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プロローグ

呪われ騎士

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レヒュブルク王国は平穏そのものだった。

 王都の治安は良く、王族の治政も問題ない。宮廷での権力闘争も皆無。王宮で暮らす貴族や使用人に至る誰もがのどやかな日常を謳歌している。

「王女主催のお茶会、君の部隊も警護に就くように。エリク隊長」

 珍しく執務室に呼びだされると、騎士団団長は普段の調子で命令を下した。

「私の部隊でよろしいのでしょうか?」

 騎士団は配属される部隊によって任務の内容が異なるが、王族の警護とあれば騎士団とは別にある親衛隊が担当することが常。で、あるならば特殊な任務、犯罪組織や物騒なをもっぱら担当する自身の騎士隊には不似合いだ。

「不服か?」
「いえ、そういうわけではありませんが」

 訝しみの気配をとった団長は、さもありなんと同情の色をみせた。

「暇だろうと申されたそうだ」
「は」
「国王陛下がな」
「・・・・・・・・・」
「悪いことではないのだが」
「陛下は私のことをご存知なのでしょうか」
「さぁな。だが、仮に知っていても知らなくてもかまわんだろう。なんにせよ、王族からの命令なのだから」

(どちらにせよ、か)

 本来ならば、大変な名誉だと胸を張るだろう。主君への忠誠は絶対である騎士道を掲げている騎士にとって、直々の命令に応えるというのは絶好の機会なのだから。

 しかし、それは通常の騎士の場合にかぎる。

「かしこまりました」
「王女殿下とその周囲には親衛隊が。君の部隊には庭園の巡回と警備、親衛隊の隊員と綿密に打ち合わせをするように」

 簡素なやりとりを交し、執務室を辞する。騎士達が暮らす隊舎に一度戻り、副官に説明をすませると王宮を目指した。

 周囲を囲む鉄柵を潜り、荘厳さと豪華さを兼ね備えた王宮内を闊歩していると冷たい反応がそこかしこから刺すように殺到する。

 まず、注視される。怯え、戦き、あからさまに目を逸らし、持っている物を落とす、転びそうになる、ひ、と悲鳴が出る一歩手前の引き攣った声、そそくさとその場を離れていく。様々だが、概ね造作もないことだ。

 呪われ騎士。どこかでそんな声がひっそりと耳朶を打った。自身を例える呼び名に、つい自嘲とも自棄ともとれない笑いが込みあげた。

  俺、エリク・ディアンヌは呪われている。

 目と口意外が赤い体毛で覆われた全身、制服のズボンから飛びだしている長く巨大な尾、太い手足と鋭く尖った爪、二メートル近くの背丈。動物的特徴が多い外見は珍獣か化け物、物語に登場する怪物と大差がない。

 無論、俺とて産まれたときからこうだったわけではないし、両親はれっきとした人間だ。数年前までは特段美形とはいわずとも、普通の人の姿だった。

(だが、それがどうした)

 つい過去を想起しそうになる己を叱咤し、騎士然とした姿勢で、また歩きだした。
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