クラスの訳あり女子の悩みを溶かしたら、甘々彼女になった。

あすれい

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友達〜両片思い 

君の名前を呼びたい

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 期末試験はあっさりと終了した。

 いや、まだ最後の科目の途中なんだけど、もう問題は解き終わったし見直しも済んだ。残り時間も10分を切っている。

 黒羽さんのサポートのおかげで出来は過去最高だと思う。答案をすべて埋められたのなんていつ以来だろう。

 本当に頭が上がらないよな……。

 チラッと黒羽さんに視線を向ける。今の彼女の席は俺の右斜め前。おかげでカンニングを疑われずに見ることができる。

 黒羽さんももう試験の方は済んでいるみたいでぼんやりと宙を見ている。

 あの日、俺達が友達になった日から黒羽さんはずいぶんと変わった。教室では相変わらずだけど、俺の前ではとても明るくなった。

 それを引き出しているのは俺なんじゃないかと思うと嬉しくなった。俺はもう自分の気持ちをはっきりと自覚してしまったから。

 好きだって。
 黒羽さんの存在は俺に勇気をくれるから。

 でもまだ俺は黒羽さんのことを全然知らない。顔を隠しているわけも、『私に関わるな』と言ったわけも。

 たぶんだけどそこが解決しないことには先に進めない気がする。



 ***



 一週間後、試験の結果が出た。

 まぁ、わかりきっていたことだけど俺の負けだ。図書室に来る前に掲示板を確認してきた。

「惜しかったね?」

「全然惜しくないんだけど……?」

 結果は黒羽さんは前回から変わらず1位。あれだけ俺の面倒を見ておいてどうなってるんだか。教えられるってことはそれだけ理解してるってことだけど、腑に落ちないものはある。

 俺はというと前回から大きく順位を上げたものの9位だった。計算ミスをしたり、覚え間違えてたりでちょこちょこ点数を落としていた。

「でも順位は上がったじゃない? これで私に許してもらえるね?」

「もう怒ってないくせに」

「バレてた?」

「バレるもなにも、怒ってる態度じゃなかったし。それにそうじゃなきゃ友達になるのも断るでしょ」

「それもそっか。まぁ、とにかく勝負は私の勝ちってことでいいよね?」

「いいも悪いも結果は変わらないし。で、俺は黒羽さんのお願いを聞けばいいんだっけ?」

「いやに潔いじゃない」

「ごねても仕方ないでしょ。ならさっさと内容を聞いたほうがいいじゃん」

 こういうのはさっさと話を聞いて、さっさと済ませてしまうに限る。

「じゃ、じゃあ言うけど、いい?」

「うん、どうぞ」

「えっと、えっとね……」

 黒羽さんはなぜか言いづらそうにしていて、そのせいでちょっと不安になってきた。

 もしかして、難しいこと言わないよね……?
 さすがに裸で校庭を走れとか言われたら断るぞ?

「名前……」

「名前?」

「名前で呼び合いたいなって、思ったんだけど……」

「お、おぅ……」

 また思ってもなかったお願いが来た。

 名前でってことは今までの呼び方を変えるということで、下の名前を呼ぶということはつまりそれだけ親密ということで……。ということは俺と仲良くしたいってことで、それはそういうことで、えっとえっと……。

「ほ、ほら! 私達、友達になったわけだし? 高原君、黒羽さんじゃ他人行儀っていうか? えっと、その、そんな感じなんだけど、ダメかな……?」

 勢いよく言い訳みたいなことを言い始めたくせに尻すぼみで。モジモジと恥ずかしそうに俯いてしまった。

 ──やっぱり可愛い……。

 こんな可愛いお願い聞かないわけにいかない、っていうか俺も……。

「い、いいよ、わかった」

「本当に?! ね! ね! それじゃ私の名前呼んでみてよ!」

 グイッと身を乗り出した黒羽さんの顔が迫る。長い前髪が触れそうなくらいに。

「うおっ……! なんでそんなに食い気味なんだよ?!」

 近い、近いって……!

「いいから早く!」

 ええい、もうどうにでもなれだ……!

「ええっと……、栞、さん……?」

 なんだこれ……? なんで名前を呼ぶだけでこんなに恥ずかし──

 ってあれ?

「むぅ……」

 黒羽さん……いや、栞さんは唇を尖らせて不満を訴えている。

「なにか気に入らなかったでしょうか……?」

 一応リクエスト通りだと思うんだけど……?
 俺頑張ったんだけど……?

「さん、もいらない……。呼び捨てでいい。やり直してっ」

 いきなりハードル上がりすぎでは?!

「それはちょっと心の準備がっていうか、まだ早いんじゃ──」

「言う事聞くって約束……。私頑張って勝ったのに……」

「うっ……」

 それを言われるともう何も言い返せないわけで。確かにそういうルールだった。なかば強引に決められたとはいえ、俺も承諾してしまったし。

 ゴクッと唾を飲む。緊張する。
 初めて女の子の名前を呼び捨てにする。

 覚悟を決めろ。
 俺も仲良くなりたいんだろ?

 俺の中で誰かが言う。

 それに背中を押されて口を開く。

「し、栞……?」

 い、言えた! 頑張った俺!

「うんっ!」

 花の咲くような、とはきっとこういうことを言うんだろう。相変わらず表情はわかりにくいものの、満面の笑みを浮かべてくれているのはなんとなくわかった。

「その、し、栞? さっき呼び合うって言ったよね? 俺だけじゃ不公平だと思うんだけど……」

「そ、そうね……。えっと……、りょ、涼……?」

 頬を染めて、恥ずかしそうに俺の名前を呼ぶ栞にまた心臓が高鳴る。名前を呼ばれるだけのことがこんなにも嬉しい。家族や親戚以外では初めてだったし。

 でも、それはきっと栞だから。

「ちょっと、何か反応してよ……」

「あ、ごめん……。その、ありがとう」

「ぷっ……、変なの。私からお願いしたのに涼がお礼言うなんて」

「う、うるさいな。なんかそんな気分だったんだよ」

「そっか……。ねぇ、涼?」

「なに?」

「んーん。呼んだだけ」

 なにこれ、可愛すぎる。
 やっぱり栞は笑っていて。

「なんだよそれ。栞のほうが変じゃんか」

「うん、私変かも……」

 俺が言ったことだけど、全然変なんかじゃないよ。
 俺だってもっと呼びたいって思うから。

「栞」

「なぁに?」

「俺も呼んだだけ」

 くすぐったい。フワフワする。
 なんかいいな、こういうの。

「もう涼ってば……」

「ごめん」

「いいよ。それよりさ……」

「うん?」

「これから、仲良くしようね……?」

「あぁ、そうだね」

 やっぱり栞が好きだ。この気持ちはどんどん大きくなる。

 まだ今は……。でもいつか絶対……。
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