クロスタイムラビリンス -cross time LABYRINTH- 〜刻の迷宮と不思議なダンジョン〜

タナ

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第Ⅰ章

第4話 

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 クルアから報告を受けた国王の顔は青ざめた。
「セイラが消えた!?」
「はい。姫様の部屋に発生した謎の渦に巻き込まれ、吸い込まれてしまいました…。私の力不足です。申し訳ございません」
「いや…ラグナとユンが無事だっただけよしとしよう。よくやってくれた」
 国王はクルアを褒めた。
 とは言え、実の娘が消えたのだ。王の声は震えていた。
「して、ラグナよ。その渦とやらはどんな見た目をしていたのだ?」
「あ、あれか?七色の光を出しながら、中心に向かって渦を巻いていた…セイラを吸い込む瞬間は白い光を発して消えていった…」
「七色の光…?」
「七色の光といえば、エルリア神話の四賢者の物語を彷彿させますね…」
「四賢者?」
 ラグナが問うと、ユンが答えた。
「英雄エルリアの冒険譚の最終章に出てくる四人の賢者のことだよ。かつて魔王が古代エルリア王国を封印しようとしたとき、エルリアはたった一人で魔王に立ち向かった。でも、強大な力を持つ魔王には勝てなかった…」
「で、英雄エルリアと古代エルリア王国は封印され、結局人類は滅亡したってわけか」
「そう。でも、魂となってこの世を彷徨っていたエルリアは、自ら冥界に向かい堕天して、"闇"の一員となって魔王に戦争を仕掛けた」
「それが、第一次時空冥界決戦…」
「そう。エルリア率いる冥界軍は一時劣勢だったけど、72柱と堕天使たちを味方につけ、1年に渡る戦争ののち勝利したの」
「おいちょっと待て、さっきの話のどこに四賢者の要素があったんだ?」
「堕天使だよ」
 今度は国王が答えた。
「冥界軍に味方した堕天使達の中には、かつて世界樹の守り人として活躍した四賢者もいた。そう、彼らもまた魂の状態で堕天したというわけだ」
「で、その四賢者がどうしたっていうんだ?あの渦と、どんな関係が…」
「戦争は熾烈を極めた。両者一歩も引かぬ状態で半年が過ぎた。このままでは埒が明かないと思ったエルリアは、四賢者にあることを頼んだ」
「あること?」
 国王は息を整え、真剣な眼差しで答えた。
「それは、刻の迷宮の創造だ」
「と、刻の迷宮!?」
 ラグナだけでなく、ユンやクルアまで驚いていた。
「と、刻の迷宮って…」
「そうだ。時を司り、空間を操り、この世すべての世界線及び時空を支配する、いわば人類の"究極の楽園エターナルエデン"…」
「で、でも!刻の迷宮はエルリアによっては破壊されたはずじゃ…?」
「お、おいユン!だったら、エルリアは自分が作らせたものを自分で壊したっていうのか!?」
「神話では、確か魔王を封印するための施設として作られたが、魔王が封印を二度と解かないよう、迷宮ごと破壊したと記されているが…」
「みんな落ち着くのだ」
 国王がみんなをなだめる。
「確かに神話にはそう描いてある。しかし、所詮そんなものはどこの誰かが各地の伝承をまとめて作っただけのものだ。本当のエルリア神話、もといエルリア史は王家にしか伝わっておらんのだ」
「それじゃ、刻の迷宮は破壊されてないのか?」
「まず四賢者は迷宮を創造する前に魔王を封印する術を開発した。それが、光の渦なのだ」
「じ、じゃあ、あの渦はその四賢者が作り出したものだっていうのか!?」
「断定はできん。ただ、もし封印の力が弱くなっていたとしたら…」
「ま、まさか…」
「魔王は、セイラの体を乗っ取るつもりなのかもしれん」
 ラグナは絶句した。
 なぜ?なぜセイラが魔王の標的に…。
「お、王様!どうすればいいの!?」
 ユンが食い気味に聞いた。
「……セイラを救う術が、ないこともないのだが…」
「何なんだ!何をすればいいんだ!?」
「まあ慌てるでない、ラグナよ。今から私が言うことは、一歩間違えればセイラを救えないどころか、二度とこちらの世界に戻ることができなくなるものだ」
 ラグナは息を飲んだ。
「王様、一体どんな…」
「ユン。それにラグナ。これは遊びでも、空想でもない。生半可な覚悟じゃ…」
 国王は冷酷に、そしてはっきりと言い放った。

「死ぬぞ」

「…はっ」
 ラグナは思わず口から笑みがこぼれた。
「死ぬ?はっ、バカバカしい。死ぬからどうだって言うんですか」
「お、おいラグナ…お前は何を言っているんだ…?」
 クルアが困惑して言う。
 ラグナは力強く宣言した。
「王様、俺が死ぬと思いますか?昔あんな目にあっといて、しかもそこから這い上がってきたんですよ?そんな奴がたかが魔王程度で死ぬとお思いですか?」
「…フッ。それもそうだな」
 王は笑った。そうだ、この少年は一度あの地獄から死にものぐるいで這い上がってきたような奴だ。たかが魔王──それもその通りだと思った。
「わ、私も!ラグナがやるなら!」
 ユンが慌てたように言う。
「おいユン、お前は女なんだぞ?マジで死ぬかもしれないんだぞ?俺が行くからって大丈夫なのか?」
「だ、大丈夫だよ!友達が危険な状態にあるのに、悠々と生活してられないよ…」
「私も行かせてください。二人だけだと心配なので…」
 クルアが言った。
「うむ。セイラが消えたことは、国民には知らせない。混乱を起こしたくないからな」
「ユン、両親に伝えなくていいのか?」
「お父さんは騎士団だから、王様、伝えといてくれませんか?」
「わかった。そこらへんは私がうまくやろう。いいか3人とも、これは極秘の計画だ。決行は明日。くれぐれも口外するんじゃないぞ」
「わかってるよ。で、王様、その『救う術』ってのはなんなんだ?」
「おお、それをまだ伝えておらんかったな。……」


★★★


「なあユン。お前、本当にいいのか?」
「え?何が?」
「何がって、そりゃ明日からのことだよ。もしかしたら、永遠に両親と会えなくなるかもしれないんだぞ?」
ユンは一瞬黙った。しかしすぐに顔をあげて微笑んだ。
「…いいんだそれは。私はもう弱虫なんかじゃないし、それに…」
 ユンがラグナの方を向いて言った。
「ラグナがいるでしょ?」

 二人はしばし見つめ合っていた。というよりも、ラグナが目を離せなかったのだ。
「ど、どうしたのラグナ?」
「い、いや、なんか、ユンもそんな顔するんだな、って」
「なに、笑っちゃいけないの?」
「いやそういうことじゃなくてな…」
 ラグナは照れながら言った。
「すごい、乙女みたいだった」
「はあ?そりゃ女の子だもん。女の子なら、誰だって乙女だよ」
「頭痛が痛いって感じの言葉だったな」
「ぶ、文法は苦手なの!」
「多分それ文法の問題じゃねえよ…」
 二人は明日からの日々に想いを馳せた。

 百年祭は、まだ始まったばかりだ。
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