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12.多分流されてる
しおりを挟むペネリュート・ラインド・カロディールと再度名乗ってくれた爽やかな青年は、イルレンキ大陸にある鳥の獣人を主としたカロディール王国の国王陛下だった。
海を隔てた別大陸から僅か二名の供回りのみで、このヴェルメリア皇国に《魔導の頂点》の安否確認のためだけに、やって来たそうだ。
しかし皇国からは世界に向けて、俺の意識が昏睡から戻ったことと回復が進めば一度公式の場に出る、今は静かに療養中、という情報が既に発表されていたらしい。
それでもこの鳥の王様が居ても立っても居られずに、なぜ突撃してきたかというと、記憶を喪う前の俺が使っていた魔術が原因だったようだ。
なんでも、三大陸中に張り巡らされているという《魔導の頂点》の情報網魔術があり、強大な魔物の出現動向や魔術師の才能を持つ者が見当たらないか、一方的にだが『選抜者』と呼ばれる者たちへと定期的に連絡を入れていたらしい。
この『選抜者』だが、俺にとっての特別お気に入りの人間、という意味になるそうだ。
愛弟子であるというロイを筆頭に、他国の王たちやそれに近い立場の者から、世界を股にかける商人や《魔導の頂点》を信奉する集団のまとめ役、果てはただの一般人までいるそうな。
ただし、俺が記憶喪失になっていることは、その中でも極一部にしか知らされていないらしい。
これはロイが色々と世界情勢を見て判断した結果と言っていたため、俺がどうこう言えるものではないし不満もない。むしろお手数おかけして、と言うところだ。
そしてその知らされていないグループに、ペネリュート王は入っていたわけで。
《魔導の頂点》は意識が戻っているはずなのに、もう二か月以上も直接連絡が来ない。皇国には何を聞いても、ただ時を待てとの返答のみ。
もしや負傷が原因で魔術を使えない程弱っている?
いやいや、《魔導の頂点》の回復力ならそれは有り得ない。
ならば、怪我で弱っている所に何らかの強制魔術を受けて外部との連絡を絶たれている?いやいや、《魔導の頂点》相手にそんな恐ろしい真似をできる人間が……………………一人だけいるじゃねぇか、しかも皇国の君臨者本人だし。
と彼は思い至ってしまったらしい。
「ヴェルメリア帝の《魔導の頂点》への執心ぶりは有名であったうえに、魔術師としても《魔導の頂点》に次ぐ強者。
負傷で昏睡という弱っている状態であれば、何らかの影響を与えることもできるやもしれぬ、と思い至り…。もはやこの目で確かめるまで翼を畳むことなどできるはずもなく、転移魔法と翼で海と空を駆け、上空から怪しい箇所を窺っていたところ、やけに強固すぎる結界が不意に内部から破られ、そこに御身を見つけたゆえ……」
「あー……俺が軟禁されてて自分から丁度脱出しようとしてます、って状況に見えたわけですか・・」
しかも地面に直接寝転んでいたり、動きやすいからと着てた服が寝間着の延長みたいな簡素な物だったから、余計に不遇な扱いを受けてますアピールになっていたと。
そろそろ服装気を付けるか。物は多分最高級品だと思うんだけどなぁ、これ着心地抜群だから愛用してるのに。
それから、多分俺が壊したアレ、やっぱり結界って呼ぶような代物だったのか。これもまた後で誰かに教えてもらおう。あと、別大陸でも有名なロイの俺への執心ぶり?もちょっと聞きたいような、聞きたくないような。
そんなことを考えていると、口調に気を遣いながらも「御前での騒ぎ、誠に申し訳なかった」とすまなさそうに眉を下げるペネリュート王に、こっちも紛らわしくてすみませんと頭を下げようとしたら、ロイに横から制止される。
「カナタがこの若造に頭を下げる必要などない。敬語も敬称も当然不要だ。そこまで《魔導の頂点》の容態が気になるのなら、皇国ではなく直接私に問えば良いだけのこと。
いかなる理由があろうとヴェルメリア皇宮、それも我が宮へ直接舞い降りる無礼、到底許されるものではない。」
「確かに非礼はこちらにある、そこは昨日同様繰り返し詫びを入れよう。だが、そもそもヴェルメリア帝が《魔導の頂点》を囲い込もうとしているのが問題ではないのか?
情報を開示し皆で知恵を出し合えば、早急にご記憶を取り戻す術も――――」
そう苛立たし気に背の翼を僅かに羽搏かせた獣人の言葉が終わる前に、部屋の温度が一気に下がった。冷気の発生源は当然、俺の隣からだ。
そして放たれる、低くどこまでも硬質で抜き身の刃のような威圧感伴う、彼の声音。
「貴様のように、無理矢理記憶を取り戻させようとする輩が、必ず現れる。だからこそ、情報を秘匿しているのだ。
《魔導の頂点》である前に、彼は一人の人間だ。それを忘れるな。」
息を呑むことすら困難なロイからの威圧感に、応接室内にいる誰もが多かれ少なかれ顔を青ざめさせていた。そんな中、場違いにも俺の心を占めたのは嬉しさだった。
ロイは言った。この世界は、俺にとって悪意に満ちていた、と。
言葉は濁したが、死んでいた方がマシだと思うような目に遭っていた、と。
俺はこの世界を憎んでいた、と。
そんな記憶を、想いを持ち続けて、500年以上もウルスタリアで生きていた俺は、幸せだったのだろうか。
多分、なんとなくだけど、無理だったと思う。
俺の事は俺が一番よくわかっている。
元の世界でのどうしようもなかった現実がふと脳裏によぎる度、未だに不安で溺れそうになるくらいなのだ。ここでは、この世界では、こんなにも俺を必要として、しかもそれだけじゃなくて、愛してくれる人までいるというのに。
そんなメンタル弱めの俺が、《魔導の頂点》の記憶を思い出したら、きっとこんな思考をする今の俺は、異世界に迷い込んだばかりの17歳の新堂奏多は、消えるんじゃないかな。
だからロイは、『俺』を守ってくれているのだ。
この世界で『俺』が初めて目覚めた、あの日からずっと。
思えば、ロイは今日まで一度たりとも俺に「記憶を取り戻せ」とは言わなかった。過去の俺のことを、必要以上に教えようともしなかった。それなのに、俺が聞きたいと望めば、その都度ちゃんと答えてくれる。
本当に、ロイは俺の事を大切に大切に想ってくれているんだなぁ。
「…ふ…ははっ……」
なんて、嬉しさが満たした胸がほわりととても温かくなったから、思わず笑ってしまっていた。
向かいの席で、これでもかと見開かれたペネリュート王の空色の瞳がちらりと視界に入ったけれど、それよりも体ごと俺に向き直ったロイが、まるでさっきの威圧が嘘だったかのように穏やかな声音で「どうした?」と聞いてくれるから。
「うん、ロイが好きだなぁって。」
そうぽろりと、本音が口から零れてしまう。
でも体の中から満ちていくような温かさに、俺はとてもふわふわしていて、いつものように綺麗に微笑んだロイに抱きすくめられるのを、そのまま甘受した。
包み込まれた暖かさも、胸の奥から体中に伝わる温かさもとても心地よくて、そっと目を閉じたら抗いようのない睡魔がやって来て……あれ?俺ここで寝落ち?嘘だろ―……何のために、この人数集め、て…話し合い……
なんて思考がばらばらになっていく中、もういいかと意識を手放した。優しすぎるこの腕の中がいけない、そう責任転嫁をしながら。
……………これってやっぱり流されたうちに入る、のか?え?どっち?!
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