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陽の試練 蒴也の忍耐
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『たった今ぶりだな。天海どうした?』
土門はいつも通り落ち着き払った声音ではあるが、何か思うところがあるのかもしれない。常に多忙な土門は、電話にすぐに対応すること自体が稀だからだ。
『幹事長のご自宅に、結城の部下が張り付いています』
端的に事実だけを伝えれば察しのいい土門であれば、蒴也が何を言おうとしているかなど解るはずだ。
『さすが優秀なハッカー集団のいる明星会だ』
家族は軽井沢のホテルにいて自宅には誰もいないから特に危険はないと言う。
ヤクザながらに土門は家族を愛している。30年以上連れ添い続けている奥方と、遅がけに産まれた一人娘はまだ20代半ばだ。その家族を危険な目に遭わせるはずなどない。創世会の事だけでなく、家族のためにも抜かりなしと言ったところか。
『結城が動く前に内藤を返してやるさ』
呼吸をしているかもわからない内藤の身柄は、もう暫くすれば炎星会の組事務所に到着するようだ。
『炎星会の事務所も見えているんだろ?』
こちらの動きなど土門にはお見通しと言うところか。暫く炎星会の事務所を見ていろと言う。
『そろそろだ』
炎星会の組事務所前の様子を映し出す監視カメラの映像には、創世会所有の黒いワンボックスカーが横付けされたのが見て取れる。
乱雑な扱いで下ろされた大きな荷物のようなもの
内藤の体が創世会の下っ端によってエントランスに投げ込まれた。
自動車の急発進の音で外の異変に気づいたのだろう。ビルの中から、チンピラ風情の大男2人が様子を伺うように現れた。
その後、同じような風体の男が2人加わり、壊れ物を扱うように担架に乗せられた内藤が事務所内へと運び込まれると何事もなかったように静寂が訪れる。
『これで結城も本望だろうよ』
土門は嘲るように言い捨てる。
これが容赦ない創世会の恐ろしさ。これが破門になった男の痛ましさ。
結城は、今何を想い何を感じて己の主を迎えたのだろうか。同情心など一片も持ち合わせてはいないが、蒴也も吾妻もモニター越しの光景を黙って見ていた。
暫しの沈黙の後、ハッカーの一人から声が上がる。
『幹事長宅に張り付いていた奴らが引き上げました』
何か動きがあるのかと注視していたが、内藤の身柄を引き渡した直後に土門宅の前は無人となった。
半ば拍子抜けして、炎星会の組事務所の監視カメラの映像に視線を戻せば、往診鞄を持った医師らしき男が入っていくのが映し出されている。
内藤の生死の確認なのか、治療を目的としているのか、いずれにしても興味はない。
気になるのは結城が今後、何を仕掛けてくるのか。それだけだ。
『幹事長、もう暫く炎星会の監視を続けます』
繋がったままのスマホ越しに蒴也が伝えれば、
『何かあれば報告してくれ』
土門も応じる。
内藤や篠崎のように短絡的な行動には出ないであろう結城に対し、恐怖はなくても気味悪さを感じるのは蒴也も土門も、そして吾妻も同様であった。
土門はいつも通り落ち着き払った声音ではあるが、何か思うところがあるのかもしれない。常に多忙な土門は、電話にすぐに対応すること自体が稀だからだ。
『幹事長のご自宅に、結城の部下が張り付いています』
端的に事実だけを伝えれば察しのいい土門であれば、蒴也が何を言おうとしているかなど解るはずだ。
『さすが優秀なハッカー集団のいる明星会だ』
家族は軽井沢のホテルにいて自宅には誰もいないから特に危険はないと言う。
ヤクザながらに土門は家族を愛している。30年以上連れ添い続けている奥方と、遅がけに産まれた一人娘はまだ20代半ばだ。その家族を危険な目に遭わせるはずなどない。創世会の事だけでなく、家族のためにも抜かりなしと言ったところか。
『結城が動く前に内藤を返してやるさ』
呼吸をしているかもわからない内藤の身柄は、もう暫くすれば炎星会の組事務所に到着するようだ。
『炎星会の事務所も見えているんだろ?』
こちらの動きなど土門にはお見通しと言うところか。暫く炎星会の事務所を見ていろと言う。
『そろそろだ』
炎星会の組事務所前の様子を映し出す監視カメラの映像には、創世会所有の黒いワンボックスカーが横付けされたのが見て取れる。
乱雑な扱いで下ろされた大きな荷物のようなもの
内藤の体が創世会の下っ端によってエントランスに投げ込まれた。
自動車の急発進の音で外の異変に気づいたのだろう。ビルの中から、チンピラ風情の大男2人が様子を伺うように現れた。
その後、同じような風体の男が2人加わり、壊れ物を扱うように担架に乗せられた内藤が事務所内へと運び込まれると何事もなかったように静寂が訪れる。
『これで結城も本望だろうよ』
土門は嘲るように言い捨てる。
これが容赦ない創世会の恐ろしさ。これが破門になった男の痛ましさ。
結城は、今何を想い何を感じて己の主を迎えたのだろうか。同情心など一片も持ち合わせてはいないが、蒴也も吾妻もモニター越しの光景を黙って見ていた。
暫しの沈黙の後、ハッカーの一人から声が上がる。
『幹事長宅に張り付いていた奴らが引き上げました』
何か動きがあるのかと注視していたが、内藤の身柄を引き渡した直後に土門宅の前は無人となった。
半ば拍子抜けして、炎星会の組事務所の監視カメラの映像に視線を戻せば、往診鞄を持った医師らしき男が入っていくのが映し出されている。
内藤の生死の確認なのか、治療を目的としているのか、いずれにしても興味はない。
気になるのは結城が今後、何を仕掛けてくるのか。それだけだ。
『幹事長、もう暫く炎星会の監視を続けます』
繋がったままのスマホ越しに蒴也が伝えれば、
『何かあれば報告してくれ』
土門も応じる。
内藤や篠崎のように短絡的な行動には出ないであろう結城に対し、恐怖はなくても気味悪さを感じるのは蒴也も土門も、そして吾妻も同様であった。
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