金沢友禅ラプソディ

逢巳花堂

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第三話 斬鉄女王の衣

あとは綾汰次第

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「あれ、藍子さん?」

 奥へと入り込んだ綾汰は、後ろを向いて、藍子に声をかけた。

 藍子は立ち止まっている。楽屋へ行く気は無かった。

「行ってらっしゃい。私は、ロビーで待ってるから」
「え、なんで? せっかくだから、一緒に来ればいいのに」
「うーん、楽屋を覗けるのは魅力的だけど、遠慮しておく。だって、私は綾汰のお姉ちゃんであって、仕事上は、ただの部外者だもの」
「だけど、あの図案は」

 綾汰が最後まで言い切る前に、藍子は自分の唇に指を当てて、「しーっ」とそれ以上の発言をしないよう遮った。

 藍子の意図を察したか、綾汰は口を閉じた。

 あの図案は、一人だけで思いついたものではないが、そんなのは依頼主には関係の無いことだ。真実を知られたら、ややこしいことになるかもしれない。ましてや、藍子は、あの「友禅の魔女」の血を直に受け継いでいる娘なのだ。

 綾汰のためにも、百合マヤには、自分が今日この劇場にいることは隠しておきたかった。

「……ありがとう。行ってくるよ」

 綾汰は頭を下げて、廊下の奥へと消えていった。

「がんばれー」

 若干、取り残されたことに寂しさを感じつつも、藍子は手を振ってエールを送った。
 特に心配は無かった。
 綾汰だったら、きっと上手くやるだろう。そう信じて、警備員二人に会釈すると、ロビーのほうへと戻っていった。
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