【完結】初恋相手にぞっこんな腹黒エリート魔術師は、ポンコツになって私を困らせる

季邑 えり

文字の大きさ
83 / 103

3-7

しおりを挟む


 それからは、慌ただしく過ごした。サザン帝国の中枢に働きかけるのだ、使える手を探し、父にも協力してもらい、帝国の皇帝に面談する日を設定することができた。

 皇帝の姿は、宮廷主催の夜会で数えるほどしか、見たことはない。巨大なサザン帝国の頂点に立つ方だ。イザーク先輩がリード次期公爵であることから実現した面談だが、私には恐れ多い。

「イザーク・リード・ヒュースレン次期公爵、ならびにアユフィーラ・デズモンド侯爵令嬢が到着しました」

 皇帝と直接会い、話をするのは初めてだった。臣下の礼をして、言葉がかかるのをひたすら待っていた。

「顔を上げよ」

 威厳のある、声が響く。皇帝はもう既に60代と聞くが、未だ現役である。

「そなた達が、赤の日の制度に物言いを言っている者か。意見を述べよ」

 皇帝の顔色はわからないほど、遠くにあった。こうした場には慣れているイザーク先輩が、意見を述べる。

「今回は、このような機会を設けていただき感謝しております。ついては、訴状に記しましたように、赤の日における皇族ならびに高位貴族の要望については、かつてはその意見が通ったと伺います。ついては、今回もその要望を聞いていただけることを、切望しています」

 イザーク先輩は、一気に話を詰めた。皇帝は、回りくどい言い方を嫌うと聞いている。

「そなた達は、赤の日に登録したと聞いたが。それは何故だ?」

 イザーク先輩が、「恐れながら…」と言いつつ、話を始めた。

「私の意中の女性は、庶民です。そのため、私が爵位を継ぐことになった場合、赤の日以外に彼女を私の妃と認めていただく方法がありませんでした。私は、帝国の制度によって救われたいのです」

「ほう…、リード次期公爵。面白いことを言う。では、デズモンド侯爵令嬢は、何故だ?」

 皇帝は落ち着いた声で、私を伺った。緊張で額から汗が一筋流れる。が、ここで躊躇することはできない。

「はい、私は……魔術師団に所属しております。仕事上で失敗をしてしまい、上司から赤の日に登録するように命令されておりました。それで登録をしたところ、それを聞いた私の恋い慕う方が、私を追って赤の日に登録をしました」

「では、デズモンド嬢。そなたはその、恋い慕う者と一緒になりたいのか?」

「はい、結婚したいと願っております」

 はっきりと、願いを伝える。シン、とした部屋に私の決意が響く。

「若い者は…はは、熱いのぉ。わかった、赤の日については、考慮しよう。今後もサザン帝国によく仕えるように」

 そうして、皇帝との面談が終わった。直訴が通ったのかどうか、判断は難しいが、面談の後に私たちは、それぞれの希望する相手の名前を書いて、提出した。私はシキズキ・ドースを。イザーク先輩は、セリアを。後は帝国の判断になる。

 出来る限りのことをした私たちは、残りの日々を祈りつつ過ごした。シキズキ先輩がサザン帝国に到着するのは彼の体調が整わなかったため、赤の日の当日になったと私はイザーク先輩から聞いた。会いたい思いはあったが、赤の日で万一選ばれなかったことを考えると、震えてしまう。

 シキズキ先輩に伝えたいことがたくさんある。自分勝手すぎた私を許して欲しい。でも、やはり赤の日が怖い。私の軽率な行いが、私自身だけでなく彼の人生をも翻弄している。そのことに後悔しているが、赤の日までに出来るだけのことをしておきたい。

 私は赤の日までの日々を、戦々恐々としつつも、祈りながら過ごした。彼の愛に応えることが、できるように。そのことだけを祈って過ごした。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

婚約者の本性を暴こうとメイドになったら溺愛されました!

柿崎まつる
恋愛
世継ぎの王女アリスには完璧な婚約者がいる。侯爵家次男のグラシアンだ。容姿端麗・文武両道。名声を求めず、穏やかで他人に優しい。アリスにも紳士的に対応する。だが、完璧すぎる婚約者にかえって不信を覚えたアリスは、彼の本性を探るため侯爵家にメイドとして潜入する。2022eロマンスロイヤル大賞、コミック原作賞を受賞しました。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

処理中です...