星降堂の魔女の弟子

LeeArgent

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最期に一目会えたなら

最期に一目会えたなら⑦

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「大丈夫よ」

 ヨルズさんは言う。

「私は森にかえるの。
 姿形は消えてしまうけど、私の命は森に溶け、木々が生きるかてになる。木々は大地を抱きとめて、動物を生かすゆりかごになる。世界の全てに私は満ちて、あなたを生かすかてになる。
 安心して。私はずっと……グリムニル……あなたをそばで見守っているわ」

 グリムニルさんは、ただうなずく。大人なのに、子供みたいに泣きじゃくりながらうなずいていた。

「空君」

 ヨルズさんによばれて、僕は背筋をのばした。
 ヨルズさんを見る。

 ヨルズさんの顔は、すっかり木の皮みたいになってた。目と口だけはまだエルフのままで、僕をおだやかに見つめてくる。

「あなたのお母さんも、きっと同じ。
 空君を生かす何かになって、空君をいつまでも見守ってる。だから、あなたはただ感じるだけでいいの」

 ほんとかな。

「ほんとに、お母さん、そばにいるかなぁ」

 ヨルズさんはほほえんだ。ほとんど木になっているのに、とても優しくてあたたかい、そんなほほえみ方で、僕を見つめた。

「きっといるわ。だって『お母さん』は、いつだって子供を愛しているもの」

 そうなのかな。
 お母さん、今も僕を愛してくれているのかな。
 
 そうだといいなと、思った。

「グリムニル、愛してる」

「僕もだよ、母さん」

 グリムニルさんの言葉を聞いて、ヨルズさんは森にかえった。

 ヨルズさんの全身が木になってしまった瞬間、ヨルズさんの体から、真っ白でまぶしい光があふれだした。でも、目に突きささるような感じじゃなくて、まるで僕らを包み込むような、あたたかい光だった。

 その光がおさまった時、ヨルズさんだった木はキレイな花を咲かしていた。

 屋根を突き抜けて伸びた、ヨルズさんだった大きな木。元々あった木に寄りそうみたいに立っていて、僕らを見下ろしているみたいだ。
 枝いっぱいにピンクの花をつけて、でもサクラみたいに散ることはなくて。まるで、グリムニルさんに見せたほほえみみたいに、やさしい。

 あんまりキレイで、僕もグリムニルさんも、すっかり見とれてしまった。

「よかった……」

 グリムニルさんはつぶやく。

「母さんの最期さいごに間に合って、本当によかった……
 ありがとう、空。君がいたおかげだ」

 僕は首をふる。

「ぜんぜん大したことしてないよ。ただ僕は、グリムニルさんが、間に合わなくなるのがイヤだったんだ」

「君にとっては大したことなくても、私にとっては大きなことだよ。本当に、ありがとう……」

 僕はなんだか照れくさくなって、ごまかすために「えへへっ」て笑った。

「あれは……」

 グリムニルさんが木を見上げる。
 僕もつられて上を見た。

 木の枝に、真っ赤な何かがぶら下がっていた。グリムニルさんは背伸びして、それを取る。

「ああ、これは……母さんの愛だ……」

 グリムニルさんが、僕に見せてくれた。
 意思の宝石だった。真っ赤で、波打ってて、ピカピカしてる。耳をすませると、ヨルズさんの力強くて優しい歌声が聞こえてきた。
 これは、ヨルズさんの愛。グリムニルさんへ向けた、大きすぎる愛の宝石だ。

「空……受け取ってほしい」

 あんまり突然のことで、僕はびっくりしてしまった。

「え? いや、でもこれは……」

 こんなに大切な感情、僕は受け取れない。えんりょしようと思って首をふると、グリムニルさんは僕の手に愛の宝石をにぎらせてきた。

「受け取ってほしい。私には、君の心づかいに見合うお礼ができない。だからせめて、この意思の宝石を受け取ってくれないか」

 僕は迷う。本当に、受け取っていいの?

「母さんもきっと、そうしてほしいはずだ」

 ピンク色の花は、さわさわとゆれた。ひらりと落ちた一枚の花びらが、宝石によりそった。

「ありがとう」

 僕は、愛の宝石を受け取る。愛の宝石は、うれしそうにキラキラ光って、僕の手にあたたかさを分けてくれた。
 気付けばすっかり朝になっていて、マドから差し込んでくる太陽の光が、ヨルズさんの木をやわらかくてらす。ヨルズさんの木は、とても気持ちよさそうに、葉っぱを風にゆらしていた。
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