【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる

季邑 えり

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「さ、ランチ食べよ!今日はカツみたいだよ!」
「うん、そうだね」

 二人は定食を受け取ると、隅の方の席に座った。まだ、コソコソと噂話をされるが、気にしていてもきりがない。それほど、今朝のキスシーンは衝撃的だった。

「あれ、君。今朝のシキズキの、相手の子だよね」

 声をかけてきたのは、爽やかな笑顔をした上級生だった。

「あの、シキズキさんと言うのは…今朝、私に触れた人ですか?」
「え!君、もしかして、シキズキの名前も知らないの?」
「…はい、知りません」

 食事の途中で、声をかけられたアユフィーラは、今朝のことを聞かれて一気に不機嫌になった。

「あちゃ~、アイツ、ほんっと君のことになるとポンコツだな」
 そう言って、ははは、と笑い出した。

「あの、私、知らない方と、知らない方のことでお話することはありません。あと、友人と食事をしていますの」
 
 学園内は、貴族階級も庶民もいる。ルールとしては、平等であるが、これまで貴族の所作を身に着けるように教育されてきた。アユフィーラは、侯爵令嬢である。まだデビューしていないので、知られていないのは仕方がないが、こうして個人的に笑われるのは、耐えられない。

「ああ、すまない。僕は、イザーク・リード・ヒュースレン。この学園の騎士科の最終学年です。貴方の名前を、伺いたいのですが」

 急に貴族の言葉遣いに変えてきたので、アユフィーラも席を立ち、相手の目をみながら名乗った。

「アユフィーラ・デズモンドと申します。私は魔術研究科に入学したばかりなので、よろしくお願いします」

「君、デズモンド侯爵家の…」
「はい、父は侯爵位を賜っています。イザーク様も、リード公爵様のご親戚でしょうか?」
「ああ、母が、リード家の出身だからね」

 サザン帝国にいて、リード公爵家を知らないものはいない。それほど、帝国内でも有力な貴族の一つでもある。が、ここは学園内のため、そうした位についての話は、むしろタブーに近い。

 イザークとアユフィーラが名乗ったことで、それを聞いていた周囲の学生が、口を閉じた。庶民階級の学生は、わからない顔をしていたが、貴族であれば、リード公爵家とデズモンド侯爵家の名前を聞けば、これ以上噂話をするのは、将来に関わってくる。

「僕も、ここで一緒に食べてもいいかな」
「席は空いていますので、どうぞ」

 食堂が普段のざわつきを取り戻すと同時に、イザークがアユフィーラの斜め向かいの席に座った。

「で、アユフィーラさんは、本当にシキズキを知らないの?」
「はい、全く。学園で有名な方ということだけは、わかりました」

「ははっ、確かに。アイツほど有名な奴もいないな」
「ずいぶんと、失礼な方でしたが」

 アユフィーラにしてみれば、突然ファーストキスを奪った相手だ。今朝のことを思い出すと、今でもムカムカしてくる。

「でも、シキズキは君にぞっこんだよ」
「はい?…ぞっこん?」

 ぞっこん?それは、我を忘れて夢中になるほど、好きな状態、という意味か?

「ぞっこん、べた惚れ、執着。君もすぐにわかるよ」
「あの、言われている意味が分かりません…」

 呆れた顔をしてイザークをみると、彼はまた説明を加えた。

「いや、僕から言うのも何だけどね、シキズキは入学式で君とすれ違ってから、取りつかれたように君を探していたよ。それこそ、授業中にも探していたのか、馬から落ちていたよ。ははは」

 どうやら目の前のイザークによると、シキズキという先輩がアユフィーラをずいぶんと探していたらしい。それこそ、時間があれば新入生のクラスに行き、チェックしていたようだ。多分、アユフィーラが午前中に休んでいた時であろう。

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