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陽の試練 蒴也の忍耐
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そうして暫く炎星会の監視を続けていたが、特に動きはない。
ハッカー達に監視を任せ、蒴也は吾妻と共に執務室へと籠った。
炎星会のことだけに感けてはいられないのだ。フロント企業の1つである不動産会社では大きな取引を控えているし、風俗店も何軒かオープンが間近に迫っている。他にも蒴也の決裁がなければ動かない案件がいくつもあるのだ。
本当ならば、それぞれのフロント企業に出向き仕事をするべきなのだが、如何せん時間が足りない。
組事務所の自身の執務室であれば情報を集約した状態で合理的な仕事ができるのだ。
吾妻も普段であれば吾妻個人にあてがわれた別の執務室に入るのだが、今日は蒴也と共に仕事をするつもりらしい。上背のある吾妻には使い難いだろうに、ソファに腰掛け早々にノートパソコンを立ち上げている。
そして吾妻の容赦ない声が蒴也の耳に届く。
『とりあえずメールのチェックを』
吾妻により山のような添付ファイルのくっついたメールが50件ほど送信されたようだ。
『それを片付ければ、今日は陽くんの所に帰っていただいて構いませんよ』
結城がすぐには動かないと踏んだのだろう。
1日組事務所に詰める必要はないと言っているのだ。
とは言っても、この量のメールを1つずつチェックするとなれば、丸1日かかってもおかしくはない。
誰よりも蒴也のスイッチを押すのが巧い吾妻は蒴也に能率的な仕事をさせるため、ここで陽の名前を出したのだ。
勿論今の蒴也がそれに乗らないわけがない。一刻も早く陽の下へと帰りたいのだから。
ヤクザと言えど元々は経営者色の強い蒴也なのだ。事務処理の能力には長けている。
しかも必要な情報も材料も吾妻を初めとする幹部やフロント企業の役員達が集めてくれている。
そこに獣も顔負けの天性の勘を働かせ、巧妙に仕掛けられたトラップの有無を見破るのが蒴也の主な仕事なのだ。天性の勘と言うよりも洞察力と経験なのだろうが、それを巧く言葉にするのは、なかなかに難儀なことでもあった。
やはり今日も1つ引っ掛かりを覚えた蒴也だった。
『吾妻』
パソコンのモニターを睨んだままの蒴也はメールの添付ファイルを読み直している。
『この風俗店のオープニングスタッフの面接俺が行く』
新たにオープンする風俗店のうちの1つ、ゲイ専門の風俗店の面接に蒴也自身が面接官として行くのだと言う。
『何か気になることでも?』
面接予定者の一覧名簿を眺めながら吾妻が確認しても
『よく解らねえが、何か気になる』
野生の勘が発動したらしい。
『かしこまりました。計らいます』
フロント企業直営の風俗店とは言え、スタッフの面接を蒴也自身がすることなど殆んどない。
何が起こるのだろうか。吾妻だけでなく当の蒴也にも漠然とした違和感があるだけなのだが、ここは外してはいけないような気がしたのだ。
ハッカー達に監視を任せ、蒴也は吾妻と共に執務室へと籠った。
炎星会のことだけに感けてはいられないのだ。フロント企業の1つである不動産会社では大きな取引を控えているし、風俗店も何軒かオープンが間近に迫っている。他にも蒴也の決裁がなければ動かない案件がいくつもあるのだ。
本当ならば、それぞれのフロント企業に出向き仕事をするべきなのだが、如何せん時間が足りない。
組事務所の自身の執務室であれば情報を集約した状態で合理的な仕事ができるのだ。
吾妻も普段であれば吾妻個人にあてがわれた別の執務室に入るのだが、今日は蒴也と共に仕事をするつもりらしい。上背のある吾妻には使い難いだろうに、ソファに腰掛け早々にノートパソコンを立ち上げている。
そして吾妻の容赦ない声が蒴也の耳に届く。
『とりあえずメールのチェックを』
吾妻により山のような添付ファイルのくっついたメールが50件ほど送信されたようだ。
『それを片付ければ、今日は陽くんの所に帰っていただいて構いませんよ』
結城がすぐには動かないと踏んだのだろう。
1日組事務所に詰める必要はないと言っているのだ。
とは言っても、この量のメールを1つずつチェックするとなれば、丸1日かかってもおかしくはない。
誰よりも蒴也のスイッチを押すのが巧い吾妻は蒴也に能率的な仕事をさせるため、ここで陽の名前を出したのだ。
勿論今の蒴也がそれに乗らないわけがない。一刻も早く陽の下へと帰りたいのだから。
ヤクザと言えど元々は経営者色の強い蒴也なのだ。事務処理の能力には長けている。
しかも必要な情報も材料も吾妻を初めとする幹部やフロント企業の役員達が集めてくれている。
そこに獣も顔負けの天性の勘を働かせ、巧妙に仕掛けられたトラップの有無を見破るのが蒴也の主な仕事なのだ。天性の勘と言うよりも洞察力と経験なのだろうが、それを巧く言葉にするのは、なかなかに難儀なことでもあった。
やはり今日も1つ引っ掛かりを覚えた蒴也だった。
『吾妻』
パソコンのモニターを睨んだままの蒴也はメールの添付ファイルを読み直している。
『この風俗店のオープニングスタッフの面接俺が行く』
新たにオープンする風俗店のうちの1つ、ゲイ専門の風俗店の面接に蒴也自身が面接官として行くのだと言う。
『何か気になることでも?』
面接予定者の一覧名簿を眺めながら吾妻が確認しても
『よく解らねえが、何か気になる』
野生の勘が発動したらしい。
『かしこまりました。計らいます』
フロント企業直営の風俗店とは言え、スタッフの面接を蒴也自身がすることなど殆んどない。
何が起こるのだろうか。吾妻だけでなく当の蒴也にも漠然とした違和感があるだけなのだが、ここは外してはいけないような気がしたのだ。
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