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第41話 研究棟からの脱出

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 悲鳴を上げることも、泣き叫ぶことも出来ない。

 恩師を目の前で殺されたというのに、蓮実にはその死を悼むことすら許されない。

「ちくしょう、誰がやりやがった!」

 書棚の陰に隠れた斗司が、怒りの声を上げる。手には拳銃を持っており、いつでも応戦できるようにしている。だが、相手がスナイパーライフルでは、太刀打ち出来ない。

「おそらく主戦派だ」

 蓮実と同じく、デスクの陰に隠れている一馬が、冷静な声で言った。

「アマツイクサじゃねえのかよ!」
「奴らだったら、真っ先に蓮実さんを撃っている。水沢教授を撃った理由はわからないけど、蓮実さんを避けている時点で、主戦派の可能性が高い」
「あいつら、俺達を敵に回す気か!」
「元から敵対していたんだ、いまさら驚くことでもないだろ」

 それから、一馬は、自分の隣にいる悠人の肩をポンポンと叩いた。

「なーに? カズにーちゃん」
「ここは俺が何とかする。悠人は、斗司と一緒に、蓮実さんを連れて、脱出するんだ」
「オーケー、任せてよ」

 悠人は場違いなほど呑気な調子で返事した後、蓮実を手招きした。

「ねーちゃん、俺と一緒に動いて。大丈夫、俺が守るから」
「え、でも、いまは狙われているんじゃ」
「平気だよ。カズにーちゃんがスナイパーを相手してくれるから」

 などとやり取りをしている間に、一馬はどういうわけか、無防備に立ち上がった。どこからでも撃ってください、と言わんばかりの体勢だ。

「一馬君、なにを……⁉」

 直後、一馬の姿が消えた。突然、その場からいなくなったのだ。

 続けて銃声が響き、部屋の壁に弾が当たった。一馬を狙って撃ったのだろうが、当の本人はどこかへ行ってしまっている。

「カズにーちゃんは瞬間移動が使えるんだ。それでスナイパーのところまで接近して、無力化してくれると思う」
「じゃあ、いつ動けばいいの?」
「何かしらわかりやすい合図を送ってくれると思うよ」

 その時、外から爆発音が聞こえてきた。一馬が手榴弾でも使ったのだろうか。蓮実はギョッとして身を強張らせたが、悠人はすぐに手を掴んで、強引に立ち上がらせた。

「さあ、いまだ! 行くよ!」
「ちょっと、待って……! そんな、いきなり……!」

 心の準備が出来ていなかった蓮実は、足がもつれながらも、悠人に引っ張られるまま、教授室から飛び出した。その後ろから、斗司がついてくる。

 廊下を駆けていき、エレベーターホールまで来たが、エレベーターは使わず、横の階段を使って下り始める。この悠人の判断に、蓮実も賛成だった。この状況下で、狭い箱の中に押し込められるエレベーターは、怖くて使えない。

 階段を下りきって、一階の廊下へと出る。あと少しで外に出られる、というところで、悠人は足を止めた。

「どうしたの? なんで……」
「シッ。足音が聞こえる」

 耳を澄ませば、確かに、廊下を曲がった向こうからパタパタと足音が聞こえてくる。

 悠人は腰のホルダーから銃を取り外し、音のするほうへと向けた。いつでも撃てるように構えている。

 足音が、止まった。

 直後、廊下の曲がり角から、戦闘服に身を包んだ兵士が飛び出してきて、サブマシンガンを乱射してきた。

 咄嗟に悠人は、蓮実の体を掴んで、一緒に階段のほうへと身を隠した。

 まだ階段から出ていなかった斗司は、チッと舌打ちすると、悠人と入れ替わりに、廊下へと飛び出した。そして、二発ほど敵に向かって撃った後、また階段へと身を隠す。

 足音が迫ってくる。それも、一人ではない。複数人の足音だ。

「この感じは、アマツイクサだ!」
「厄介な連中までやって来ちゃったね……!」
「ちくしょう! やるしかねえな!」

 タイミングを見計らって、斗司は廊下へと飛び出す。

 ちょうど接近していたアマツイクサ隊員達と鉢合わせる。相手側は慌てることなく、太もものホルダーからナイフを抜き、近接戦闘へと突入した。

 斗司は、隊員のナイフによる連撃を、素早いフットワークでかわすと、一気に相手の懐へと潜りこみ、その顎にアッパーカットを叩きつけた。

「ぐあ⁉」

 隊員は叫び、よろめきながら後ろへと下がる。

 入れ替わりに、もう一人の隊員が前へ進み出て、ナイフで斬りかかってきた。

 だが、斗司はその攻撃を恐れることなく、俊足で間合いを詰め、みぞおち目がけて肘打ちを放った。踏み込む音と、肘打ちの当たる音が重なって、廊下に重々しい音が響き渡る。吹っ飛ばされた隊員は、床に転がり、呻きながらのたうち回る。

 さらに三人目の隊員が、最初の隊員を押しのけ、サブマシンガンを構えてきた。

 斗司は前へと進み出ると、隊員の腕を掴み、銃口をあらぬ方向へと向ける。隊員は構わずに発砲するが、狙いを逸らされているので、斗司には当たらない。

 そのまま斗司は、相手のことを投げ飛ばした。頭から床に叩きつけられた隊員は、気を失ったか、動かなくなる。

 最初にアッパーを喰らってよろめいていた隊員が、復活し、再びナイフで襲いかかってきた。

「しつけーんだよ!」

 斗司は体を回転させ、相手の頭目がけて、後ろ回し蹴りを放った。こめかみに思いきり踵を叩き込まれた隊員は、壁に向かって吹っ飛び、そして力を失って、壁にもたれたままズルズルと崩れ落ちていく。

「よし、片付けた! 早く脱出するぞ!」

 そう斗司が呼びかけた時、廊下の向こうから、新手が二名現れた。

 やはり、アマツイクサ。だが、隊員達は皆フルフェイスのヘルメットを装着しているのに対し、この新手は頭部に装備を付けていない。

 直感的に、斗司は、相手が部隊長クラス二人であると悟った。
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