前世は悪女だった私、今世は極悪非道の大悪女になって旦那様に復讐します!と誓ったのに、どうして愛され双子ママに!?

季邑 えり

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1.極悪非道の悪女になる!

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 ——あんなにも、ジェイラス様のために働いたのに……

 最後は悪女と罵られ、人々から侮蔑された。

『悪女だ! この女のせいだ!』
『近寄らないで! 私の夫を誘惑しないでちょうだい!』

 聖女のはずが男性を惑わし堕落させたと噂され、淫乱な女と言われた。宝石を買うために散財して神殿のお金が尽きてしまい、貧者への施しができなくなったと言われた。

(そんなこと、していないのに……誰も信じてくれなかった)

 最後は聖力が暴走して、癒されるために神殿へ来ていた人たちを傷つけてしまった。

(どうして……私、ジェイラス様のお役に立ちたかっただけなのに)
 
 聖力を使い果たしたところで牢に入れられ、鎖に繋がれる。劣悪な環境で過ごすうちに体力が尽きかけたその時、檻の中にジェイラスが入って来た。そしてスターシャを見ると、迷うことなく腰に剝いでいた剣を振り上げた。
 
 そこで暗闇に引きずり込まれ――スターシャは意識を失った。

 ぱちりと目を開けると、目の前には白い天井が見える。豪奢な造りをしたお城のような館にある部屋。結婚した時に与えられた部屋、だけど。

(え、どうして私がここにいるの?)

 スターシャはがばりと布団をあげて起き上がった。身体が軽く、先ほどまで病で伏せっていたとは思えない。結婚したとはいえ、癒しの聖力が発現した後は神殿に移り住んでいた。それなのに。

 パチパチと目を瞬かせて自分の手をみる。神殿にいた時は神官や修道女たちと同じように水仕事をして、ひどく荒れていたはずの手が綺麗になっている。

(何が起こったの?)

 長い髪が男を惑わすと言われ、あごの長さで切られてしまっていた。なのに今は、以前のように艶やかなアメジストの色をした長い髪に戻っている。

 ふと部屋にある鏡を見ると……日焼けをしていない白い肌に、ぷくりと膨らんだ唇。長いまつ毛が影を落とす飴色の瞳。神殿での激務でこけた頬がふっくらとしている。明らかに、若返ったスターシャの顔が映っていた。

(私の時が、戻った?)

 長剣を振り上げた彼に睨まれた……が、その後の記憶がない。

 神殿で聖力が暴走してしまい、その反動で倒れ、発熱して――牢の中で体力が尽きていた。そして彼が剣を振り上げた記憶が最後だから、自分は彼に殺されたはずだ。

 もしかすると……時戻りの魔法が発動したのだろうか。異国から来た母が教えてくれたことを覚えている。時を戻すことのできる魔法があると。

 けれど、時戻りの魔法は膨大な魔力を必要とするため、容易ではない。

 でも、そうとしか考えられない。

(本当に、時が戻ったの?)

 不思議だけれど、この髪の長さであれば、まだ神殿に行く前だ。

 スターシャは拳をぐっと握りしめる。時が戻ったなら、絶対にしたいことがある。

(あの、冷酷な旦那様に復讐するのよ!)

 前世はあの人に恋をして、あの人のために生き、身を粉にするほど精一杯働いた。

 娘を単なる政争の駒としか思っていない、宰相の父から命じられて嫁いできた。政略結婚だったとしても、彼のことを愛し、愛されたかったのに。
 
 それなのに……夫は助けてくれるどころか、悪評を否定することなく、剣を振り上げた最後の瞬間も覚えている。

 悪女と罵られ、違うと言っても無視され続けていた。結婚した後もずっと彼に尽くしたのに。全てが無駄だった。

 彼に殺されたのだ。

 スターシャはグッと拳を握りしめる。
 
 何としても彼を困らせ、あの高いプライドをへし折りたい。殺された恨みを晴らしたいが、非力な自分では彼を殺すことは難しい。こうなったら社会的な死を迎えるように、追い詰めたい。

 そのためには――

(前世は悪女と言われたけれど、今世はもっと悪い女になって復讐するわ!)
 
 病気ではない身体はなんと気持ちがいいのだろう。あの最後の時と違って息を吸っても苦しくはない。身体の底からやる気がふつふつと湧き上がる。

(こうなったら、極悪非道の大悪女を目指すわ!)

 前世では聖女とはやしたてられたけど、悪女に転落するのはすぐだった。どうせ悪女と言われるなら、大悪女となって彼に打撃を与えたい。

 悪女になるのは簡単だ。やってもないことを、さもしたかのように噂されていた。それを自分から行えば、きっとすぐにでも悪女になるだろう。それも、大悪女に。
 
 そのためには……と、考えを巡らせているとコンコン、と小さくドアを叩く音がする。

(侍女かしら? でも、この家で私の世話をする人なんていなかったのに……)

 誰だろう。とりあえず「はい」と返事をすると、ものすごい勢いでバタンと扉が開かれた。そして高い音の声が響く。

「ママ! ママの目が覚めたよ!」
「ほんとだ! ママ!」

(え? ママって?)

 スターシャが首を傾げると、彼女に向かって二人の子どもが駆けて来る。輝かしい銀色の髪に青い目をした元気な男の子と、桃色の髪に菫色の瞳をした利発そうな女の子だ。

 二人とも四、五歳くらいにみえる。
 
 さらにスターシャの顔を見ると、男の子は笑顔で、女の子は半分泣きながら近づいてきた。

「「ママ――ッ!」」
「は? はいっ?」

 駆け寄ってきた二人は同時に手を伸ばし、スターシャの左右の腕をとるとがしっと抱き着いた。そして頬をすり寄せて温もりを確かめている。子どもの顔は男女の違いはあるけれど、そっくりだ。

(ええっ? もしかして、双子?)

 子どもを産んだ記憶は全くない。それなのに……双子のママ?

 どうして? なぜ? と頭の中がグルグルする。

「ママッ、ママッ」

 女の子は泣きじゃくってスターシャの腕に必死にしがみついている。男の子はグッと口を引き結んで泣くのを我慢していた。

 可愛らしい双子の姿に、思わず目を細めてしまう。こんな可愛い子ども達に、ママと呼ばれて胸の奥がほっこりする。けれど。

(はっ、いけない! 私は悪女になるんだった!)

 先ほど胸に誓ったことを思い出し、スターシャは少しだけ冷静になる。とにかくこの子達がどうして自分をママと呼ぶのか、確かめないと。

「ね、ママは……と、ともかく、パパはどうしたの?」

 男の子は顔を上げると、くるっとした青い目を向けて来る。女の子はまだ話せそうにない。

「パパ……パパは、お仕事でいない」
「そうなの、だったら……パパのお名前を全部言えるかな」
「うん! パパの名前はジェイラス・クローヴェルだよ! とっても偉い騎士公爵様なんだ!」
 
(ジェイラス? やっぱり、あの、ジェイラス様の子?)
 
 男の子の瞳の色は彼、スターシャの夫であるジェイラスと同じ色をしているから、そうかもしれない。……そして、女の子は自分とそっくりな顔つきと髪の色をしている。

「マ、ママって母親ってことよね」
「そうだよ? どうしたの?」

(まって、この子達は本当に……私と、ジェイラス様の?)
 
 スターシャは再びポスンと背中から寝台に沈んでしまう。あまりにも驚きすぎて、口からシュウッと魂を抜き出し……そうしてそのまま、しばし意識を手放してしまうのだった。
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