異世界で記憶喪失になったら溺愛された

嘉野六鴉

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7.多分慣れる前に止まる

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 誰だよ、年上だからってちょっと調子乗った奴……。数十秒前の俺だよ!
つい頭カーっとなったまんま勢いでキスしたまではいいよ?俺だって男だ。好きな相手にくらい、自分からキスする度胸はある。
ある、ことにはあるんだけど、ちょっとこれは待った!なんで俺の事まだ離してくれないの?あれ?俺がロイの顔を捕まえてキスしたよな?いつの間に逆になったんだ?!なんで俺の後頭部がっちり掴まれてるわけ!?あと、そろそろ首が痛い!!

そーれーかーらー、なんで即ベロチューになってるんでしょうかねぇええぇ!!?

「うんぅっ……!むぅ…んんっ……!!」

 思わず逃げを打った舌先を吸い上げられたかと思えば、上顎の内側を舐められたりと、経験値が違いすぎて固まった俺はろくに反応できない。そのまま散々好き勝手されるうちに、背筋が小さくぞくりと粟立つ感覚が…。
ちょ、ちょっとコレ一旦タイム。もう心の中だけでも年上ぶりません、情けなくていいんで、ほんとちょっとたんまッ!
 そう胸の内で泣きを入れながら、ロイの肩口にしがみついていた手を伸ばして金色の尻尾をグイグイと引っ張る。そこまでして、ようやく長いキスが終わった。

「ぷはっ……ロィイ?初心者にえげつなっ

「カナタ。愛している。すまぬ、もう無理だ。」

俺だけ乱れていた呼吸を整えつつ、そう抗議しかけたところで、ひょいっと膝を掬われ手本のようなお姫様抱っこをされる。そのまま常にない早足でロイが向かう先は、俺の巣と化しているあの天蓋付きの大きなベッドで。

「え?ちょ……?え?……えぇえ??」

 俺だって別にカマトトぶるつもりはない。男が好きな相手をベッドに連れ込んだら、やることは一つだろ?でもな、ちょっと待とう。
告白して速攻この展開ってどうなんですかねぇ!!?ロイにしてはがっつき過ぎじゃないか!?あのいっつもスマートに、人の気持ちの一手も二手も先を読んでくれる男がだよ?!
 あわあわと言葉にならない何かに俺が口を開けたり閉じたりしてる間にも、あっという間に背中からベッドに降ろされてしまう。

そして、閉じ込めるように俺の顔の横へ両腕をついたロイに、見下ろされる。

「お前がいいと言うまでは何もしない、と言ったが撤回する。嫌でないなら、カナタに触れたい。」

「…あぁ確かにそんなこと言ってた皇帝陛下がいたよな。でもその前にもキスされた気がするんですけど。」

自分の鼓動の音が、頭の中から聞こえてくるような状態を誤魔化したくて、そんな茶化すような受け答えをしてしまう。それでも、ひたと見据えてくる深い紫色が湛える光は、剣呑なほど強くて。
 彼の眉間に刻まれた深い皺は、きっと俺が「嫌だ」と言えばこの場を流す覚悟のためだろうか。皇帝だなんて偉い立場にいるのだから、少しくらい強引になったって不思議ではないのに。

こんな時まで、俺の事を優先して考えてくれているのかと思ったら――……


「頼む、カナタ。許すと言ってくれ。」

「…っ……ロイなら、いいよ。好きだって、言ったじゃんむぅっ!」


羞恥を乗り越えて、なけなしの度胸で応えた俺の言葉は最後まで続くことなく、あっという間にロイに飲み込まれていった。


 それからの事は、色々ぐちゃぐちゃになって覚えていない、と俺は主張したい。
 いや、本当信じられないことにあの後キスだけでわけわかんなくなって、動揺からマジ泣きしかけたところまでは覚えてる。
魔力の相性がどうのこうのというロイのファンタジー説明を受けてやっと、あ、ならこれでいいのかと開き直ったら…………うん。

な ん か す ご か っ た 。

 ロイの色気は半端ないし、素肌で何度もぎゅってされるのが気持ちいいし、最初から最後まですんごい優しくしてくれて、俺初めてなのにもう脳みそ溶けてんじゃないかというくらいふわふわのどろどろで…………と昨夜の記憶を覚えている限り反芻している俺は今、ロイの横で頭からシーツを引っ被って丸まっている。だって、だってな?

