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おしゃまな妖精の小さな願い
おしゃまな妖精の小さな願い③
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開店時間ギリギリになっても、汚れ取りの魔法は成功しなかった。僕は汚れがなくなったピカピカのカウンターを想像するんだけど、魔女さんが言うにはちょっとちがうらしい。汚れが落ちるとこを想像しなさいって言われても、掃除なんて学校の掃き掃除と雑巾がけくらいしかしたことないもん。
カウンターの裏から立て看板を運びながら、
「料理の魔法ならできた気がする!」
と言ってみた。実は僕、カンタンな料理ならできるんだ。
「へえ、料理得意なんだ?」
「カレーとかシチューとかなら作れます!」
「それはすごい。じゃあ、明日のごはんはお願いしようかな」
「じゃあ、料理の魔法教えてくれますか?」
僕は魔女さんにきいてみた。
「カレールーを作る魔法なら」
「ほんと?」
やったぁ。僕はルンルン気分で店のドアに向かった。
あ、そういえば、昨日は世界のつながりが切れたって言ってた。じゃあドアの向こうは、昨日と同じ黒白のマーブルなんじゃ……
「大丈夫だよ。開けてごらん」
魔女さんは優しく言ってくれる。
僕は、そろそろとドアを開けてみた。
ドアの外は森だった。
「わあ……」
大きな木がいくつもいくつも生えて、緑の葉っぱは星空を隠すくらいにしげってる。葉っぱのすきまからは、月の光が切れ切れに落ちていた。不思議なんだけど、そんな森の中でも全然暗くないんだ。
地面を見ると、青くぼんやり光るキノコが、点々って感じに生えてた。森が暗くならない理由は、このキノコのおかげだったんだ。
まるで、RPGに出てくる森みたい。僕ん家の近くじゃ、こんなの見たことないよ!
外に出て、立て看板を置く。
僕は大きく息を吸いこんだ。さわやかだけどちょっと土っぽいニオイが、鼻を通って胸に入る。空気がおいしいって、きっとこういうことだ。
「そんなにめずらしいかい?」
「うん、とっても!」
僕は森を探検したい気持ちになったけど、ぐっとこらえた。だって今は仕事中。これから来るお客様に、魔法具を売らなきゃいけないんだ。
ふと、僕は不安になった。ここは森で、周りには家なんてないじゃんか。お客さま、来るの?
「この世界の今日は、とても美しい夜だね」
魔女さんは、店から出てきてそう言った。
そういえば、星降堂は異世界転移するお店だって聞いた。この森は、もしかして異世界?
「ここ、どんな異世界なんですか?」
「ここはね、妖精がいる世界だよ」
「妖精?」
僕は首をかしげる。
その時、木の葉の間からふわふわと光が降りてきた。
首をそらして、目をこらして……よく見てみると、それがとっても小さな人の形だっていうことがわかった。僕の手より、少し小さいかなっていうくらいの大きさだ。
背中には虫のハネみたいなのがついてるけど、ハネは羽ばたくたびに色が変わる。ピンクだったのが、黄色くなったり、青くなったり。
僕の目の前まで降りてくると、女の子の妖精はくすりと笑って、星降堂の中へ入っていく。
「いらっしゃいませ」
僕はえんりょがちにそう言った。妖精には聞こえなかったみたいで、振り返ってはくれなかった。
上を見あげると、一人、また一人。妖精たちが羽ばたいて星降堂に入っていく。店の中に入っていくと、魔女さんが妖精にまとわりつかれていた。
「ねぇねぇ、魔女さん。星降堂では、めずらしいものが買えるんでしょう?」
「お支払いはコイン? それとも宝石?」
「そうだねぇ……じゃあ、君たちのりん粉をもらえるかい?」
妖精たちは魔女さんの頭の上を飛び回る。色んな色をした光る粉が、魔女さんの手に降り注ぐ。魔女さんは指をふって、粉の全部を魔法で小ビンの中につめた。
りん粉を魔女さんにあげた妖精たちは、魔女さんからおかしをもらってた。クッキーだったり、アメだったり、ラムネだったり。時々魔女さんのイタズラで、アメの包み紙だけもらって怒ってる妖精もいたりして、それが面白くて僕は笑っちゃった(もちろん、魔女さんはイタズラを謝って、ちゃんとおかしを渡してたよ)。
