金沢友禅ラプソディ

 百万石の文化が花咲く地、金沢。数ある伝統文化の中でも一際輝く「加賀友禅」の世界に、かつて独創的な作風で話題になった友禅絵師がいた。彼女の名は上条静枝(かみじょうしずえ)。あまりにも異端児的な作風ゆえ、彼女は関係者から「魔女」と呼ばれていた。

 その「魔女」が若くして亡くなってから、16年が経ち――

 「魔女」の娘である上条藍子(あいこ)は、中学卒業後、母のような友禅絵師になるため、金沢市内のとある友禅工房で修行していた。しかし、28歳になっても芽が出ず、住み込みの生活にも限界を感じていたため、ついに工房を飛び出した。挫折、である。

 一方で、上条綾汰(りょうた)――血の繋がらない弟が、後から友禅の世界に入ったにもかかわらず、藍子と同じ工房での修行の末に、師匠に認められ、ついに友禅絵師として落款の登録まで果たした。そのことに、藍子はすっかりふてくされてしまった。

 ある日、中学の同窓会に出席した藍子は、かつて同級生だった遠野晃(とおのあきら)から頼み事を受ける。新しく喫茶店をオープンする人が、店内の装飾デザインを出来る友禅作家を探しているとのことで、やってみないか? という話だった。
 藍子は、その日を境に、友禅絵師としての経験を基に、デザインの仕事を受け始める。

 一方、弟の綾汰は、大女優 百合マヤから、直々に依頼を受ける。
 新しい舞台で、演じる登場人物の衣装デザインを、かつて自分が世話になった「魔女」の後継者である綾汰に頼みたい、というのだ。
 友禅絵師として自立した直後の大きなチャンスに喜び、綾汰は引き受ける。

 加賀友禅の世界から離れデザインの仕事をこなす藍子と、友禅の王道を進む綾汰。
 別々の道を歩み、時に対立する姉弟。だが、やがて二人の道は交わる。

 これは、加賀友禅の世界で奮闘する姉と弟の物語である。

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※上記に伴い、21年12月30日に、第三章以降を非公開としました。続きは恐れ入りますが、電子書籍にてよろしくお願い致します。
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