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第一章
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しおりを挟む「だから、ね。困ったことになったの」
今日は騎士団に所属するディリスお兄様のところに、差し入れを持ってきている。
鍛錬場の隅でくつろぐ休憩中のお兄様をつかまえて、王宮でのお茶会のことを相談するためだ。
「リアリムお前、そんなにウィルストン殿下が嫌なのか?」
私の手作りクッキーを摘まみながら、呆れたような顔をして聞いてきた。
「あのね、全然話したこともない方なのよ。いいも悪いも、わからないわ。でもね、殿下の婚約者になるってことは、ゆくゆくは王妃になるかもしれないでしょ。無理。絶対に、無理」
「うーん、そうかぁ。あんなにハンサムなのに、お前のセンサーには引っかからないんだな」
「ハンサムは、ハンサムだと思うけどでも、イザベラ様が気に入っている方なのよ。私なんか、お呼びじゃないわ」
私も一つ、クッキーを口に入れる。うん、我ながら上手に焼けた。
転生前の私の趣味は、お菓子作りだった。休日にはお菓子作り教室とか、パン教室にも通っていた。
といっても、かつての私は焼きすぎたお菓子を処理する方が大変だった。
が、今や騎士団で働くお兄様へ差し入れすれば、瞬く間に消費してくれる。
私はお菓子をつくっては、この騎士団の鍛錬場に持って来ていた。
「イザベラ様かぁ、それは関係ないんじゃないか? 要はお前の気持ち次第だろう?」
「そんな! イザベラ様に目をつけられたら、社交界で生きていけないわ。そしたら、結婚相手も見つけられなくなっちゃう! そりゃ、お父様がどこかから話を持ってきてくれればいいけど、それは無理そうだし」
「そうだなぁ、あの親父では無理だな」
そうなのだ、私たちの父はかろうじて伯爵をしているが、今や病気療養中の母につきっきりだ。
伯爵として要件のある時は、このディリス兄さんが代わりを務めている時もある。
「じゃぁ、お兄様が見つけてくれる? どなたか、騎士様の中でちょうどいい方はいらっしゃらないかしら?」
「ん? あぁ、まぁ、な、騎士団の中にもお前を気に入っている奴が、いないわけじゃない、が、なぁ、うん」
お兄様は歯切れの悪い返事をしている。
これだけ頻繁にお兄様に会いに騎士団の鍛錬場に顔をだしているのに、実は誰からも声がかかったことがない。いや、一人だけいた。
「おっ、今日もいいもの持ってきたな。ん? クッキーか?」
その唯一私に声をかけてくる騎士の一人である、ウィルティム様が今日も声をかけてきた。
「これは、兄さまの分です。ウィルティム様の分は、こちらですよ」
別にしていたクッキーの袋を渡すと、彼はニカっと笑って受け取った。
うん、やっぱり男の人は素直に笑う方がいい。
あの王子様のように、仮面の笑顔を張り付けているのは健康上に良くないと思う。
「ありがとな、リアリム。っと、どうした、浮かない顔をしているけど」
ちょっと眉を寄せて心配そうな顔をしたウィルティム様が、顔を近づけてきた。
むむ。ちょっと距離が近い。
「えっと、そのうん、もういいの。お兄様に聞いてもらったから、大丈夫」
「俺でもよければ、話をきくよ」
ウィルティム様は、柔らかい声をそっと、耳元で囁いてくれる。
兄と同じ、二つ年上のウィルティム様は貴族ではないと聞くが、時々その仕草がハッとするほど美しい。
剣の腕は確かで、濃い紺色の長髪は普段は黒に見える。瞳も同じだ。
貴族ではない、という時点で伯爵令嬢の私が結婚できる相手ではないため、普段は気持ちに蓋をしている。
が、立派な騎士をしている彼は私のドストライクなのだ。
本当は、彼のような人と一緒になれたら嬉しいな、と思っている。
何と言っても、私はウィルティム様に命を救ってもらったと言ってもおかしくない。
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