妖精たちはおかしをもらうと、星降堂を出て行った。僕は手を振って「ありがとうございました」って言いながら見送った。
ホンモノの妖精を見たのなんて初めてで、僕はなんだか夢を見てるみたいで、ちょっとだけ頭がくらくらする。妖精たちは、すごくかわいい。
妖精たちが帰った後。
僕が地面を見ると、そこに小さい妖精がいた。
「こんにちは。私も星降堂に用があるの」
その妖精は女の子。赤い髪はおだんご、四葉のクローバーの髪飾りをつけて、花びらで作ったピンクのドレスを着てた。女の子の妖精は、さっきおかしを買って帰った妖精よりも小さいハネをしてる。
「あ、いらっしゃいませ」
僕は挨拶する。
てっきりこの妖精も飛ぶんだろうと思ってた。だけど、妖精は飛ぼうとせずにこう言った。
「あら、あんな広いお店を、レディに歩かせるつもりなのかしら?」
僕はびっくりした。遠回しにイヤミを言われたからだ。
「あなたの肩に乗せてちょうだいな」
「……えっと、どうやって?」
肩に誰かを乗せるなんて、やったことない。妖精にきいてみたら、妖精は肩をすくめて言った。
「しゃがんで、手を出して」
言われるままにしゃがんで、右手を開いて妖精に差し出す。妖精はぴょんとジャンプして飛び乗った。僕の服のシワを階段代わりにして、肩に登る。
肩に乗った妖精は、そこに座って足をぷらぷらさせた。
「さあ、案内してちょうだい。店員さん」
生意気だなぁと思ったけど、相手はお客様。僕は黙って星降堂の中に入った。
「いらっしゃい」
魔女さんが妖精に声をかける。妖精は魔女さんの怪しい雰囲気にびっくりして、僕の髪をぐっとつかんだ。痛いんですけど。
「おや……妖精さんは私より、空に接客してもらう方がいいのかな?」
魔女さんはニヤニヤ笑って僕を見る。
うそでしょ。僕がお客さまの対応するの?
と、思っていたら、妖精さんは魔女さんにこう言った。
「私は妖精さんじゃないわ。マーヤよ。ピクシーのマーヤ」
マーヤさんは僕の肩に立って、胸を張って名前を言った。
「あなた、ソラっていうのね。ねぇ、私に魔法具を選んでちょうだいな」
マーヤさんは僕の耳元でささやいた。
「魔法具を? おかしじゃなくて?」
「私はおかしより魔法具がほしいの」
僕は魔女さんをちらりと見る。
魔女さんは僕に向かってニヤッと笑って、テレパシーを送ってきた。
カウンターの裏から立て看板を運びながら、
「料理の魔法ならできた気がする!」
と言ってみた。実は僕、カンタンな料理ならできるんだ。
「へえ、料理得意なんだ?」
「カレーとかシチューとかなら作れます!」
「それはすごい。じゃあ、明日のごはんはお願いしようかな」
「じゃあ、料理の魔法教えてくれますか?」
僕は魔女さんにきいてみた。
「カレールーを作る魔法なら」
「ほんと?」
やったぁ。僕はルンルン気分で店のドアに向かった。
あ、そういえば、昨日は世界のつながりが切れたって言ってた。じゃあドアの向こうは、昨日と同じ黒白のマーブルなんじゃ……
「大丈夫だよ。開けてごらん」
魔女さんは優しく言ってくれる。
僕は、そろそろとドアを開けてみた。
ドアの外は森だった。
「わあ……」
大きな木がいくつもいくつも生えて、緑の葉っぱは星空を隠すくらいにしげってる。葉っぱのすきまからは、月の光が切れ切れに落ちていた。不思議なんだけど、そんな森の中でも全然暗くないんだ。
地面を見ると、青くぼんやり光るキノコが、点々って感じに生えてた。森が暗くならない理由は、このキノコのおかげだったんだ。
まるで、RPGに出てくる森みたい。僕ん家の近くじゃ、こんなの見たことないよ!
外に出て、立て看板を置く。
僕は大きく息を吸いこんだ。さわやかだけどちょっと土っぽいニオイが、鼻を通って胸に入る。空気がおいしいって、きっとこういうことだ。
「そんなにめずらしいかい?」
「うん、とっても!」
僕は森を探検したい気持ちになったけど、ぐっとこらえた。だって今は仕事中。これから来るお客様に、魔法具を売らなきゃいけないんだ。
ふと、僕は不安になった。ここは森で、周りには家なんてないじゃんか。お客さま、来るの?
