の殲滅者》や《魔導の頂点》などの恥ずかしすぎる二つ名を持つ、神にも等しき最高位魔術師だと知らされたのは、それから三日後の事だった。
……………夢オチじゃないの?これ。マジで。
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