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これまでも、これからも、ずっとそばに…
これまでも、これからも、ずっとそばに…⑦
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…………
また、ちがう景色だ。
ここは、よく知ってる。星降堂の二階にある、夢渡りの扉が置いてある部屋。
ここにいるのはジャックさん一人。赤い宝石を持った手を、鏡の中に突っ込んで、抜く時には何にも持ってなかった。多分、意思の宝石を、夢渡りの扉に入れたんだ。
「今日は魔法で宝探しゲームしようと言ってたのに、シュヴァルツはまだ来ないのか……」
ジャックさんはつぶやいて、階段をおりていく。僕はそれについて行く。ジャックさんは、魔女さんを探しているんだと思う、多分。
地下室のドアの前を通ると、ドアの向こうから声が聞こえてきた。まるで、さけんでいるみたいな。ちょっとだけ怖い。
ジャックさんも、声に気づいたみたい。サァッと顔を青くして、地下室のドアを勢いよく開けた。
「シュヴァルツ、どうした!」
地下室への階段は真っ暗だ。そんなに長くない階段のはずなのに、もう一枚のドアは真っ暗で見えない。おまけに、ドアを開けた分、さけび声が大きくなって……僕は怖くてたまらなくて、ジャックさんのスーツのすそをギュッとつかんだ。
そろり、そろり。ジャックさんは階段を下りる。ようやく見えたもう一枚のドアは、まるで中からたたかれてるみたいに、ドンドン音を立ててゆれていた。
ドアを開けると、その向こうには魔女さんがいた。
マリーゴールドの花畑は、今は全部しおれて茶色くなっている。その茶色の真ん中で、魔女さんは竜の杖を両手でにぎって、おびえた顔をしてさけんでる。
竜の杖が、魔女さんから生命力を吸い取ってるんだ。キラキラした光が、あっという間に杖に吸い込まれて、竜の杖から強い風が吹いた。
「先生、来ちゃだめ!」
魔女さんが言う。
僕はジャックさんを見上げた。ジャックさんの顔には、いつの間にか、小さなキズがたくさんついている。
いや、このキズは、竜の杖が出してる風のせいだ。風が吹くたびに、ジャックさんの顔や腕が、傷だらけになっていく。
「杖をはなしなさい」
「……できない……」
「はなしなさい!」
「くっついて、取れないの……!」
僕は、本当は目を閉じたくて仕方なかった。けど、僕が来ることを選んで、魔女さんの夢の中に来たんだ。それが悪夢だったとしても、見なきゃいけない。
魔女さんは、竜の杖を持ったままフラフラして、そのうちパッタリ倒れてしまった。
気絶した魔女さんから、黒いモワモワがにじんで出てくる。そのモワモワは、コウモリみたいな羽とワニみたいな顔を作り出した。
アニメで見たことがある。あれは、竜だ。でも、アニメに出てくる竜よりも、いかつくて、不気味で、とても怖かった。
「初めましてとでも、言うべきかな……」
ジャックさんが、銀色の杖をにぎる。顔は笑ってるけど、目は真剣。
「シュヴァルツの、実の父親だろう」
『いかにも』
竜はふんぞり返ってえらそうに答える。
『お前は実に役に立った。娘を育てて、魔法をきたえ、結果として我の意思に生命力を注ぎ込んでくれた』
魔女さんが、ゆらりと立ち上がる。竜はモワモワに変身して、魔女さんの中に入っていく。
魔女さんは目を開いたけど、魔女さんじゃなくなってた。あんなに意地悪くてイヤな顔、見たことない。
「おろかにも人間は、我を倒した後に転がり出た『怒りの宝石』をありがたがって、この杖を作り出した」
杖の竜が、赤い目を光らせる。血みたいに真っ赤で、ギラギラ光る、赤い宝石。
あれも、意思の宝石。邪竜の怒りから転がり出た、怒りのカケラにちがいなかった。僕は、どう言ったらいいかわかんないくらいに怖くて、体がふるえる。
魔女さん、じゃない……竜は、邪竜は、魔女さんの口でこう言った。
「この娘はおろかだ。杖を盗み、村を逃げ出すとは。だが、そのおかげで、我はこうして復活できた」
復活? これが? 魔女さんの体を乗っ取ってるだけじゃないか。
「君の目的は何だ」
ジャックさんがたずねる。
「我を倒した人間どもに、復讐するのだ」
竜は、魔女さんの顔でニヤリと笑う。
「その結果、この娘がどうなろうとかまわん」
ダメだ。ダメだ。そんなこと。僕はジャックさんの服を、ギュッと強くにぎりしめる。
これが過去の出来事だっていうのはわかってる。でも、どうにかしてほしかった。
だから、お願いだから、ジャックさん、助けて。
『空、心配しないで』
ジャックさんの声が聞こえた。
僕は今とうめいになってるはずなのに、ジャックさんは、僕のことが見えてるの?
