4 / 30
3話 氷の教室
しおりを挟む
長かったはずのホームルームが終わって、休憩時間になった。
チャイムが鳴って号令が済むと、待ってましたと言わんばかりに女子達が平本の席へ集りだす。
平本が周囲に助けを求めるような視線を送るが、どうやら誰も助けてはくれなさそうだ。
というか、女子もあんな質問責めにすることないだろ……。
「ねえいつから回復してたの?」
「久しぶり!私のこと覚えてる?」
「それよりなんで連絡くれなかったのよ!」
「ラインも既読スルーだし、ひどいよ!」
「今まで何してたの?勉強大丈夫?」
なんというか、平本も気の毒だな。復活明けなんだからもっとそっとしといてやれよ。
平本も「えっと」とか「あの」とかを連呼していて困っている様子だ。
それよりも、なぜ中田先生は平本のことを「転校生」などと呼んだのだろう?普通に平本が再登校してくると言えばいいじゃないか。
「あの、すみません」
平本がそんなことを言った。ちょっと怯えているようにも聞こえる。まあそりゃそうだろう、あんな囲まれてひるまないほうが──
「あなたたちは、一体どなたなのでしょう?」
平本が呟いたその言葉は、声は小さくともクラスの空気を凍りつかせるのに十分だった。
-------------------------
「簡潔に言って、平本は記憶喪失だ」
中田先生が静かに告げると、クラスからは小さなどよめきが起きた。
クラスが凍ったあの休憩時間の後、結局女子達が平本の元から去っていくことで騒動は終わった。
しかしあの後、1時間目になるまでの間、教室にはずっと気まずい雰囲気が終始漂っていたのは言うまでもない。
今は、中田先生が空気を察して平本を別室に連れて行っている。
「まあ、なんだ。あいつが学校に来なくなったのは色々あってな。溜め込みすぎて自分のキャパシティをオーバーしてしまったんだろう」
中田先生が言う。
「よくあることらしい。過度にストレスを溜めすぎると脳に負担がかかって記憶喪失になりやすいって聞いたこともあるしな」
はあ、と先生がため息をつく。
「て訳で、あいつは今記憶を失っている。自分の名前と家族以外のことは本当に何も覚えていないんだとよ。勉強とかはあまり支障がないらしいが、色んなところで障害があるだろうから、みんな助けてやってくれ」
教室は依然として沈黙が続く。張りつめた空気がクラス中を支配している。
恐らくこの空気の中心にいるのは浅田だろう。さっきから殺意の込もった視線感じるし。
「ま、そういうことだ。みんな頼むよ」
中田先生は一瞬俺の方を見て困ったような顔をした、ように見えた。
チャイムが鳴って号令が済むと、待ってましたと言わんばかりに女子達が平本の席へ集りだす。
平本が周囲に助けを求めるような視線を送るが、どうやら誰も助けてはくれなさそうだ。
というか、女子もあんな質問責めにすることないだろ……。
「ねえいつから回復してたの?」
「久しぶり!私のこと覚えてる?」
「それよりなんで連絡くれなかったのよ!」
「ラインも既読スルーだし、ひどいよ!」
「今まで何してたの?勉強大丈夫?」
なんというか、平本も気の毒だな。復活明けなんだからもっとそっとしといてやれよ。
平本も「えっと」とか「あの」とかを連呼していて困っている様子だ。
それよりも、なぜ中田先生は平本のことを「転校生」などと呼んだのだろう?普通に平本が再登校してくると言えばいいじゃないか。
「あの、すみません」
平本がそんなことを言った。ちょっと怯えているようにも聞こえる。まあそりゃそうだろう、あんな囲まれてひるまないほうが──
「あなたたちは、一体どなたなのでしょう?」
平本が呟いたその言葉は、声は小さくともクラスの空気を凍りつかせるのに十分だった。
-------------------------
「簡潔に言って、平本は記憶喪失だ」
中田先生が静かに告げると、クラスからは小さなどよめきが起きた。
クラスが凍ったあの休憩時間の後、結局女子達が平本の元から去っていくことで騒動は終わった。
しかしあの後、1時間目になるまでの間、教室にはずっと気まずい雰囲気が終始漂っていたのは言うまでもない。
今は、中田先生が空気を察して平本を別室に連れて行っている。
「まあ、なんだ。あいつが学校に来なくなったのは色々あってな。溜め込みすぎて自分のキャパシティをオーバーしてしまったんだろう」
中田先生が言う。
「よくあることらしい。過度にストレスを溜めすぎると脳に負担がかかって記憶喪失になりやすいって聞いたこともあるしな」
はあ、と先生がため息をつく。
「て訳で、あいつは今記憶を失っている。自分の名前と家族以外のことは本当に何も覚えていないんだとよ。勉強とかはあまり支障がないらしいが、色んなところで障害があるだろうから、みんな助けてやってくれ」
教室は依然として沈黙が続く。張りつめた空気がクラス中を支配している。
恐らくこの空気の中心にいるのは浅田だろう。さっきから殺意の込もった視線感じるし。
「ま、そういうことだ。みんな頼むよ」
中田先生は一瞬俺の方を見て困ったような顔をした、ように見えた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる