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第13話 謎は全て解けた!(解けてない)

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「……で、なんでまだ、この家にいるわけ?」

 次の日、ようやく回復した私が、食堂へ行くと、エイジがちゃっかり席についていた。

「もちろん、捜査のためです」
「犯人は誰でもない、ってわかったでしょ」
「だからこそ、です。誰がどのように毒を入れたのか、そのことを調べなければいけません」
「もともと、王宮執事がやるようなことじゃないでしょ。警察とかに任せたら」
「ケーサツ、とはなんでしょう?」

 あ、いけない。この世界には警察が存在しないんだ。だけど、近いような組織は何かしらあるはず。

「えっと、その、犯罪捜査を専門的に行う組織よ。いるでしょ、そういうの」
「何をおっしゃっているかわかりませんが。犯罪の捜査は、基本的には民間で起きたことに関しては、民間の互助組織が対応し、王族や貴族で起きたことに関しては、王が直接命じた王の代理人が、行うこととなっております。すなわち、今回の事件は、王から命じられた私に一任されているということになるのです」
「嘘でしょ⁉ なに、そのガバガバなやり方⁉」
「妙ですね。これは常識的なことであるというのに」

 ジッとエイジは私のことを見つめてくる。

 いやん、その綺麗な瞳で見つめないで……じゃなくて、まずい、何か疑われている。

「ちょ、ちょっと、混乱してるだけなの。毒のせいで、変な夢も見たし」
「そうですか」

 いまいち納得している様子ではなかったけれど、そこでエイジは追及をやめてくれた。

 すぐに、朝ご飯が始まった。

 虐げられているゼラは、自室でご飯を食べているので、この食堂には姿を現さない。以前の私だったら、その境遇に同情するのだけど、いまはむしろ同じ場所に彼女がいないことにホッとしている。

 食事が進んだところで、「そう言えば」とディアドラが口を開いた。

 珍しい。これまで、食事の場ではエチケットからか、あまり喋ることのなかったディアドラが、会話を始めた。いったい、何を話すのだろう、と思いながら、私はスープを口に含んだ。

「スカーレット、あなた、迷いの森で魔女に会わなかった?」

 ブッ! とスープを思わず噴き出す。

「ス、スカーレット⁉ 大丈夫⁉ まさか、またスープに毒が……!」
「違うの、お母様! ビックリしたから、つい噴き出して――」
「なぜ驚いたのでしょうか」

 すかさずエイジが割りこんできた。

「お、お母様が、変なことを急に聞くから」
「いまのはそういう反応ではありませんでした。隠していた秘密を暴かれた驚きから、スープを噴いた。そんな反応でしたね」

 まずい、この話題はまずい。

「スカーレット、正直に話をしてちょうだい。あなたが迷いの森に行ってから、色々とおかしなことが起こるようになったわ。先日クビにした、厨房で吐いた給仕係にしても、いま思えば、あれは同じように毒を盛られていたのだと思う」

 ディアドラが鋭く切り込んでくる。さすがヴァイオレットの母親、ヴァイオレットの頭の良さは、母親譲りなのかもしれない。

「もしや、魔女の呪い?」

 エイジの言葉に、ディアドラは頷いた。

「可能性があるとしたら、それしか考えられないわ。魔女なら、魔法の力で、食べ物を毒に変えることもできるでしょう。直接手を下さなくても」
「ありえない話では、ないですね」
「何かあったのよ。スカーレット、正直に話してちょうだい。あの時、どうして急に魔女が住んでいることで有名な、あの迷いの森へ行ったの? そこで何があったの?」

 その瞬間、私は閃いた。

 この流れ、利用できるかもしれない。

「実は、私……どうしても、ある御方に恋の魔法をかけたくて……魔女に会いに行ったの」
「誰に恋の魔法をかけようとしたの」
「パーシヴァル王子よ」
「まあ」

 ディアドラは目を丸くした。なんて大それたことをしようとしたのか、この子は、と言いたげな目つきだ。

「それで、魔女には会えたのですか?」

 エイジが続きを促してくる。

「え、ええ……会うことは出来たのだけど……魔法は、与えてくれない、って」
「では交渉は失敗したと」
「だけど、私、どうしても諦めきれなかったの。だから、魔女の家にこっそり忍び込んで、恋の魔法について書かれた本でもないか、探していたんだけど、そこで魔女に見つかっちゃって……危うく殺されるところ、命からがら逃げてきたの」

 完全な作り話だ。

 ヴァイオレットはずっと沈黙を貫いている。この中で唯一、私が毒を盛ったことを知っている人間。だからこそ、私のいまの発言には嘘が含まれていることを看過しているのだろう。でも、私を守るために、黙ってくれている。ありがたい。

「なるほど、これで謎は解けました」

 スッキリ顔でエイジは言う。

 ごめんね、エイジ、全然あなたは謎を解いていないわ。

「全ては魔女の呪いだったのです」
「まあ、ではどうすればいいのかしら」
「以前より、王宮内では、迷いの森の魔女について討伐すべきかどうか、議論が起こっていました。学者筋は、貴重な存在ゆえ、無闇に殺すべきではない、と。しかし、こうしてスカーレット様に手を出した以上、もう看過すべきではないと思います」
「ということは?」
「討伐です」

 エイジは真剣な眼差しで、力強く頷いた。

「魔女退治に乗り出すしかありません」
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