「では、お食事はまた後程こちらにお持ちしましょう。イングレイド閣下、ジルス閣下には、本日の御茶会は非開催とお伝えいたします。」

「それでよい。残りの執務は全てセネルへ回しておけ。」

「承知いたしました。それではごゆるりとお休みくださいませ。陛下、シン様。」

 そう、所謂いわゆる朝チュン、美しく言えばザ・後朝きぬぎぬの朝。
 同じベッドに寝そべるロイの綺麗な顔のドアップと、甘く蕩けた紫色の瞳が寝ぼけ眼に飛び込んでくるという強すぎる刺激に、心臓がまた大きく飛び跳ねた。だというのに、それが落ち着く間もなく侍従のファイが「おはようございます」とやって来たわけだ。
 いつもなら、俺を起こしに来るのはロイだったからな。何があったかはわかってますよ、という優しい微笑みで降臨した兎爺様と目が合った瞬間、俺はベッドの中に逃避した。
俺が寝落ちした後にロイが色々してくれたのか、体もシーツもさらりとはしているが、だからと言ってこの状況で「ファイおはよう」と言えるほど俺の心臓は強くない!!まだ素っ裸なんだよ!!それになんかファイの声がいつもより愉し気だしな!?

 そうして俺が羞恥に悶えている間にも、さっさとファイは退室していったらしい。パタン、と俺に聞かせるように扉が音を立てて閉められてすぐ、ロイの低く心地良い声が頭上から降ってくる。

「カナタ、そう愛らしいことをされると、このまま貪りたくなってくるのだが?」

「っっそれはなしッ!ご飯、朝ご飯来るってファイ言ったッ!!」

 不穏な言葉に思わずガバッとシーツを被ったまま上半身を起こすと、そこには彫刻のような均整の取れた美しい半裸を晒す皇帝陛下が腕をついた横臥で、もう昼近いがなと微笑しておられました。

…………明るい所で見ると破壊力半端ないわ鼻血出そう。同じ男なのに……。

なんなの?ロイって着やせするタイプ?脱いだら凄いってファンタジーじゃなかったのか?あ、ここファンタジーな世界だったわ。
解かれた長い金糸の髪は寝ぐせとは無縁らしく、白いシーツにさらりと流れるのがやけに目についた。

「あぁ、もう薄れてきているな。これは少しばかり、惜しい気になる……」

 ちろりと纏う光を変えた紫色が、俺の首元や胸元を眺めていることに気づき、昨夜散々吸われたり甘噛みされたのを連鎖的に思い出した瞬間、ほぼ無意識にバッとシーツで首元まで覆ってしまった。俺は乙女か……!自分の行動がキモイんだけど!!!
 おそらく首まで真っ赤になってあたふたしている俺に、喉の奥でくつくつと笑ってから、ロイもようやく体を起こす。剥きだしの肩口を滑る髪がキラキラと光って、本当に俺なんかよりよっぽど神様っぽいんだけど。

「こうして恥じらうカナタを堪能できるのも今のうち、かもしれぬな?」

これからどうせ慣れる、とそうのたまう綺麗な笑みに俺は絶句した。まさか、もしかして、これが日常になるのかと。

「なぁ?カナタ。」

 わざと小さな音を立てた触れるだけの接吻キスに、俺はようやく昨日の自分がかなり早まったことをしでかしたのではないかと思い至った。
 目覚めた最初ときからただでさえ俺に甘かったロイが、ここにきて更にどろどろの甘々になっている。こんな状態が通常運行されたら、俺の心臓はそのうち止まるんじゃないか?事実、昨夜から酷使されていた心臓は、今もまた早鐘を鳴らすように動き続けている。

これ、慣れる日なんて本当に来るのか?




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