星降堂の魔女の弟子

LeeArgent

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私が本当にやりたいこと

私が本当にやりたいこと⑨

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 夜が過ぎて、空が青さを取り戻したところで、星降堂ほしふりどうは営業を終える。僕は魔女さんにいれてもらったココアを飲みながら、メロウちゃんから転がり出てきた意志の宝石をながめていた。
 ピンクの宝石なんて見たことないって、僕はつぶやいた。そしたら、魔女さんがピンク色の宝石をいくつか僕に見せてくれた。

「これがローズクォーツ。これがモルガナイト」

 並べられた宝石は、どっちもイチゴミルクみたいな色をしててよく似てるから、全く見分けがつかなかった。
 どっちもかわいい色をしててきれいな宝石だけど……

「どちらもキレイな色をしているけど、メロウの夢の宝石にはかなわないね」
 
 魔女さんはそう言って、意思の宝石を見た。
 僕も魔女さんと同じ感想。同じような、イチゴミルクみたいなピンク色だけど、意思の宝石の方がかがやいているし、うんときれいだった。

「夢の宝石……メロウちゃんの夢のひとかけら……」

 しみじみと僕はつぶやく。メロウちゃんの大きな夢の一つをもらったようで、僕はうれしかった。

「大人はね、子供の力を素直に信じることができないのさ」

 魔女さんは言う。僕は魔女さんの顔を見た。
 魔女さんは優しい笑顔をうかべている。いつもの魔女さんじゃないみたい。

「失礼だね。私はいつだって優しいだろう?」

 魔女さんは「くひゅひゅ」って笑う。あーあ、優しい笑顔の方がキレイだったのに。
 魔女さんはひとしきり引き笑いした後で、僕にこう言ってくれた。

「同じくらいの年だからこそ、素直にメロウの応援ができたんだろうね。お手柄だよ、空」

 わあ。魔女さんからほめられた。なんだか、うれしいけど照れちゃうな。

 僕は、夢の宝石をしまうために木箱を取り出した。
 集めた意思の宝石は、店の隅でほっとかれていた木箱の中に入れることにした。そうしてもいいか魔女さんに聞いたら、木箱に魔法をかけて、僕のポケットの中にしまえるようにしてくれた。ポケットの中におさめるときだけ小さくなって、ポケットから取り出す時には大きくなるんだって。僕だけのフシギな木箱だ。

 意思の宝石は、今のとこ三つ。僕、意思の宝石を集める才能があるのかも。なんて思っていると。

自信過剰じしんかじょうだと、足元をすくわれるよ」

 って、魔女さんが笑う。
 別に、思うだけならいいじゃないか。なんて僕は思ったけど、魔女さんは「くひゅひゅ」と笑っていた。

「そういえば、空に聞いていなかったね」

 魔女さんが、いきなりそう言った。

「聞いてなかったって、何をですか?」

 僕はたずねる。僕が魔女さんに話していないことって、なんだろう。

「空は、なんで魔法使いになりたいんだい?」

 木箱を持っていた手から力が抜けた。僕は木箱を落としそうになって、それを見た魔女さんが魔法をかける。木箱は僕の手に貼りついて、ギリギリ落とさずにすんだ。
 魔女さんに、理由を話すのは怖かった。魔女さんはよく僕をからかうから、お母さんを生き返らせたいっていう気持ちもからかわれたらって思うと、なかなか言えなかったんだ。
 でも、魔女さんは僕の心をのぞくことができる。この時も、魔女さんは僕の心を読み取って、ため息をつきながら僕にこう言った。

「私を疑いすぎじゃないかい? 私にだって、最低限の分別ぶんべつはあるさ」

「この前、マーメイドに恐喝きょうかつしたじゃないですか」

「それはそれ。流石にね、弟子が思い悩んでいることをバカにするほど、非情なヒトではないよ」

 魔女さんは時々むずかしい言葉を使う。魔女さんからもらった辞書によると、たしか……非情っていうのは、冷たい人のことだ。
 魔女さんはそうじゃない。それは僕もよく知っている。

「去年、お母さんが死んじゃったんです」

 ぽつりと話す。僕の言葉を、魔女さんは黙って聞いている。
 僕は、魔女さんの顔をチラチラ見上げながら、お母さんのことを話し始めた。

「おなかの奥にガンが見つかって、大きいガンのかたまりは取ったんだけど、体の別のところに移っちゃって、それで死んじゃったんです。
 お母さんが死んじゃった時、僕学校にいて……急だったから、間に合わなくて……」

 ああ、だめだ。お母さんのことを思い出したら、じわって目の奥が熱くなる。泣いちゃダメだって思うほど、涙があふれて止まらなくなって、机にボタボタ涙が落ちた。 
 見えないブラウニーは、僕にタオルを持ってきてくれた。僕はお礼を言いながらタオルで顔をこする。あっという間に、タオルは涙でベショベショになっちゃった。

「そっか。君も、か……」

 魔女さんのつぶやきが聞こえて、僕は魔女さんの顔を見た。魔女さんはなぜか、悲しそうな、泣きそうな顔をしていた。僕が片付け忘れた、夢の宝石を見つめてる。
 ゆらゆらにじむ目で魔女さんを見ていると、魔女さんは僕に気付いて優しく笑った。

「私が意志の宝石を集めているのはね、とある魔法を完成させるためなんだ」

 僕は首をかしげた。とある魔法って?

「それはね、ヒトを生き返らせる魔法だよ」

 魔女さんの言葉を聞いて、僕は目を見開いた。

「私が生きている中で、ヒトを生き返らせる魔法を見たことはない。ただ私も、生き返らせる魔法が欲しくてね。だから、自分で作ることにしたのさ」

 ああ、だから僕が何回魔法を試しても、お母さんは生き返らなかったんだ。今まで、人を生き返らせる魔法って作られてこなかったんだ。
 でも、人を生き返らせる魔法を、魔女さんは研究している。僕はなんて運がいいんだろう。

「私はね、意思の宝石が、生き返りの魔法に使えるんじゃないかと思っているんだ」

 魔女さんは、僕に夢の宝石をよこしてきた。僕は受け取って、それを見つめる。意志の宝石と同じように、メロウちゃんの歌声が聞こえてきて、僕は宝石を耳によせた。
 メロウちゃんの力強い歌声。応援歌みたいだなって、僕は思った。

「空、どうするかは君が決めるといい。
 宝石を世界のカギにするか、母の生き返りに使うか。
 でも、生き返りの魔法は、まだ完成していない。完成するのがいつになるかわからない。だから、ゆっくり考えて決めるといいよ」

 僕はうなずく。
 僕はお母さんに会いたい。僕が持ってる意志の宝石を全部使ったっていい。
 だけど、魔女さんはゆっくり考えなさいって言った。だから、意志の宝石が八つ集まるまでは、じっくり考えようと思う。

 ところで……

「魔女さんは、なんで生き返りの魔法を研究してるんですか?」

 僕はたずねる。
 すると魔女さんは、赤い目でパチリとウインクして、こう言った。

「私は永遠に生きるつもりなのさ」

 何それ。自分のためってこと?
 魔女さんのお茶目さが面白くて、僕は声に出して笑った。

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『私が本当にやりたいこと』
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