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第二章
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(Side レーヴァン)
「閣下! 失礼します」
宮廷騎士団の本部のある建物の一角に、クローディアの父親であるエルモ・ルートザシャ公爵閣下の執務室がある。
ルートザシャ公爵家は代々武官を輩出する名門貴族だ。エルモ氏自身も、若い頃は騎士団を指揮していたという。今は、訓練の指導を中心とした監督者であるが、それでも騎士団への影響力は大きい。
そのため、クローディアの婚約者たる俺も騎士となることは必然だった。体格と運動神経に恵まれた俺は、努力の甲斐もあって卒業後はすぐに宮廷騎士団への所属が決まった。
思いがけないことに、クローディアが卒業するまではブリス学園で指導官として働くことが命じられた。その時は不思議に思ったが、今ならわかる。閣下は、俺が引き続きクローディアと接点を持ち続け、彼女に結婚相手として選ばれるように仕組んだのだ。
「なんだ、レーヴァンか。入れ」
「閣下、昨日お聞きした件です。クローディアのもう一人の婚約者についてもう少し情報を頂きたいのですが」
「あぁ、お前も気がついたか。レーヴァン、きちんと説明していなかったな。すまない、これはクローディアの母親との約束なんだ」
「それは閣下。一体、どういった約束なのでしょうか」
「うむ。実は私が元妻と離婚することになって、後継ぎをどうするか、という問題が起こった。そこで、婚約者を用意するという話になったのだが、私がお前を指名した同時期に、元妻もエール王国で婚約者を選定した。お互いすでに没交渉だったので気がつくのが遅かった」
「それでは、クローディアの与り知らぬところで話が進んだのですね」
「あぁ、まだクローディアは三歳だった。結局、思えば意地の張り合いだったが、そのまま来てしまった」
「結局、お二人の間に生まれたクローディアしか直系の子孫がいない、ということですね」
「まぁ、そうだな。クローディアは、図らずしも二つの国で二つの爵位を引き継ぐ身となってしまった」
「閣下、それでは私とクローディアの結婚を早めてさせてください。そうすれば、公私に渡り彼女をこの手で守ることができます」
俺は必死になって、ルートザシャ公爵閣下を説得しようと努めた。どうしてもクローディアと結婚したい、その想いが溢れていた。
「実は私から決めることができない。彼女が十八歳を過ぎた時点で、結婚相手を決めるのはクローディア、という約束になっている」
「閣下! それでは万一クローディアが俺を選ばなかった場合は、結婚できないということですか?」
「まぁ、そうなるな。だが、お前とクローディアはいい雰囲気ではないか」
公爵閣下は少し目を細めるようにして俺を見ている。
「ですが恋愛的な意味で親しいわけではありません」
「そうなのか? 私には、そうした男女の機微はわからないが、クローディアもお前を悪く思ってはいないだろう」
「閣下! ですからどうか、クローディアを説得してください。俺は、俺は公爵位が欲しいのではありません、彼女と結婚したいのです。閣下!」
「うむ、まぁそうは言われても、な。タチアナは、あぁ、クローディアの母親だが、アイツはエール王国の王位継承権も持つ女傑だ。タチアナと一旦決めた事柄を覆すことは、国家間での緊張感を生み出しかねん。レーヴァン、お前もわがブリス王国の騎士だ。騎士らしく堂々と戦え。クローディアを口説き落とせ」
「閣下、口説くなんて、それは俺にはかなり難しい命令に聞こえるのですが」
「お前なら出来んことはないだろう。なに、クローディアはこちらに滞在している期間の方が長い。学園での友もいるだろう、将来をこのブリス王国で過ごすこと、ついてはお前と結婚することを選ぶはずだ。頑張れ」
「……閣下」
俺は多分情けない顔をしていたのだろう。結局、結婚相手を選ぶ決定権はクローディアが握っている。
俺はじりじりとした思いで昨夜の彼女を思い出す。そう、クローディアが俺に対して幼馴染、または兄のような存在として慕ってくれていることはわかる。だが、それは同時に彼女は俺に対して男女の恋愛感情を持っていないということだ。
今すぐ答えられない理由なのだろう。
いっそ既成事実でもあれば。そう思わなくもないが、それではクローディアの心を失ってしまう恐れがある。
卒業まであと少しだ。昨夜は俺なりに真剣にプロポーズすることができた。彼女を想う気持ちは誰にも負ける気がしない。
エール国の婚約者がどんな男であっても。何なら決闘を申し込めばいい。俺は負けることはない、そんな軟な鍛え方をしていない。
そう思っていた時、コンコンと扉が叩かれる音がする。訪問者がいると伝えられ、なんと入ってきたのはエール王国でのクローディアの婚約者、クレイグであった。
