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第二章
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しおりを挟む地下牢のような所にドサッと乱暴におろされると、男は鍵をガチャリとかけた。
「ここで大人しくしているんだな」
男はそう言うと黒装束の男と一緒に階段を上っていく。
「いたた、はぁ、思いっきり殴られたから、青痕になっているな、これ」
これでも毎日鍛錬している身体だから、このくらいのことなら気を失うこともない。だけど痛いものは痛い。ううっ、と唸っていると後ろの方から「だ、大丈夫?」とか細い声が聞こえてきた。
「誰っ?」
後ろを振り返ると、そこにはやせ細った女性が三人、肩を寄せ合わせて座っていた。薄暗い中良く見ると、他にも牢があり女性達が押し込められている。総勢、二十人程度か。
「わ、私たちも連れてこられて……」
と一人の女性が声を上げた。どうやら、彼女達も攫われてここに連れてこられたようだ。私と違って身代金目的ではなさそうだ。
三人とも手足を縛られている様子はない。どうやら犯人たちは、この地下牢に入れておけば逃げ出すことなど出来ないと思っているようだ。
担がれている間に見た様子だと、ここは使われていない貴族の屋敷のようだ。
「すまないが、ちょっと手伝って欲しい」
私は三人の中でも一番元気のありそうな女性に声をかけると、縛られていた縄を解く手伝いをお願いする。これさえ解ければ何とかなる。
しゅるり、と最後の縄が足から外れ手や足首をぶらぶらさせるが、特に問題はない。
「よしっ、これで大丈夫だ」
そう独り言を言うと、牢の中の彼女達も安心したのか、ほっ、と息を吐いた。
「私たち、どうやら外国に売るために攫われたらしいの」
縄を解くことを手伝ってくれた彼女は小さな声で教えてくれた。どうやら、食事を運んでくる男が漏らしたようだ。そして迎えの一団が明日にも到着するとのことだった。
「明日、か」
ここまでの情報を合わせると、多分男たちは人身売買の下請けなのだろう。黒装束の男が一番強い男で、他は街のゴロツキだ。私を誘拐することで身代金をとり、その金とここにいる女性達を売った金で逃走するつもりだろうか。
そうなると明日の取引まで大人しくして、迎えが来たところで一網打尽にすれば犯罪組織を捕まえることができるかもしれない。
今、この屋敷で一番危険なのはあの黒装束の男だろう。隙のない動きをしていた。私は作戦を考えつつも太ももに張り付けていた道具袋から針金を取り出し、早速鍵穴に差し込む。カチャカチャと動かせばカチャン、と簡単に開錠が出来た。
*****
(Sideレーヴァン)
「今、用意できるのはこれだけだ。明日には全額用意する」
俺とクレイグ、公爵閣下の三人で指定された場所に行くと、そこには気の弱そうな男が一人いるだけであった。いや、気配を消しているが外にも一人いる。
郊外にある小さな屋敷に一億ルータルの現金を持って行ったが、予想通りそこにはクローディアの姿はなかった。
「明日であれば午前中に用意してほしい、とのことです。そうでなければお嬢さまの命はないと思え、とのことです」
この目の前の男も脅されているようだ。脂汗をかきながら、俺たちの方を震えながら見ている。
「ところで、本当にクローディアを攫ったのはお前達なのか、その証拠はあるのか?」
一億もの大金を渡していいのか、その前に証拠を見せろと閣下は男に問いかけた。
「はい、この髪飾りを見てください」
「これは……」
閣下は見覚えのない髪飾りを手にしている。俺はうっすらとそのブルーラベンダー色の髪飾りを思い出した。それは一緒に誘拐されているルフィナ嬢が、以前クローディアの瞳の色だと言っていた髪飾りだった。
「閣下、それはルフィナ嬢のものですね」
俺はボソリと閣下の耳に入れた。二人は一緒に攫われているから、ある意味クローディアも一緒と思われる。
「わかった。確かに娘はそちらにいるようだな」
「おわかり頂けましたでしょうか」
男は震えながらも、こちらが納得したことに安心したようだ。そしてクレイグがボソリ、と閣下に言葉をかけた。どうやら、残りの資金のことであろう。閣下はうむ、と頷いて震える男に言葉をかけた。
「では、残りは明日の朝十刻までに用意しよう。その代わり、クローディアの無事が確認できなければ残りの金額は渡さない」
「はっ、はぃぃ。そ、そう、伝えておきます」
ルートザシャ公爵閣下の怒気のある声に、さらに男は震えたが今できるのはここまでだ。
俺たちは屋敷を出ると、閣下の執務室へと急いで戻るのだった。
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