でもジャックさんは僕をふり返らない。竜をキッとにらみつけて、声を張り上げてこう言った。
「お前のような邪竜に渡してたまるか! シュヴァルツは、僕の可愛い娘だ!」
ジャックさんが杖をふる。杖の先から、赤、青、黄色の光が飛び散って、竜のまわりを回る。竜はそれをうっとうしそうに手で払ってから、ジャックさんをにらみつけた。
だけどジャックさんは、竜が光に気を取られているうちに、竜の目の前まで近付いていた。
「汝、其の依代より離れ給え。かように穢らわしい魂では、器に似合わぬ」
ジャックさんは竜を怒った顔でにらみ返して、すごく、すごく、むずかしい呪文を唱えてた。言葉の意味はわからないけど、それが竜にきいていることはよくわかる。竜が、魔女さんの口で苦しそうな声を出していたからだ。
モヤモヤが魔女さんから抜けていきそうになりながら、けど磁石で引き寄せられてるみたいにはなれない。
「ぐぅ……我は出ていかぬぞ……我を倒したあの人間どもに、復讐を果たすのだ!」
その瞬間、モヤモヤはトゲになって、周りのものを突き刺し始めた。地面も、マリーゴールドも、夜空に流れる雲も、トゲに刺されて穴だらけになる。
そして、その内の一本が…………
また、ちがう景色だ。
ここは、よく知ってる。星降堂の二階にある、夢渡りの扉が置いてある部屋。
ここにいるのはジャックさん一人。赤い宝石を持った手を、鏡の中に突っ込んで、抜く時には何にも持ってなかった。多分、意思の宝石を、夢渡りの扉に入れたんだ。
「今日は魔法で宝探しゲームしようと言ってたのに、シュヴァルツはまだ来ないのか……」
ジャックさんはつぶやいて、階段をおりていく。僕はそれについて行く。ジャックさんは、魔女さんを探しているんだと思う、多分。
地下室のドアの前を通ると、ドアの向こうから声が聞こえてきた。まるで、さけんでいるみたいな。ちょっとだけ怖い。
ジャックさんも、声に気づいたみたい。サァッと顔を青くして、地下室のドアを勢いよく開けた。
「シュヴァルツ、どうした!」
地下室への階段は真っ暗だ。そんなに長くない階段のはずなのに、もう一枚のドアは真っ暗で見えない。おまけに、ドアを開けた分、さけび声が大きくなって……僕は怖くてたまらなくて、ジャックさんのスーツのすそをギュッとつかんだ。
そろり、そろり。ジャックさんは階段を下りる。ようやく見えたもう一枚のドアは、まるで中からたたかれてるみたいに、ドンドン音を立ててゆれていた。
ドアを開けると、その向こうには魔女さんがいた。
マリーゴールドの花畑は、今は全部しおれて茶色くなっている。その茶色の真ん中で、魔女さんは竜の杖を両手でにぎって、おびえた顔をしてさけんでる。
竜の杖が、魔女さんから生命力を吸い取ってるんだ。キラキラした光が、あっという間に杖に吸い込まれて、竜の杖から強い風が吹いた。
「先生、来ちゃだめ!」
魔女さんが言う。
僕はジャックさんを見上げた。ジャックさんの顔には、いつの間にか、小さなキズがたくさんついている。
いや、このキズは、竜の杖が出してる風のせいだ。風が吹くたびに、ジャックさんの顔や腕が、傷だらけになっていく。
「杖をはなしなさい」
「……できない……」
「はなしなさい!」
「くっついて、取れないの……!」
僕は、本当は目を閉じたくて仕方なかった。けど、僕が来ることを選んで、魔女さんの夢の中に来たんだ。それが悪夢だったとしても、見なきゃいけない。
