34 / 109
第二話 輪島の塗師
謎の男
しおりを挟む
その日は朝からパン屋のバイトがあった。
駅構内にあるので、出勤前のサラリーマンやOLが次から次へと訪れては、朝食や昼食用のパンを買っていく。
藍子は、途中までレジ打ちをしていたが、店長の指示もあり、三日前に入ったばかりの新人アルバイトへとバトンタッチした。
「上条さんは、外の黒板を直してきて。今日はクイニアマン、まだ焼き上がってないから」
「はーい」
言われた通り、店の外に出て、黒板に書かれている「今日のパン」の中身を修正した。
ついでに、ちょっとした悪戯心で、花の絵をあしらった。
チョークなので少し形は崩れているが、花びらまで丁寧かつ詳細に描いた、加賀友禅調のイラストだ。
「よしっ」
我ながらイラストの出来映えに満足していると、背後から、声がかかった。
「見事な形だな。椿を描いたのか。綺麗だ」
聞き覚えのない声だ。
振り返ると、やはり、知らない男だった。
黒く焼けた肌に、筋骨隆々とした肉体。一八〇センチ以上はありそうな身長。その面構えだけでも防犯になりそうな強面。
あまりの迫力に、藍子は身構えてしまった。
「な、なんでしょうか」
もしかしてナンパだろうか。この日焼けした感じ、サーファーとかかもしれない。だとしたら、サーファー=遊び人という藍子の先入観的には、まず間違いなく、これはナンパだ。
「いや、ただ単に、綺麗な椿だと思って、感想を述べたまでだ」
「あ、ありがとうございます」
違った。悪い人ではないが、変な人のようだ。
顔立ちはかなりの男前で、黙っていればかなりモテることだろう。でも、挙動がちょっとおかしなところがある。表情にほとんど変化はなく、しかも、距離感が欠如しているのか、藍子のパーソナルスペースに遠慮なく入ってきている。
目の前に、男のたくましい胸板があり、ここまで男性に接近されたことのない藍子はドギマギしてしまう。
(やめて、離れて、男に慣れてないんだから!)
実のところ、藍子は男性との交際経験が一切ない。
中学生の時は真面目に勉強していたし、卒業後はすぐに加賀友禅の修行を始めたので、男性と交際するような余裕なんて皆無だった。
だから、晃といい、いまのこの男といい、精神的でも肉体的でも、無駄に距離を詰めてくるようなタイプの男性とは、どう接していいのかわからない。
駅構内にあるので、出勤前のサラリーマンやOLが次から次へと訪れては、朝食や昼食用のパンを買っていく。
藍子は、途中までレジ打ちをしていたが、店長の指示もあり、三日前に入ったばかりの新人アルバイトへとバトンタッチした。
「上条さんは、外の黒板を直してきて。今日はクイニアマン、まだ焼き上がってないから」
「はーい」
言われた通り、店の外に出て、黒板に書かれている「今日のパン」の中身を修正した。
ついでに、ちょっとした悪戯心で、花の絵をあしらった。
チョークなので少し形は崩れているが、花びらまで丁寧かつ詳細に描いた、加賀友禅調のイラストだ。
「よしっ」
我ながらイラストの出来映えに満足していると、背後から、声がかかった。
「見事な形だな。椿を描いたのか。綺麗だ」
聞き覚えのない声だ。
振り返ると、やはり、知らない男だった。
黒く焼けた肌に、筋骨隆々とした肉体。一八〇センチ以上はありそうな身長。その面構えだけでも防犯になりそうな強面。
あまりの迫力に、藍子は身構えてしまった。
「な、なんでしょうか」
もしかしてナンパだろうか。この日焼けした感じ、サーファーとかかもしれない。だとしたら、サーファー=遊び人という藍子の先入観的には、まず間違いなく、これはナンパだ。
「いや、ただ単に、綺麗な椿だと思って、感想を述べたまでだ」
「あ、ありがとうございます」
違った。悪い人ではないが、変な人のようだ。
顔立ちはかなりの男前で、黙っていればかなりモテることだろう。でも、挙動がちょっとおかしなところがある。表情にほとんど変化はなく、しかも、距離感が欠如しているのか、藍子のパーソナルスペースに遠慮なく入ってきている。
目の前に、男のたくましい胸板があり、ここまで男性に接近されたことのない藍子はドギマギしてしまう。
(やめて、離れて、男に慣れてないんだから!)
実のところ、藍子は男性との交際経験が一切ない。
中学生の時は真面目に勉強していたし、卒業後はすぐに加賀友禅の修行を始めたので、男性と交際するような余裕なんて皆無だった。
だから、晃といい、いまのこの男といい、精神的でも肉体的でも、無駄に距離を詰めてくるようなタイプの男性とは、どう接していいのかわからない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる