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出逢い そして救出
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蒴也の自宅マンションに到着した車はエントランスの前に横付けされた。
駐車場に入るよりもエレベーターまでの距離が短いため、吾妻が麻生に指示したのだろう。
いつもなら、その場所にはいないはずの護衛の若衆が既に何人か待機していた。
助手席から降りた吾妻は自動車周辺とエントランス周辺に鋭い視線を向け異常がないかを確認すると、漸く後部座席のスライドドアを開ける。
若衆等の視線は少年に向けられることなく、蒴也の周辺を固める。
ほんの数メートルであっても、蒴也が危険に晒されぬよう統制の取れた動きは、吾妻や他の幹部の教育の賜物だろう。
前を歩く吾妻に着いて少年を横抱きにしたままエントランスをくぐり、吾妻がコンシェルジュに軽く一礼し、この後の佐伯と菜々子の来訪を告げている。
専用エレベーターに続く通路は誰もが立ち入れるエントランスとは重厚な自動ドアで隔てられている。
その自動ドアは予め指紋認証の登録をした蒴也と吾妻、それと数人の幹部のみが通行を許されている。
従って若衆の立ち入れるのは今はエントランスまでだ。よほどのことがない限り25階への専用エレベーターから先は限られた人間しか立ち入ることはできないのだ。
それでも警戒を怠らない吾妻は更に設置されているエレベーターの指紋認証に指を翳し先に乗り込む。
中に異常がないことを確認して蒴也を中へと促し25のボタンを押した。
意識のない少年を除けば、蒴也と吾妻2人だけの空間である。
溜め息をついた吾妻が少年を一瞥し蒴也に問う。
『急にどうしたんだよ。その子どうするつもりなんだ?』
急にどうしたのか。
この少年をどうするつもりなのか。
蒴也自身、答えを持っていないのだ。答えられるわけがない。
答えない、いや答えられない蒴也に向かって、もう一度大きな溜め息をついた吾妻は
『とりあえず佐伯に診せてからだ』
何も答えの出せない状況で吾妻が出した1つの答えは少年を慮るものだった。
蒴也の居住スペース25階に止まったエレベーターから吾妻が降りる。
ここまで上がって来られるのはごく僅かな人間に限られていることを誰よりも解っているはずの吾妻は、それでも気を抜くことはない。
エレベーターから蒴也の部屋の玄関まで変わりないことを確認してから玄関を解錠する。
ドアを開けたまま待つ吾妻の横を通り抜け、そのままゲストルームへと足を向けた。
少年をベッドに下ろそうとしたところで
『蒴也ダメだ』
後ろから吾妻の声がかかる。少年を包んだ毛布は清潔で乾いたものだったが、あのアパートの浴室でびしょ濡れの少年を抱き上げたせいで、蒴也自身のスーツが水を含んでいた。
厚い毛布は少年を包んだ内側までは水を通してはいないようだが、毛布ごとベッドに下ろすことは憚られた。
ベッドの掛布の上半分を捲った吾妻は、毛布を剥いで裸の少年を寝かせろと言う。
吾妻から少年を隠すように裸の少年をベッドに下ろし、すぐに掛布を肩までかける。
吾妻は、この時既に気付いていた。蒴也自身が気付いていない少年に対する蒴也の感情に。
駐車場に入るよりもエレベーターまでの距離が短いため、吾妻が麻生に指示したのだろう。
いつもなら、その場所にはいないはずの護衛の若衆が既に何人か待機していた。
助手席から降りた吾妻は自動車周辺とエントランス周辺に鋭い視線を向け異常がないかを確認すると、漸く後部座席のスライドドアを開ける。
若衆等の視線は少年に向けられることなく、蒴也の周辺を固める。
ほんの数メートルであっても、蒴也が危険に晒されぬよう統制の取れた動きは、吾妻や他の幹部の教育の賜物だろう。
前を歩く吾妻に着いて少年を横抱きにしたままエントランスをくぐり、吾妻がコンシェルジュに軽く一礼し、この後の佐伯と菜々子の来訪を告げている。
専用エレベーターに続く通路は誰もが立ち入れるエントランスとは重厚な自動ドアで隔てられている。
その自動ドアは予め指紋認証の登録をした蒴也と吾妻、それと数人の幹部のみが通行を許されている。
従って若衆の立ち入れるのは今はエントランスまでだ。よほどのことがない限り25階への専用エレベーターから先は限られた人間しか立ち入ることはできないのだ。
それでも警戒を怠らない吾妻は更に設置されているエレベーターの指紋認証に指を翳し先に乗り込む。
中に異常がないことを確認して蒴也を中へと促し25のボタンを押した。
意識のない少年を除けば、蒴也と吾妻2人だけの空間である。
溜め息をついた吾妻が少年を一瞥し蒴也に問う。
『急にどうしたんだよ。その子どうするつもりなんだ?』
急にどうしたのか。
この少年をどうするつもりなのか。
蒴也自身、答えを持っていないのだ。答えられるわけがない。
答えない、いや答えられない蒴也に向かって、もう一度大きな溜め息をついた吾妻は
『とりあえず佐伯に診せてからだ』
何も答えの出せない状況で吾妻が出した1つの答えは少年を慮るものだった。
蒴也の居住スペース25階に止まったエレベーターから吾妻が降りる。
ここまで上がって来られるのはごく僅かな人間に限られていることを誰よりも解っているはずの吾妻は、それでも気を抜くことはない。
エレベーターから蒴也の部屋の玄関まで変わりないことを確認してから玄関を解錠する。
ドアを開けたまま待つ吾妻の横を通り抜け、そのままゲストルームへと足を向けた。
少年をベッドに下ろそうとしたところで
『蒴也ダメだ』
後ろから吾妻の声がかかる。少年を包んだ毛布は清潔で乾いたものだったが、あのアパートの浴室でびしょ濡れの少年を抱き上げたせいで、蒴也自身のスーツが水を含んでいた。
厚い毛布は少年を包んだ内側までは水を通してはいないようだが、毛布ごとベッドに下ろすことは憚られた。
ベッドの掛布の上半分を捲った吾妻は、毛布を剥いで裸の少年を寝かせろと言う。
吾妻から少年を隠すように裸の少年をベッドに下ろし、すぐに掛布を肩までかける。
吾妻は、この時既に気付いていた。蒴也自身が気付いていない少年に対する蒴也の感情に。
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