俺のせいで不登校になったクラスの美少女が記憶喪失になって再登校してきた件

タナ

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28話 役者は揃ってなどいなかった

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 何度問いただしても一向に口を開かないから、俺はついにそのまんま質問してみた。

 「おい平本。はっきり言うけど、お前、記憶喪失じゃねえだろ?」

 すると、保健室の空気が凍った。氷の教室の再来だった。

 しばしのエンジェルタイムの後、平本はやっと、その重い口を開いた。

 「わ、私は、」

 それは、教室の位置を教えたときとは全く違う、俺が知ってる平本の口調と声色だった。

 「私は…記憶喪失、だから…その、よく、覚えてなくて、」
 「嘘だ。お前は記憶喪失なんかじゃない。記憶喪失であるはずがないんだ。お前は嘘をついている。そうだろ?」
 「ち、違います!」

 平本が叫ぶ。

 「私は、何もわからなくて、何も知らなくて…だから、普通の人とは違って見えるから…」

 消え入るような語尾で話すと、再び俯いて黙り込んだ。

 「平本。お前、本当にこれでいいのか?」

 俺は大分優しい口調で語りかける。

 「お前の友達を、心配してくれている人たちを全員騙してまで、お前はあと2年を過ごしたいのかよ。浅田なんてその筆頭だし、お前の危険に一番早く気づいた松原だってそうだ。中田先生だって、川本先生だって、よくわかんねえけど徳丸だって本当はお前のことを心配してるはずだ。井藤や田中さえもお前のこと話してたんだぜ」

 平本は終始黙ったままだが、表情は曇っていた。

 「いつぞやの有名なドラマに『逃げるは恥だが役に立つ』っていうのがあったろ。知ってるかもしれないが、あのタイトルの元ネタはハンガリーの有名な諺なんだ。確かに、この言葉どうり逃げってのは役に立つ。一番手っ取り早い現実逃避の方法だし、簡単で便利だ。だけど、今お前がやってることはなんだ。それは逃げじゃなくて欺瞞だろ?欺瞞。詐欺、騙り、嘘。今のお前にはこれらの言葉がよーくお似合いだ。記憶喪失でもないのにそれを装って、他人から同情を。まるでミュンヒハウゼン症候群だ。ん、でも病気じゃないから違うか?いやでも心因性の健忘だと考えれば…まあいいや。とにかく、お前は記憶喪失じゃなくて、それをただ演じてるだけだ」

 半ばまくしたてるように言う。

 「これは俺からの忠告だ。さっさとそれ止めとかないといつか絶対ボロが出るぞ?今すぐにでもやめるべきだ。さもないとまるで…」

 そこまで俺が言うと、後ろにあったドアが勢いよくバン!と開いた。あまりにも大きい音だったから、反射的にビクぅッ!と体が唸った。
 なんだよ誰だよノックぐらいしろよと半ギレで振り返る。

 すると、そこには。

 「お、おいおい…」

 俺も予期してなかった来客がいた。

 「浅田、さん…」

 平本は驚愕の表情を浮かべた。
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