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発火
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ハッカー達がパソコンと睨めっこを続ける中、吾妻により他の幹部と組員達は会議室へと召集された。
こんな状況下にあっても、組員達が特に動揺することなく吾妻の指示に耳を傾けるのは、軍師としての吾妻を信用しているからであり、そんな組員達をまた吾妻も信用していた。
しかし、篠崎が首都高に入っていることを考えるとあまり猶予はない。
ここにいる幹部と組員全員に銃を所持させ、大方の組員を組事務所に残し、精鋭の数名を蒴也の自宅マンションへと向かわせる。
篠崎は明星会の事務所に乗り込むだろう。篠崎の運転する自動車の動きから、それは予想できる。それでも蒴也の自宅マンションに人員を配置するのは、陽のために他ならない。何かあれば風間が体を張ってくれるだろう。しかも風間は強い。銃器の類いを持たない相手であれば風間1人で何人かは沈めることができるほどに強い。
しかし蒴也の愛しい人も風間も、ほんの少しでも危険に晒したくはない。
『銃は極力使うな。篠崎は殺さず拘束しろ』
確と各々の役割を把握した組員達が一斉に席を立つ。
未だ上座から動かない蒴也から、やや不貞腐れた声が聞こえる。
『なぁ吾妻、俺は?』
無視だ。無視!
今は経営者然とした蒴也だが、高校在学中までの血の気の多さと言ったら半端なものではなかった。都内でも有数の進学校に在籍しながら、とにかく喧嘩ばかりしていたのだ。
今でこそ無駄な血は流さないことを善しとしているが、一度スイッチが入ってしまえば相手を殺しかねない激しさを持っている。
大学入学後は今のフロント企業の礎となったベンチャー企業を設立したことで多忙となり、その激しさは鳴りを潜めていたが、言葉通り「潜めていた」だけなのだから。
寝た子を起こすようなことを避けるために件のアパートに軟禁していたのだ。
軟禁とて、蒴也が命を狙われ危険に晒されることを憂慮したわけではない。炎星会への被害を最小限にするための手段だったのだ。
前線に出せるわけなどない。
しかし、ほんの数日前からの蒴也には如何なる状況であっても簡単にかかってしまう呪文があることを吾妻は知っている。
その呪文をまだ唱えたことはないが、ここで唱えずいつ唱えるのか。
『若に何かあれば、陽くんはどうなるのですか?』
やはり。蒴也は押し黙った。黙ってくれた。呪文の効果は覿面だ。使える、と思った。
明星会の組員は皆有能だ。若頭自らを危険に晒す必要はない程に有能だ。
蒴也には裏でも表でも義理事と折衝だけに励んで欲しい。
それは蒴也にしか出来ないことなのだから。
裏の世界では義理事を間違えれば組の信用を損なう。表の世界では折衝下手は損失を産む。
その両方を難なくこなせるのは蒴也だけなのだ。
『篠崎の身柄を拘束するまではこちらでお控えください』
絶対ですよ。と付け足した吾妻の声色に剣呑さが含まれてしまうの仕方のないことだろう。
蒴也愛用のワルサーPPKを差し出したのは、あくま護身用としてだ。
それ以上の使い方をさせる気など、吾妻には毛頭なかった。
こんな状況下にあっても、組員達が特に動揺することなく吾妻の指示に耳を傾けるのは、軍師としての吾妻を信用しているからであり、そんな組員達をまた吾妻も信用していた。
しかし、篠崎が首都高に入っていることを考えるとあまり猶予はない。
ここにいる幹部と組員全員に銃を所持させ、大方の組員を組事務所に残し、精鋭の数名を蒴也の自宅マンションへと向かわせる。
篠崎は明星会の事務所に乗り込むだろう。篠崎の運転する自動車の動きから、それは予想できる。それでも蒴也の自宅マンションに人員を配置するのは、陽のために他ならない。何かあれば風間が体を張ってくれるだろう。しかも風間は強い。銃器の類いを持たない相手であれば風間1人で何人かは沈めることができるほどに強い。
しかし蒴也の愛しい人も風間も、ほんの少しでも危険に晒したくはない。
『銃は極力使うな。篠崎は殺さず拘束しろ』
確と各々の役割を把握した組員達が一斉に席を立つ。
未だ上座から動かない蒴也から、やや不貞腐れた声が聞こえる。
『なぁ吾妻、俺は?』
無視だ。無視!
今は経営者然とした蒴也だが、高校在学中までの血の気の多さと言ったら半端なものではなかった。都内でも有数の進学校に在籍しながら、とにかく喧嘩ばかりしていたのだ。
今でこそ無駄な血は流さないことを善しとしているが、一度スイッチが入ってしまえば相手を殺しかねない激しさを持っている。
大学入学後は今のフロント企業の礎となったベンチャー企業を設立したことで多忙となり、その激しさは鳴りを潜めていたが、言葉通り「潜めていた」だけなのだから。
寝た子を起こすようなことを避けるために件のアパートに軟禁していたのだ。
軟禁とて、蒴也が命を狙われ危険に晒されることを憂慮したわけではない。炎星会への被害を最小限にするための手段だったのだ。
前線に出せるわけなどない。
しかし、ほんの数日前からの蒴也には如何なる状況であっても簡単にかかってしまう呪文があることを吾妻は知っている。
その呪文をまだ唱えたことはないが、ここで唱えずいつ唱えるのか。
『若に何かあれば、陽くんはどうなるのですか?』
やはり。蒴也は押し黙った。黙ってくれた。呪文の効果は覿面だ。使える、と思った。
明星会の組員は皆有能だ。若頭自らを危険に晒す必要はない程に有能だ。
蒴也には裏でも表でも義理事と折衝だけに励んで欲しい。
それは蒴也にしか出来ないことなのだから。
裏の世界では義理事を間違えれば組の信用を損なう。表の世界では折衝下手は損失を産む。
その両方を難なくこなせるのは蒴也だけなのだ。
『篠崎の身柄を拘束するまではこちらでお控えください』
絶対ですよ。と付け足した吾妻の声色に剣呑さが含まれてしまうの仕方のないことだろう。
蒴也愛用のワルサーPPKを差し出したのは、あくま護身用としてだ。
それ以上の使い方をさせる気など、吾妻には毛頭なかった。
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