「この世界の今日は、とても美しい夜だね」
魔女さんは、店から出てきてそう言った。
そういえば、星降堂は異世界転移するお店だって聞いた。この森は、もしかして異世界?
「ここ、どんな異世界なんですか?」
「ここはね、妖精がいる世界だよ」
「妖精?」
僕は首をかしげる。
その時、木の葉の間からふわふわと光が降りてきた。
首をそらして、目をこらして……よく見てみると、それがとっても小さな人の形だっていうことがわかった。僕の手より、少し小さいかなっていうくらいの大きさだ。
背中には虫のハネみたいなのがついてるけど、ハネは羽ばたくたびに色が変わる。ピンクだったのが、黄色くなったり、青くなったり。
僕の目の前まで降りてくると、女の子の妖精はくすりと笑って、星降堂の中へ入っていく。
「いらっしゃいませ」
僕はえんりょがちにそう言った。妖精には聞こえなかったみたいで、振り返ってはくれなかった。
上を見あげると、一人、また一人。妖精たちが羽ばたいて星降堂に入っていく。店の中に入っていくと、魔女さんが妖精にまとわりつかれていた。
「ねぇねぇ、魔女さん。星降堂では、めずらしいものが買えるんでしょう?」
「お支払いはコイン? それとも宝石?」
「そうだねぇ……じゃあ、君たちのりん粉をもらえるかい?」
妖精たちは魔女さんの頭の上を飛び回る。色んな色をした光る粉が、魔女さんの手に降り注ぐ。魔女さんは指をふって、粉の全部を魔法で小ビンの中につめた。
りん粉を魔女さんにあげた妖精たちは、魔女さんからおかしをもらってた。クッキーだったり、アメだったり、ラムネだったり。時々魔女さんのイタズラで、アメの包み紙だけもらって怒ってる妖精もいたりして、それが面白くて僕は笑っちゃった(もちろん、魔女さんはイタズラを謝って、ちゃんとおかしを渡してたよ)。
妖精たちはおかしをもらうと、星降堂を出て行った。僕は手を振って「ありがとうございました」って言いながら見送った。
ホンモノの妖精を見たのなんて初めてで、僕はなんだか夢を見てるみたいで、ちょっとだけ頭がくらくらする。妖精たちは、すごくかわいい。
妖精たちが帰った後。
僕が地面を見ると、そこに小さい妖精がいた。
「こんにちは。私も星降堂に用があるの」
その妖精は女の子。赤い髪はおだんご、四葉のクローバーの髪飾りをつけて、花びらで作ったピンクのドレスを着てた。女の子の妖精は、さっきおかしを買って帰った妖精よりも小さいハネをしてる。
「あ、いらっしゃいませ」
僕は挨拶する。
てっきりこの妖精も飛ぶんだろうと思ってた。だけど、妖精は飛ぼうとせずにこう言った。
「あら、あんな広いお店を、レディに歩かせるつもりなのかしら?」
僕はびっくりした。遠回しにイヤミを言われたからだ。
「あなたの肩に乗せてちょうだいな」
「……えっと、どうやって?」
肩に誰かを乗せるなんて、やったことない。妖精にきいてみたら、妖精は肩をすくめて言った。
「しゃがんで、手を出して」
言われるままにしゃがんで、右手を開いて妖精に差し出す。妖精はぴょんとジャンプして飛び乗った。僕の服のシワを階段代わりにして、肩に登る。
肩に乗った妖精は、そこに座って足をぷらぷらさせた。
「さあ、案内してちょうだい。店員さん」
生意気だなぁと思ったけど、相手はお客様。僕は黙って星降堂の中に入った。
「いらっしゃい」
魔女さんが妖精に声をかける。妖精は魔女さんの怪しい雰囲気にびっくりして、僕の髪をぐっとつかんだ。痛いんですけど。
「おや……妖精さんは私より、空に接客してもらう方がいいのかな?」
魔女さんはニヤニヤ笑って僕を見る。
うそでしょ。僕がお客さまの対応するの?
と、思っていたら、妖精さんは魔女さんにこう言った。
「私は妖精さんじゃないわ。マーヤよ。ピクシーのマーヤ」
マーヤさんは僕の肩に立って、胸を張って名前を言った。
「あなた、ソラっていうのね。ねぇ、私に魔法具を選んでちょうだいな」
マーヤさんは僕の耳元でささやいた。
「魔法具を? おかしじゃなくて?」
「私はおかしより魔法具がほしいの」
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