「閣下! 失礼します」
宮廷騎士団の本部のある建物の一角に、クローディアの父親であるエルモ・ルートザシャ公爵閣下の執務室がある。
ルートザシャ公爵家は代々武官を輩出する名門貴族だ。エルモ氏自身も、若い頃は騎士団を指揮していたという。今は、訓練の指導を中心とした監督者であるが、それでも騎士団への影響力は大きい。
そのため、クローディアの婚約者たる俺も騎士となることは必然だった。体格と運動神経に恵まれた俺は、努力の甲斐もあって卒業後はすぐに宮廷騎士団への所属が決まった。
思いがけないことに、クローディアが卒業するまではブリス学園で指導官として働くことが命じられた。その時は不思議に思ったが、今ならわかる。閣下は、俺が引き続きクローディアと接点を持ち続け、彼女に結婚相手として選ばれるように仕組んだのだ。
「なんだ、レーヴァンか。入れ」
「閣下、昨日お聞きした件です。クローディアのもう一人の婚約者についてもう少し情報を頂きたいのですが」
「あぁ、お前も気がついたか。レーヴァン、きちんと説明していなかったな。すまない、これはクローディアの母親との約束なんだ」
「それは閣下。一体、どういった約束なのでしょうか」
「うむ。実は私が元妻と離婚することになって、後継ぎをどうするか、という問題が起こった。そこで、婚約者を用意するという話になったのだが、私がお前を指名した同時期に、元妻もエール王国で婚約者を選定した。お互いすでに没交渉だったので気がつくのが遅かった」
「それでは、クローディアの与り知らぬところで話が進んだのですね」
「あぁ、まだクローディアは三歳だった。結局、思えば意地の張り合いだったが、そのまま来てしまった」
「結局、お二人の間に生まれたクローディアしか直系の子孫がいない、ということですね」
「まぁ、そうだな。クローディアは、図らずしも二つの国で二つの爵位を引き継ぐ身となってしまった」
「閣下、それでは私とクローディアの結婚を早めてさせてください。そうすれば、公私に渡り彼女をこの手で守ることができます」
俺は必死になって、ルートザシャ公爵閣下を説得しようと努めた。どうしてもクローディアと結婚したい、その想いが溢れていた。
「実は私から決めることができない。彼女が十八歳を過ぎた時点で、結婚相手を決めるのはクローディア、という約束になっている」
「閣下! それでは万一クローディアが俺を選ばなかった場合は、結婚できないということですか?」
「まぁ、そうなるな。だが、お前とクローディアはいい雰囲気ではないか」
公爵閣下は少し目を細めるようにして俺を見ている。
「ですが恋愛的な意味で親しいわけではありません」
「そうなのか? 私には、そうした男女の機微はわからないが、クローディアもお前を悪く思ってはいないだろう」
「閣下! ですからどうか、クローディアを説得してください。俺は、俺は公爵位が欲しいのではありません、彼女と結婚したいのです。閣下!」
「うむ、まぁそうは言われても、な。タチアナは、あぁ、クローディアの母親だが、アイツはエール王国の王位継承権も持つ女傑だ。タチアナと一旦決めた事柄を覆すことは、国家間での緊張感を生み出しかねん。レーヴァン、お前もわがブリス王国の騎士だ。騎士らしく堂々と戦え。クローディアを口説き落とせ」
「閣下、口説くなんて、それは俺にはかなり難しい命令に聞こえるのですが」
「お前なら出来んことはないだろう。なに、クローディアはこちらに滞在している期間の方が長い。学園での友もいるだろう、将来をこのブリス王国で過ごすこと、ついてはお前と結婚することを選ぶはずだ。頑張れ」
「……閣下」
俺は多分情けない顔をしていたのだろう。結局、結婚相手を選ぶ決定権はクローディアが握っている。
俺はじりじりとした思いで昨夜の彼女を思い出す。そう、クローディアが俺に対して幼馴染、または兄のような存在として慕ってくれていることはわかる。だが、それは同時に彼女は俺に対して男女の恋愛感情を持っていないということだ。
今すぐ答えられない理由なのだろう。
いっそ既成事実でもあれば。そう思わなくもないが、それではクローディアの心を失ってしまう恐れがある。
卒業まであと少しだ。昨夜は俺なりに真剣にプロポーズすることができた。彼女を想う気持ちは誰にも負ける気がしない。
エール国の婚約者がどんな男であっても。何なら決闘を申し込めばいい。俺は負けることはない、そんな軟な鍛え方をしていない。
そう思っていた時、コンコンと扉が叩かれる音がする。訪問者がいると伝えられ、なんと入ってきたのはエール王国でのクローディアの婚約者、クレイグであった。
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