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出逢い そして救出
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いくら掛布で体を隠したとは言え、少年を裸で寝かせておくのは忍びない。
この後の佐伯の往診を考えれば、前開きの服を着せておく方がいいのかもしれない。
それは心得ているのだが、日本男性の平均よりやや大きめの蒴也1人の生活スペースに、この小さな少年に合うサイズの服などあるわけもなく、少年には大きすぎるバスローブを羽織らせた。
前を合わせ少し緩めに紐を結べば、ようやく少年の体を隠せた安堵から溜め息が漏れた。
蒴也らしからぬ行動と感情だ。吾妻はそれを見て笑いそうになる自分を必死に堪えた。
『とりあえず蒴也も着替えろ びしょびしょだろ』
吾妻に少年を任せ自身の寝室へと入る。
『結構濡れてるな』
1人苦笑いを浮かべつつ、素早く着替えを済ませゲストルームに戻れば、少年を寝かせたベッド脇のスツールに座っていた吾妻が、ひっそりと呟く。
『この子、何者なんだろうな』
その疑問に答えられるはずもなく、部屋には沈黙が流れる。
その沈黙は佐伯が訪れインターホンが鳴るまで破られることはなかった。
インターホンの液晶画面には、大きな往診鞄を提げた佐伯が眉間に皺を寄せてメインエントランスに立っているのが確認できる。
『佐伯先生、開けますので専用エレベーターでお上がりください』
しばらくして玄関のインターホンが鳴り吾妻が佐伯を招き入れる。
電話で呼び出した時と同様に相手への労いや感謝の言葉もなく、佐伯をゲストルームへと促す。
ゲストルームのベッドで横たわる少年を見遣った佐伯は
『…子供?』
一言呟き、固まってしまった。
創世会の一次団体、明星会の若頭の自宅に意識のない子供が寝ているのだ。
百戦錬磨の佐伯でさえ、きな臭さを感じて当然だ。
そこで何も聞かないのが佐伯だが、今回はさすがに
何か聞くべきなのか、聞いてはいけないのか、聞くとしたら何を聞くべきなのか迷っている様子が見てとれた。
『恐らく10歳ぐらいの男児かと。それ以外のことは解りかねます。』
吾妻は今解っている事実だけを伝え、佐伯に診察を急がせた。
先ほどまで吾妻が座っていたスツールに腰かけた佐伯は、往診鞄を開け意識のない少年に語りかけた。
『ごめんね。ちょっと体見せてもらうよ』
話しかける口調も掛布を退かす手付きも、今まで見たことはないほどに優しい。
金に汚い闇医者は、実は子供好きなのだ。
少年の脇に入れられた体温計は38.8℃を示している。
『ちょっと冷やした方がよさそうだね。吾妻君、保冷剤か氷枕あるか?ってあるわけないよね、若の部屋に。』
一応置いてある大型冷蔵庫には愛飲のビールとシャンパン、そしてミネラルウォーターが入っている。
冷凍庫に至ってはロックアイスのみで、他の物が入っていたことはない。
『保冷剤も氷枕もございませんが、変わりになるものを用意致します』
一礼してゲストルームを辞す吾妻はキッチンへと向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。中身を半ば以上捨て、それに砕いたロックアイスと大量の塩を入れる。蓋を締めタオルを巻いた同じ物を4本作り、再びゲストルームに戻れば、バスローブの前を寛げた少年の診察が本格的なものとなっていた。
この後の佐伯の往診を考えれば、前開きの服を着せておく方がいいのかもしれない。
それは心得ているのだが、日本男性の平均よりやや大きめの蒴也1人の生活スペースに、この小さな少年に合うサイズの服などあるわけもなく、少年には大きすぎるバスローブを羽織らせた。
前を合わせ少し緩めに紐を結べば、ようやく少年の体を隠せた安堵から溜め息が漏れた。
蒴也らしからぬ行動と感情だ。吾妻はそれを見て笑いそうになる自分を必死に堪えた。
『とりあえず蒴也も着替えろ びしょびしょだろ』
吾妻に少年を任せ自身の寝室へと入る。
『結構濡れてるな』
1人苦笑いを浮かべつつ、素早く着替えを済ませゲストルームに戻れば、少年を寝かせたベッド脇のスツールに座っていた吾妻が、ひっそりと呟く。
『この子、何者なんだろうな』
その疑問に答えられるはずもなく、部屋には沈黙が流れる。
その沈黙は佐伯が訪れインターホンが鳴るまで破られることはなかった。
インターホンの液晶画面には、大きな往診鞄を提げた佐伯が眉間に皺を寄せてメインエントランスに立っているのが確認できる。
『佐伯先生、開けますので専用エレベーターでお上がりください』
しばらくして玄関のインターホンが鳴り吾妻が佐伯を招き入れる。
電話で呼び出した時と同様に相手への労いや感謝の言葉もなく、佐伯をゲストルームへと促す。
ゲストルームのベッドで横たわる少年を見遣った佐伯は
『…子供?』
一言呟き、固まってしまった。
創世会の一次団体、明星会の若頭の自宅に意識のない子供が寝ているのだ。
百戦錬磨の佐伯でさえ、きな臭さを感じて当然だ。
そこで何も聞かないのが佐伯だが、今回はさすがに
何か聞くべきなのか、聞いてはいけないのか、聞くとしたら何を聞くべきなのか迷っている様子が見てとれた。
『恐らく10歳ぐらいの男児かと。それ以外のことは解りかねます。』
吾妻は今解っている事実だけを伝え、佐伯に診察を急がせた。
先ほどまで吾妻が座っていたスツールに腰かけた佐伯は、往診鞄を開け意識のない少年に語りかけた。
『ごめんね。ちょっと体見せてもらうよ』
話しかける口調も掛布を退かす手付きも、今まで見たことはないほどに優しい。
金に汚い闇医者は、実は子供好きなのだ。
少年の脇に入れられた体温計は38.8℃を示している。
『ちょっと冷やした方がよさそうだね。吾妻君、保冷剤か氷枕あるか?ってあるわけないよね、若の部屋に。』
一応置いてある大型冷蔵庫には愛飲のビールとシャンパン、そしてミネラルウォーターが入っている。
冷凍庫に至ってはロックアイスのみで、他の物が入っていたことはない。
『保冷剤も氷枕もございませんが、変わりになるものを用意致します』
一礼してゲストルームを辞す吾妻はキッチンへと向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。中身を半ば以上捨て、それに砕いたロックアイスと大量の塩を入れる。蓋を締めタオルを巻いた同じ物を4本作り、再びゲストルームに戻れば、バスローブの前を寛げた少年の診察が本格的なものとなっていた。
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