旦那様は魔法使い 短編集

なかゆんきなこ

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魔法使いと灰色猫

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サフィールと使い魔猫の出会い編。三匹目の灰色猫ライトのお話。
シリアスです。
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  生まれて来て、最初に見たのは真っ青な空。
  後から聞いた。それがオレの瞳の色なんだと。
  最初に空を見た時、オレは一匹だった。
  もちろん、こうして生まれてきたからには俺にも父と母がいるのだろうけど。
  たぶんオレは生れて来た時、小さくて、弱くて。
  これから生きていけるかわからないくらい、ちっぽけだったから。
  親に、捨てられたのだと思う。
  育つかわからない子供を育てる余裕なんて、なかったんだろう。

  そんな生まれたてのちっぽけなオレを拾ってくれたのは、灰色のローブを被った、ばあちゃん。
  ばあちゃんは、森に住む魔女で。
  灰色の魔女と、呼ばれていた。
  ばあちゃんはちっぽけなオレを拾ってくれて。
  温かい寝床を与えてくれた。
  温かい山羊のミルクを与えてくれた。
  オレに、色んな事を教えてくれた。

  ばあちゃんの膝の上は、気持ち良い。
  オレはいつも、そこで丸くなって。
  ぱちぱちと燃える暖炉の火に目を細めながら、ばあちゃんに撫でてもらうんだ。
 「どうしてオレを拾ってくれたの?」
  オレがそう聞くと、
 「お前がアタシとおんなじ、灰色だからさ」
  ばあちゃんはそう言って、「ヒッヒ」と笑う。
  いつも薬草の匂いのするばあちゃん。
  村の子供達から怖がられているけど、本当はすっごく優しいばあちゃん。
  オレはばあちゃんが大好きで。
  早く大きくなって、ばあちゃんの使い魔になるんだと。
  使い魔になって、ばあちゃんを守るのだと。
  そう、心に決めていたのに。

  ある日ばあちゃんとオレの家に、客が来た。
  黒いローブを纏った若い男と、その使い魔らしい黒と白の猫達。
  黒いローブの男は、近くの村に滞在して、この家に通うようになった。
  ばあちゃんに、教えを請いに来たんだって。
  ばあちゃんは、すごい魔女だからな。
 「ねえばあちゃん。あいつは黒いローブを着ているから、黒の魔法使い?」
  オレがそう尋ねると、
 「いいや違うよ。黒の魔法使いは、あの若造の師匠の方さ」
  ばあちゃんはそう答えて、また「ヒッヒ」と笑った。
 「なあ、ばあちゃん」
 「なんだい?」
 「俺も使い魔にしてくれよ」
  オレはまだ、仔猫だけれど。
  同じくらい小さい、あの黒と白の猫だって。
  あの魔法使いの、使い魔なんだ。
 「お前、使い魔になりたいのかい?」
 「うん。なりたい」
 「そうかい…」
  ばあちゃんはそう呟いた。「ヒッヒ」と、笑いもせずに。
  オレは知らなかった。
  この時、ばあちゃんが何を考えていたのかなんて。

 「うそだろ…」
  オレは茫然と、目の前で赤々と燃える家を見つめる。
  森で遊んだ帰り、オレの家は。
  ばあちゃんと暮らした家は、赤い炎に包まれていた。
 「ばあちゃん!!」
  まだ中にばあちゃんがいるかもしれない、助けなければと。
  炎の中に向かおうとするオレを、何かが遮る。
  それは、透明な壁で。
 「なんだよ…これ…」
  家を取り囲むように張り巡らされた、魔女の結界だった。
 「ばあちゃん!!」

 「灰色の魔女は死んだ…」

  何度も何度も、透明な壁にぶつかっていくオレの傍に。
  いつの間にか現れていたのは、あの若い魔法使いと使い魔猫達。
 「死んだ…?」
 「灰色の魔女は、自分の死期を知っていた。それが、今日だ」
  嘘だ、そんなの。
 「彼女は自分の身体も研究書も何もかも、この世には残さないと言って、自分で火を付けた」
  ばあちゃんが、死んだなんて。
 「…俺に後事を託して、な」
 「嘘だ!! 信じるもんか!!」
  オレは叫んだ。
  ばあちゃんは誰よりもすごい魔女なんだ。
  死ぬもんか!!
 「…灰色の魔女からの、遺言だ」
  魔法使いは一枚の紙を取り出して、ひらりと放つ。
  それはゆっくりとオレの方に落ちて来て、ぽうっと火が灯った。
 『辛気臭い顔をするんじゃないよ、灰色』 
  浮かびあがる灯から、しゃがれた声がする。
  ばあちゃんの、声だ。
  俺を灰色と呼ぶ、ばあちゃんの。
 『生き物が死ぬのは、避けようの無いことだ。お前だって、いつかは死ぬ』
 「ばあちゃん…」
 『アタシは自分がいつ、どうやって死ぬのかわかっていた。でも、最期の時を穏やかに過ごせたのは…』
 「ばあちゃん…」

 『お前の、おかげさね』

 「ばあちゃん!!」
 『幸せになるんだよ、灰色。アタシとおんなじ、灰色の猫。お前のことは、この若造に頼んである。良い使い魔に、なるんだよ』
  違うんだよばあちゃん!!
  オレがなりたかったのは、ばあちゃんの…。
  灰色の魔女の、使い魔だ!!
  ばあちゃんの言葉をのせた、ばあちゃんの最後の魔法が燃え尽きる。
  そして、ばあちゃんの家も。
  オレは家が燃え尽きて、真っ黒い消炭になるまで。
  泣いて、泣いて、泣いた。
  黒いローブの魔法使いは、その間ずっと。
  ずっと、ずっと、ずっと。
  オレの傍に、居てくれた。
  泣き疲れたオレが、眠るまで。ずっと。

  そうしてオレは、この魔法使いの。
  サフィール・アウトーリの、三匹目の使い魔猫になった。

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