太陽と月

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贖罪

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結局、朔也は吾妻の胸の内を確かめることなく、吾妻と工藤を送り出した。

『申し訳ありません。本来であれば天海が同行するべきなのに』

吾妻は極めて常識的な考えの元、隣の工藤に謝罪する。
麻生の運転する自動車のリアシートで工藤と吾妻、2人が移動することは何度かあった。
駅前再開発絡みのことが殆どだったが、偶然とは言え陽を救出に向かう際も行動を共にしていた。

『工藤さんにはいつも助けていただくばかりですね』

改めて思えば、独りで事を終えるには少々手間がかかりそうな折りには、何度か工藤に助けられている。
今回の事ばかりではなく、創世会本部でも同様の事が何度かあった。

工藤とて暇なはずはない。それでも辰星会や創世会の利益になるようなことには情報網を張り巡らせているはずだ。
吾妻は、工藤が必要以上に距離を詰めてくる理由をその辺りにあると思っている。
明星会は辰星会同様、潤沢な資金力がある。工藤に弱味を見せれば、それを根こそぎ奪われるのではないかと危惧している。

そんな吾妻の思考を何となく読んだのだろう。工藤は全く違う方向性で警戒されていることに苦笑する。

『吾妻さんは』

大変勘の鋭い方ですよね?それなのに見当違いをしているのは

『ご経験が浅いからではないでしょうか』

吾妻はますます解らなくなる。経験?何の経験だろうか。
曲がり形にも若頭補佐として、それなりの経験は積んでいる。
極道として修羅場も潜ってきたし、経営陣の1人として大きな取引もこなしていた。
同世代でこのポジションに就いているのは、自分の他に工藤しか知らない。

少し前なら炎星会の結城がいたが、結城は少し毛色が違っていたように思う。

『経験は多い方だと自負しておりますが』

真面目に答える吾妻に瞠目した工藤は、あくまで吾妻の言葉を肯定することから始めようとする。

『そうですね。極道としても企業の役員としても経験豊富で優秀でいらっしゃる』

では、人を愛する経験は?

端的に問われた吾妻は、黙り込んでしまう。
吾妻にとって愛と言う言葉が、あまりに抽象的すぎるのだ。
妹の菜々子のことは家族としてとても愛している。だが、工藤が言っているのは、それとは違うのだろうことが何となくわかる。

恐らくは、朔也が陽に抱いているような、そう言った感情を言っているのだ。

『経験がないかもしれません』

静かに答える吾妻に、工藤も静かに提案する。無理強いするでもなく、押し付けるでもなく、純粋な提案だ。

『経験がないのなら、愛し方がわからないかもしれない』

だから、まずは愛されることから始めてみませんか?

この場合、吾妻が工藤に愛されることを始めてみないか、と言うことだろう。

何をどう答えればいいのか解らない吾妻は、自動車が店のエントランスに横付けされるまで言葉を放つどころか、身動ぎ1つできなかった。
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