29 / 61
第一章
1-29
しおりを挟む「えっと、ここかなぁ、マミーエル。あ、ここだ!」
私は早速、準備をした。お兄様の様子をみると、ウィルティム様に普通にお願いしても一緒に居酒屋に行くことはできないだろう。で、あれば。
手紙を書いて、今日、このマミーエルで話があるから待っていると言づけた。明日は休暇だろうと、お兄様に確認しているから、きっと夜でも出てくることが出来る、と思う。
私は勝負下着を用意して、今夜はお友達のところに泊まりに行くと偽装もした。
本当ならば、女の子らしくお化粧とか、可愛らしいワンピースとか着たいところだけど、そんな恰好をしたら居酒屋で浮いてしまう。
お気に入りの可愛い系の冒険者服にする。ホットパンツはこの前怒られたので、今日は茶色のキュロットにした。ロングブーツを合わせれば、生足は見えない。
ピンク髪も目立つので、パイロットハットの中に入れ込む。耳まで覆う形なので、これなら少年に見えるかもしれない。
もうすっかり辺りは暗くなっている。こんな夜遅くに一人で外出するのは初めてだ。
ニホンにいた時は、自由に夜道を歩いていたけれど、この世界では初めてのことなので、少し、いやかなりドキドキしている。
もう、ウィルティム様が到着していると嬉しいのだけど、そう思いながら、居酒屋のドアを開けると、カランコロンとドアベルが鳴った。
「いらっしゃい~。おや、子どもは入れないよ!」
いきなり大きな声で、女将とみられる人の声が響く。
「せ、成人しています!」
こちらも負けずに大きな声で答える。背も小さいので、どうしても少年に見えてしまうのだろう。
「あれ、ごめんねぇ~、空いているところに座ってちょうだい!」
人々の話す声があちこちで響いている。もう、ウィルティム様は来ているかな?と座る人を見渡していくと、隅の方の席で一人、ちびちびとエールを飲む彼を見つけた。
「あっ、ウィルティム様!」
嬉しくなって、満面の笑みで走り寄っていくと、彼は顔を上げて苦笑いをしながら手招きしてくれた。
「へへっ、来ちゃいました~! 初の居酒屋デビューです!」
彼の向かいの空いている席に座ると、ウィルティム様は私の頭をゴツン、とげんこつで軽く叩いてきた。
「いっ、痛いです」
「当たり前だ、一体、どうやってここまで来た。一人で夜の街を歩くなんて、危険だろう。言ってくれれば、連れてきたのに。まったく」
会うなり説教を始めた彼に、へへへ、と笑って答える。
「でも、お願いしても無理かなって思って。一度、どうしても来てみたかったの、居酒屋」
ついでに店員さんに、エール一つ追加で、おつまみセットも頼む。今日のおつまみセットは、ナッツと日干し小魚の組み合わせだ。懐かしい。
「あっ、これ美味しい!」
冷たいエールをぐいっと飲むと、喉越しが良くて気持ちがいい。久しぶりのアルコールに、気分も上がってくる。
「なんだ、エールを飲んだことがあったのか?」
「へっ? あ、いえ、ハァ、今日が初めて、です」
この身体では。確かに初めてだ。ニホンでは浴びるほど飲んでいたけどね。
「そうか、それにしては、慣れているような、」
「ふへっ? そ、そうですか? きっと、ウィルティム様がいるから安心しているんですよ、私」
誤魔化すように、もう一度ぐびっとエールを飲む。今日の目的は、とにかく一発お願いすることだ。この大ジョッキのエールを1杯飲み終わったら、お誘いしよう。
彼もエールをグイっと飲む。ぷはーっと息を吐く姿は、決してお上品ではないのになぜか仕草が美しい。
「ウィルティム様も、エールがお好きですか? こうした居酒屋には良く来られるのですか?」
アルコールが少し回っているのか、ウィルティム様は顔には出ていないが動作が緩やかになっている気がする。
「居酒屋は、それほど来ていないか、な。リアリムが来たいと言ったので驚いたところだ」
「えっとぉ、ウィルティム様にお願いがあって、その、あの、一度私とエッチして欲しいんです」
エッチ、で意味が通じるかなぁ、と、ちょっと心配になって彼の顔を見ると、口を開けてポカーンとした顔をしていた。
「あの、ウィルティム様?」
「あっ、あぁ、すまない、一瞬耳がおかしくなったようだ。幻聴が聞こえてきて」
私の発言を幻聴と思われたのか、ウィルティム様は再びエールをグイっと飲む。
「幻聴ではないと思います。あの、私とエッチして欲しいんです。純潔を奪って欲しいの、ウィルティム様に」
「――!!!――」
13
あなたにおすすめの小説
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
【完結】記憶にありませんが、責任は取りましょう
楽歩
恋愛
階段から落ちて三日後、アイラは目を覚ました。そして、自分の人生から十年分の記憶が消えていることを知らされる。
目の前で知らない男が号泣し、知らない子どもが「お母様!」としがみついてくる。
「状況を確認いたします。あなたは伯爵、こちらは私たちの息子。なお、私たちはまだ正式な夫婦ではない、という理解でよろしいですね?」
さらに残されていたのは鍵付き箱いっぱいの十年分の日記帳。中身は、乙女ゲームに転生したと信じ、攻略対象を順位付けして暴走していた“過去のアイラ”の黒歴史だった。
アイラは一冊の日記を最後の一行まで読み終えると、無言で日記を暖炉へ投げ入れる。
「これは、焼却処分が妥当ですわね」
だいぶ騒がしい人生の再スタートが今、始まる。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。
前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。
外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。
もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。
そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは…
どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。
カクヨムでも同時連載してます。
よろしくお願いします。
無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる