嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり

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第二章

2-9

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 一部のお嬢様たちには、大人の雰囲気を醸し出しているウィルストン殿下よりも、おちゃめな感じのするユゥベール殿下の方が親しみやすいのだろう。

 彼が近づくと、デビュタント達の間で黄色い声が上がる。

「兄上、踊りを代わりますよ。ホラ、あそこにリアリム嬢もいますので、兄上を待っているようでしたよ」

「ユゥベール、お前も少しは気配りが出来るようになったな、あぁ、彼女のところに行ってくるよ」

 何回も踊ったというのに、疲れを見せないウィルストン殿下が近づいてくる。

 夜会で殿下と踊ったことは、これまでなかった。私を見つめながら、まっすぐに歩いてくる殿下。その纏っている雰囲気は高貴で、優雅で、そして煌びやかなものだ。常人にはない、生まれながらの王子様としての風格を持っている。

「リア、待たせたね。今夜は特に、うん、綺麗だ。私の贈ったドレスがよく似合っているよ」

 甘いテノールが響く。本当はまだ、信じられない。本物の王子様から求婚されているなんて。

「私と踊ってくれるかな、リア、私の可愛い妖精姫」

「っは、はいっ」

 ふわりと笑ったウィルストン殿下は、私の手をとってダンスフロアに導く。デビュタント達と踊っていた時は、どこか冷たい壁を感じるような表情しかしていなかった殿下が、いきなり蕩けるような笑顔を見せた。そのことにまた、周囲の人たちはひそひそと囁き合う。

 さすがに踊り慣れている殿下のリードは、とてもスマートだった。

「ウィルストン殿下、とても、踊りやすいです」

「そう言っていただけると、嬉しいよ」

 私の桃色の髪がふわりと舞う。殿下は曲に乗せて私を上手に舞わせてくれる。

「リア、後から、一緒に噴水を見に行こう。この庭園の噴水は、夜はまた格別だよ、」

「えっ、それは、私」

 夜会の時に、噴水の辺りは逢引きの場所になると聞く。そんなところに殿下と二人で行くとなると、何をされるかわからない。

「君のさくらんぼのような唇、はっ、本当に美味しそうだ」

 この会話を誰かに聞かれたらどうしよう、内心、とても焦ってしまう。

「で、殿下、お願いだから、そんなこと言わないで」

 思わずステップを間違えそうになるけど、殿下はお構いなしにリードを続ける。

「可愛いリア、君は私の恋人だろう? 恋人を満足させるのも、大切なことだよ」

 ひぇぇ、殿下、そんなことを言われると益々噴水のところなんて行けません。

「ありがたくご辞退申し上げます、殿下」

「そんな切ないことを言わないで欲しいな」

 そう言うと、ぐっと私を引き寄せて額に唇を当てた。ダンスの途中だから、きっと傍目には距離が近づいただけに見えるだろう。

 だけど、不意に落とされたキスに、私は顔が真っ赤になっているのを感じる。

「でっ、殿下っ」

「ははっ、リアと踊るのは楽しいな、こんなにダンスが楽しいことはなかった。リア」

 曲が終わりを告げるが、殿下は私の手を離さずにいる。そのままテラスを出て、園庭に繋がる廊下へ連れて行かれそうになったところで、声がかかる。

「殿下、そこまですよ。ほら、デビュタント達が待っています」

 お約束のチャーリー様が、有無を言わさぬ雰囲気で殿下を止めてくれた。

「おのれ、チャーリー、お前、またいいところでなぜ止める」

 苦々しい顔をした殿下が睨んでいる。

「殿下、それが私の役割だからですよ。ホラ、遊んでいないで行きますよ」

 普段通り、チャーリー様は顔をしかめながらウィルストン殿下を連れて行こうとする。

「リ、リアっ、もう、私以外の男と踊るのではないぞっ、いいかっ」

 連れて行かれる殿下に、私は笑顔でひらひらと手をふった。良かった、これなら無事にお仕事(ダンス)をしてくれそうだ。

 私は痛いほどの視線を避けて、壁の花となるべく会場の隅へ向かう。ウィルストン殿下は、デビュタント達から挨拶を受けている。王子としての責務だ。

「すごいなぁ」

 さっきまでの情けないような顔と違い、今はキリっとすました顔をしている。かつては悩んだというけれど、今や立派な王子様をしているウィルストン殿下。

 いつか、あの隣に立つことになる自分など、やっぱり思い浮かぶことができない。

 壁の花になるにしても、せっかくの夜会だ。王宮のデザートは美味しい。

 昼間のお茶会では、いつも一工夫あるお菓子が並んでいた。今日も味わって食べよう、とそこに向かうと私の方に近づいてくる集団が目に入る。

「あ、イザベラ様」

 普段であれば、あの集団の後方にいる私だけど、この前からイザベラ様から敵認定されている。一緒にいられるわけがない。

「あら、ごきげんよう、リアリム様。今日は可愛らしいドレスですのね」

「は、はい。ごきげんよう、イザベラ様。イザベラ様も、今日も美しさが輝き出るようなドレスですね」

 今日のイザベラ様は濃い銀色のドレスだ。殿下の髪色を模しているのだろう、大振りのアメジストのネックレスにイヤリングと、普段以上に殿下の色を纏っていて、圧を感じる。

「あら、こちらでよろしいのですか? 最近、面白い噂を聞きましてよ。ピンク色の髪の令嬢が、二人の王子を惑わしていると、貴方も先ほどから、殿下達と踊っていらしたわね。何かご存じかしら?」

 イザベラ様が口を開くと、周囲にいる取り巻き令嬢達も話を合わせる。

「えぇ、私も聞きましたわ。同じ日に、ユゥベール殿下のアトリエにいた方が、その後はウィルストン殿下と園庭にいたとか」

「ユゥベール殿下のアトリエでは、なにやら裸に近い姿だったとか」

「私は、ウィルストン殿下を足蹴にしていたという噂を聞きましたわ、なんて酷い」

 根も葉もなくはない噂話は、だが少しずつ悪意が入っている。まるで、私が二人の王子殿下を誘惑して、堕落させているような話になっていた。

 

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