魔女さんは、竜の杖を持ったままフラフラして、そのうちパッタリ倒れてしまった。
気絶した魔女さんから、黒いモワモワがにじんで出てくる。そのモワモワは、コウモリみたいな羽とワニみたいな顔を作り出した。
アニメで見たことがある。あれは、竜だ。でも、アニメに出てくる竜よりも、いかつくて、不気味で、とても怖かった。
「初めましてとでも、言うべきかな……」
ジャックさんが、銀色の杖をにぎる。顔は笑ってるけど、目は真剣。
「シュヴァルツの、実の父親だろう」
『いかにも』
竜はふんぞり返ってえらそうに答える。
『お前は実に役に立った。娘を育てて、魔法をきたえ、結果として我の意思に生命力を注ぎ込んでくれた』
魔女さんが、ゆらりと立ち上がる。竜はモワモワに変身して、魔女さんの中に入っていく。
魔女さんは目を開いたけど、魔女さんじゃなくなってた。あんなに意地悪くてイヤな顔、見たことない。
「おろかにも人間は、我を倒した後に転がり出た『怒りの宝石』をありがたがって、この杖を作り出した」
杖の竜が、赤い目を光らせる。血みたいに真っ赤で、ギラギラ光る、赤い宝石。
あれも、意思の宝石。邪竜の怒りから転がり出た、怒りのカケラにちがいなかった。僕は、どう言ったらいいかわかんないくらいに怖くて、体がふるえる。
魔女さん、じゃない……竜は、邪竜は、魔女さんの口でこう言った。
「この娘はおろかだ。杖を盗み、村を逃げ出すとは。だが、そのおかげで、我はこうして復活できた」
復活? これが? 魔女さんの体を乗っ取ってるだけじゃないか。
「君の目的は何だ」
ジャックさんがたずねる。
「我を倒した人間どもに、復讐するのだ」
竜は、魔女さんの顔でニヤリと笑う。
「その結果、この娘がどうなろうとかまわん」
ダメだ。ダメだ。そんなこと。僕はジャックさんの服を、ギュッと強くにぎりしめる。
これが過去の出来事だっていうのはわかってる。でも、どうにかしてほしかった。
だから、お願いだから、ジャックさん、助けて。
『空、心配しないで』
ジャックさんの声が聞こえた。
僕は今とうめいになってるはずなのに、ジャックさんは、僕のことが見えてるの?
でもジャックさんは僕をふり返らない。竜をキッとにらみつけて、声を張り上げてこう言った。
「お前のような邪竜に渡してたまるか! シュヴァルツは、僕の可愛い娘だ!」
ジャックさんが杖をふる。杖の先から、赤、青、黄色の光が飛び散って、竜のまわりを回る。竜はそれをうっとうしそうに手で払ってから、ジャックさんをにらみつけた。
だけどジャックさんは、竜が光に気を取られているうちに、竜の目の前まで近付いていた。
「汝、其の依代より離れ給え。かように穢らわしい魂では、器に似合わぬ」
ジャックさんは竜を怒った顔でにらみ返して、すごく、すごく、むずかしい呪文を唱えてた。言葉の意味はわからないけど、それが竜にきいていることはよくわかる。竜が、魔女さんの口で苦しそうな声を出していたからだ。
モヤモヤが魔女さんから抜けていきそうになりながら、けど磁石で引き寄せられてるみたいにはなれない。
「ぐぅ……我は出ていかぬぞ……我を倒したあの人間どもに、復讐を果たすのだ!」
その瞬間、モヤモヤはトゲになって、周りのものを突き刺し始めた。地面も、マリーゴールドも、夜空に流れる雲も、トゲに刺されて穴だらけになる。
そして、その内の一本が…………
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