嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり

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第二章

2-15

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「えっ、リアが攫われた?」

「そうだ、お前何か知っているか? 昨日、最後に会った時、普段と違った状態ではなかったのか?」

 影からの報告では、リアリムはアトリエから飛び出して、走って行ったという。尋常な状態ではない。何があったのか、ことの次第ではユゥベールを縛り上げる覚悟でここに来た。

 だが、普段と同じようにアトリエで絵に向かう彼は、この部屋を出た後のことは何も知らないという。

「でも、僕リアを怒らせてしまったんだ、兄上」

「何があった。彼女を怒らせるなど、俺の記憶では、滅多なことでは怒るようなことはなかった」

「うん、わかってるよ。リアは、考えなしのようで、いろいろと考えているから。その、僕が悪かったんだ」

「お前、何かしたのか? 俺の許しを得ず、彼女に触れたのか?」

 思わず、ユゥベールが彼女に襲い掛かることを想像する。だが、これまで二人が触れ合うようなことはなかった。

「ち、違うよ! 触れてはいない! ただ、言い過ぎたんだ、僕が」

「どういうことだ、説明しろ」

 俺は怒りの感情をそのままに、ユゥベールを問い詰める。恐る恐ると言った体で、ユゥベールはとても信じられないことを話し出した。

 それは、二人が異世界から転生した記憶を持つという、簡単には信じられないことであった。





「で、お前は、リアリムがイザベラ嬢にワインをかけられることを知っていたというのか?」

 とても簡単には信じられないが、ユゥベールは愚かではない。かつ、彼の描く絵も異世界での記憶を元にしていると言われてみれば、確かにこの世界にない独特の絵を描いている意味もわかる。

「そ、そうなんだけど、イベントは発生する時と、しない時とあるから、確実ではなくて。でも本人が知ってしまうと設定が変わってしまうから」

 なにやらごちゃごちゃと話している。

「とにかく、お前はその、リアリムがイザベラ嬢にワインをかけることも知っていたというのか?」

「それは、僕はそこまではわからないよ。ただ、リアがワインをかけたことで、今回の事件が起きていると思う、うん」

「で、なぜリアリムは怒って出て行ったのだ?」

「それは、えっと、そう、性癖の話をして。そうそう、僕はおしりフェチだから後ろの穴も開発したいって話を冗談交じりで言ったんだ。そしたら、すっごい怒ってしまって。ほんと、それだけだよ」

 ギロリ、と睨むとユゥベールは小さくなって「ごめん、揶揄いすぎた」と言っている。

「お前は、そんな話を彼女にしたというのか」

 事の詳細は後から聞くとして、今はリアリムの行方を追う方が喫緊だ。

「とにかく、ユゥベール。お前は王宮で俺の仕事の代理をしろ。俺はしばらく出かけるからな。そのくらいできるだろう」

「わ、わかった、わかったよ、兄上」

 俺はこいつが見かけ以上に賢いことを知っている。普段はそうと見えないように振舞っていることも。その理由が、俺と後継者争いをしたくないことと知っているから、そのままにしておいた。だが、今は協力してもらうことにする。

「チャーリー、話は聞いていたな。お前はユゥベールを補佐しろ。俺は一度ディリスと会う」

 先ずはマルーク市場だ。彼女が攫われた現場を確認しておきたい。急ぎ馬に乗るため、俺は馬舎に向かった。






「はぁ~、殺されるかと思った」

「ユゥベール殿下、今からウィルストン殿下の執務室への移動をお願いします」

「あ、あぁ、わかったよ。今行く。リアリムのことは、兄上が動いた方が早いからね、」

 ポリポリと頭をかく。流石に今回は僕も動かないとマズイ。リアリムを怒らせたのは僕だから、僕にもできることをしなくては。

「でもまぁ、兄上にバレなくてよかった」

 僕とリアが転生前は双子だったことは、兄上にしてみれば朗報だろう。僕たちの仲がいいのも理解しやすい。

 だけど、ディリスとチャーリーが乙女ゲームの攻略対象だと知られてしまうと厄介だ。あの執着と独占欲の塊のような兄上だ。優秀な二人の部下を殺しかねない。社会的か、肉体的か。ううっ、怖い。

 とにかく、今はリアリムの無事を祈るしかない。こんな、ヒロインが攫われるイベントはなかった。

 転生前の知識もあるから、普通の貴族令嬢とは違ってタフなところはあるけれど、やっぱり女性なのだ。襲われたらひとたまりもない。

 多分、兄上の渡した魔法石のピアスがある程度は守ってくれるだろう。けれど、もう一晩経っている。何の用意もないまま野宿していないといいのだけど。

 兄上の執務室にしばらくは軟禁だ。

 僕は深いため息を吐いて、絵筆はアトリエに置いていくことにした。兄上の代理をするとなると、今後の生活がガラリと変化するだろう。そのことを思うと、僕はまた一つ深くため息を吐いた。




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