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第一章

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 なんてことだ、妹のリアリムが知ることがないように、これまで必死になって隠してきたのに、やはり、人の口に扉を立てることはできない、のか、

 うなだれるように下を向き、今立ち去って行った妹の後ろ姿を思い出す。

 俺とリアリムは、兄妹ではない。俺の母がリアリムの母と従妹、ようするに、遠戚だ。
 リアリムを産んだ後、体調を崩した伯爵の妻、俺の義母は、これ以上子どもを望めぬ身体であった。

 男児のいない伯爵家にとって、唯一の女児であるリアリム。

 彼女が無事に育てばいいが、万一のことがあれば後継者争いとなってしまう。

 それを避けるために、当時離縁して戻っていた実母が置いて行った俺を、ミンストン伯爵夫妻が養子として引き取ってくれた。

 年を経るごとに、可愛らしく美しくなる妹。俺は思春期を過ぎ、結婚できる年齢になった時に義父に聞いた。「俺がリアリムと結婚して、伯爵家を継ぐことができるか」と。

 だが、妹のリアリムは俺が本物の血のつながった兄と信じている。

 義父は、できればリアリムには好きな男性と結婚させたい、との答えだった。

 それが俺となれば、それで考えるが、兄妹として育ったのだから、できればそのまま、仲の良い兄妹でいて欲しいと言われてしまった。

 一緒の家に住んでいるよりは、と思い騎士団に入ると寮に移ったが。

 2年前の王家の森で襲われたリアリム。彼女を助けたウィルティム、その正体はウィルストン殿下に妹が恋をしたのをこの眼でみた。

 そして、ウィルティムも妹のことを好ましく思っている。

 まぁ、相手が第一王子だから、それはそれで焦るものがあるが、

 いつの間にか、騎士団の休憩時間に来るリアリムが仲間の騎士連中の噂になった。

 俺の癒しだけでなく、皆の癒しになっているようだ。

 だが、他の男が話しかけることのないように守って来た。唯一の例外である、ウィルティムを除いて。

 俺達が血のつながった兄妹でないことを、明かす必要はない。

 万一、リアリムが傷ついて行き場がなくなった場合には、考えなくもないが。

 まずは、リアリムの想いが大切だ。そう思った俺は、この秘密を守ることを改めて思う。

 彼女の幸せが、何よりも大切だからだ。

 だが、殿下もとっとと指名すればいいものを。
 妹も指名されさえすればウジウジ悩まないで、覚悟を決めるだろう。

「リアリム、俺、お前のいいお兄様になっているかな、」

 何度目かのため息を、深くついた。できれば、明かしたくはないこの秘密。

 と、その一方で俺の中にはどろどろとどうしようもない劣情が住み着いていることも知っている。

 普段は表に出てくることはないが、さっきの言葉を聞くと、俺こそがお前の理想の男だ、と口説く言葉が俺の口から飛び出そうになった。

 俺は時計を見ると、訓練はもう既に始まっている時間だった。

 重たい身体に気合を入れて、訓練場に向かう。

 今日のマドレーヌは、誰にも分けない。俺が全て貰う――今は、これだけは。



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