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第三話 斬鉄女王の衣
大護との再会
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藍子と綾汰が面食らっていると、すぐにドアが開いて、パジャマ姿の女性が出てきた。パジャマ女は、目つきが悪く、髪の色も金髪。背は綾汰よりも高く、上から見下ろす形で、ジロジロと二人を眺め回した。
そして、何度か綾汰の顔を確認してから、
「あー……」
と何かを理解したような声を上げ、いきなり家の中へと振り返ると、奥に向かって大声で呼びかけた。
「大護! あんたにお客さん! 友禅王子!」
まさかの二つ名を出されて、え? と綾汰が再び戸惑っていると、パジャマ女はフンと鼻を鳴らして、家の中に引っ込んでいってしまった。
入れ替わりに、大護が出てきた。
「驚いたな。どうした、急に」
「ちょっと相談に乗ってほしいことがありまして。それより、いまの人は?」
「ああ、あれは、俺の姉貴だ。あんたの大ファン」
「は……?」
綾汰は顔を引きつらせた。そんな弟の心境が、藍子にはわかる。さっきのパジャマ女の態度は、ファンとしてのそれではなかった気がする。
「すまんな。姉貴は昔からあんな感じなんだ。どうにも素直になれない性格だから、いざ本人を前にして、照れくさくて、ちゃんと受け答えが出来なかったんだろう」
「なるほど。だけど、まさか輪島にまで、僕の名が知られてるなんて、驚きました」
「何度かテレビで取り上げられていたからな。特に、俺達みたいに、伝統産業に携わっている身としては、否が応でも注目せざるをえない。姉貴も、ああ見えて、職人の一人だしな」
「輪島塗の?」
「ああ。それよりも、家の前で立ち話もなんだから、工房の方へ行こう」
工房に移動して、椅子に腰掛けてから、すぐに綾汰は話を切り出した。
「単刀直入に聞きます。姉さんにあって、僕に無いものは、一体なんなんですか?」
「へ⁉」
そんなことをわざわざ聞くために、自分を連れて輪島まで来たのかと、藍子は目を丸くした。
「電話すれば良かったのに」
「面と向かって話がしたかったんだよ。それに、姉さんも同じ場にいる中で星場さんの率直な意見が聞きたいんだ」
「ふうん……」
まだ藍子は納得していなかったが、綾汰の不機嫌そうな表情を見て、これ以上茶々は入れずに黙っていよう、と思った。
それに、綾汰の話の内容も気になっていた。綾汰は、自分のことを見下しているものだと思っていたが、まさかこんな風に意識しているとは、夢にも思っていなかった。
大護は、しばらく腕組みしたまま考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「俺は加賀友禅のことはよく知らない。だが、伝統産業の職人としては同じだ。あくまでも、そういう広い視野において、俺の方に一日の長がある、という前提で聞いてもらいたい」
「大丈夫です。どんな言葉でも、受け止める覚悟は出来ている」
「まず、ひとつ教えてくれ。自信を無くしているのか?」
そのストレートな物言いに、綾汰は体をかすかに体を震わせた。
そして、何度か綾汰の顔を確認してから、
「あー……」
と何かを理解したような声を上げ、いきなり家の中へと振り返ると、奥に向かって大声で呼びかけた。
「大護! あんたにお客さん! 友禅王子!」
まさかの二つ名を出されて、え? と綾汰が再び戸惑っていると、パジャマ女はフンと鼻を鳴らして、家の中に引っ込んでいってしまった。
入れ替わりに、大護が出てきた。
「驚いたな。どうした、急に」
「ちょっと相談に乗ってほしいことがありまして。それより、いまの人は?」
「ああ、あれは、俺の姉貴だ。あんたの大ファン」
「は……?」
綾汰は顔を引きつらせた。そんな弟の心境が、藍子にはわかる。さっきのパジャマ女の態度は、ファンとしてのそれではなかった気がする。
「すまんな。姉貴は昔からあんな感じなんだ。どうにも素直になれない性格だから、いざ本人を前にして、照れくさくて、ちゃんと受け答えが出来なかったんだろう」
「なるほど。だけど、まさか輪島にまで、僕の名が知られてるなんて、驚きました」
「何度かテレビで取り上げられていたからな。特に、俺達みたいに、伝統産業に携わっている身としては、否が応でも注目せざるをえない。姉貴も、ああ見えて、職人の一人だしな」
「輪島塗の?」
「ああ。それよりも、家の前で立ち話もなんだから、工房の方へ行こう」
工房に移動して、椅子に腰掛けてから、すぐに綾汰は話を切り出した。
「単刀直入に聞きます。姉さんにあって、僕に無いものは、一体なんなんですか?」
「へ⁉」
そんなことをわざわざ聞くために、自分を連れて輪島まで来たのかと、藍子は目を丸くした。
「電話すれば良かったのに」
「面と向かって話がしたかったんだよ。それに、姉さんも同じ場にいる中で星場さんの率直な意見が聞きたいんだ」
「ふうん……」
まだ藍子は納得していなかったが、綾汰の不機嫌そうな表情を見て、これ以上茶々は入れずに黙っていよう、と思った。
それに、綾汰の話の内容も気になっていた。綾汰は、自分のことを見下しているものだと思っていたが、まさかこんな風に意識しているとは、夢にも思っていなかった。
大護は、しばらく腕組みしたまま考え込んでいたが、やがて口を開いた。
「俺は加賀友禅のことはよく知らない。だが、伝統産業の職人としては同じだ。あくまでも、そういう広い視野において、俺の方に一日の長がある、という前提で聞いてもらいたい」
「大丈夫です。どんな言葉でも、受け止める覚悟は出来ている」
「まず、ひとつ教えてくれ。自信を無くしているのか?」
そのストレートな物言いに、綾汰は体をかすかに体を震わせた。
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