太陽と月

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『君も一緒ににやってみない?』

小学生の面倒をみながら、おそらく高校生であろう青年が陽に声をかける。
陽と同年代だが、自分より随分と背の小さい陽を年下だと思ったのか子供に話しかけるような柔らかな口調だ。それとも元より、そう言った話し方をする青年なのだろうか。

その瞬間、ギュッと握られた陽の手から力が抜ける。

『陽、一緒にやってみるか?』

俺はここで見てるから。
敢えて少しだけ離れてみようとする朔也。初めて訪れた場所で初対面の人間ばかり。陽も不安なのだろう。それでも、俄DIYへの興味が上回ったのか、朔也の手を離し、自らの意思で呼ばれた方へと歩みを進める。わずか5m程だが、何度か朔也を振り向き朔也が、その場から動かないことを確認すると漸く声をかけてくれた青年の前にたどり着いた。

『彼は宮腰みやこし  たつきといってね』

難病を患い、高校入学後すぐに入院し、その後は入退院を繰り返し治療を続けているのだと言う。
休学後復学と言う選択肢もあったが、本人の希望で退学。
ここ何ヵ月かで体調も安定してきたため、大検取得のために、起きている時間のほとんどを勉学に費やしているらしい。

それでも、調理実習や作品制作の実習などでは他の子供達をサポートしつつ本人も楽しんでいるのだと言う。

小さな学園だが、大人の手が足りているかと言えば、そうでもないようで宮腰のサポートは学園としても助かっているのだと言う。

『ここにいる子供達は皆、病気で辛い思いをしてきました』

それこそ、同年代の子供が経験したことのない辛さや痛みを幾度も経験した子供達ばかりだ。

『だからこそ、他人の痛みの解る優しい子達ばかりです』

人数が少ないからこそ、様々な感情を共有し互いを思い合えるのだと園長は言う。

『凡そは工藤君から聞いてますが』

と前置きした上で、

『陽くんにも、そんな仲間が出来たらいいなと思います』

老婆心ですね。と笑顔で語る園長は宮腰の手を借り板と格闘する陽を見守っている。

子供達が各々製作に集中する同じ部屋で園長から学園の説明を受ける。

この学園では病院を退院後、体力が戻るまでを過ごす子供が多いため、長期間在籍する生徒は少ないのだと言う。
故に元々通学していた学校に戻っても授業で困ることがないよう、勉強面にも力を入れている。

それでも宮腰のように入退院を繰り返さなければならない生徒も何人かいて、その子供達も今後の進級進学、その後の将来も見据えて、何かを諦めなければならないことが少しでも減るようにとカリキュラムを組んでいる。

当然、陽も社会性と義務教育で習得する知識養うことを登園の目的とすることになる。

大丈夫だろうか。
陽に一歩を踏み出させて良いのだろうか。
良いに決まっている。解ってはいるが陽を自分の目の届かない社会に出すことに対して恐怖すら覚えるのだ。

『サポートはしっかりしますので』

朔也の気持ち、陽の思い、時間がかかっても、しっかりと話し合って決めれば良いと園長は朗らかに笑う。

陽は朔也の視線の先、5mの所でDIY初体験に今まで見たことがないほどに瞳を輝かせていた。
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