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魔法使いと灰色猫
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サフィールと使い魔猫の出会い編。三匹目の灰色猫ライトのお話。
シリアスです。
********************************************
生まれて来て、最初に見たのは真っ青な空。
後から聞いた。それがオレの瞳の色なんだと。
最初に空を見た時、オレは一匹だった。
もちろん、こうして生まれてきたからには俺にも父と母がいるのだろうけど。
たぶんオレは生れて来た時、小さくて、弱くて。
これから生きていけるかわからないくらい、ちっぽけだったから。
親に、捨てられたのだと思う。
育つかわからない子供を育てる余裕なんて、なかったんだろう。
そんな生まれたてのちっぽけなオレを拾ってくれたのは、灰色のローブを被った、ばあちゃん。
ばあちゃんは、森に住む魔女で。
灰色の魔女と、呼ばれていた。
ばあちゃんはちっぽけなオレを拾ってくれて。
温かい寝床を与えてくれた。
温かい山羊のミルクを与えてくれた。
オレに、色んな事を教えてくれた。
ばあちゃんの膝の上は、気持ち良い。
オレはいつも、そこで丸くなって。
ぱちぱちと燃える暖炉の火に目を細めながら、ばあちゃんに撫でてもらうんだ。
「どうしてオレを拾ってくれたの?」
オレがそう聞くと、
「お前がアタシとおんなじ、灰色だからさ」
ばあちゃんはそう言って、「ヒッヒ」と笑う。
いつも薬草の匂いのするばあちゃん。
村の子供達から怖がられているけど、本当はすっごく優しいばあちゃん。
オレはばあちゃんが大好きで。
早く大きくなって、ばあちゃんの使い魔になるんだと。
使い魔になって、ばあちゃんを守るのだと。
そう、心に決めていたのに。
ある日ばあちゃんとオレの家に、客が来た。
黒いローブを纏った若い男と、その使い魔らしい黒と白の猫達。
黒いローブの男は、近くの村に滞在して、この家に通うようになった。
ばあちゃんに、教えを請いに来たんだって。
ばあちゃんは、すごい魔女だからな。
「ねえばあちゃん。あいつは黒いローブを着ているから、黒の魔法使い?」
オレがそう尋ねると、
「いいや違うよ。黒の魔法使いは、あの若造の師匠の方さ」
ばあちゃんはそう答えて、また「ヒッヒ」と笑った。
「なあ、ばあちゃん」
「なんだい?」
「俺も使い魔にしてくれよ」
オレはまだ、仔猫だけれど。
同じくらい小さい、あの黒と白の猫だって。
あの魔法使いの、使い魔なんだ。
「お前、使い魔になりたいのかい?」
「うん。なりたい」
「そうかい…」
ばあちゃんはそう呟いた。「ヒッヒ」と、笑いもせずに。
オレは知らなかった。
この時、ばあちゃんが何を考えていたのかなんて。
「うそだろ…」
オレは茫然と、目の前で赤々と燃える家を見つめる。
森で遊んだ帰り、オレの家は。
ばあちゃんと暮らした家は、赤い炎に包まれていた。
「ばあちゃん!!」
まだ中にばあちゃんがいるかもしれない、助けなければと。
炎の中に向かおうとするオレを、何かが遮る。
それは、透明な壁で。
「なんだよ…これ…」
家を取り囲むように張り巡らされた、魔女の結界だった。
「ばあちゃん!!」
「灰色の魔女は死んだ…」
何度も何度も、透明な壁にぶつかっていくオレの傍に。
いつの間にか現れていたのは、あの若い魔法使いと使い魔猫達。
「死んだ…?」
「灰色の魔女は、自分の死期を知っていた。それが、今日だ」
嘘だ、そんなの。
「彼女は自分の身体も研究書も何もかも、この世には残さないと言って、自分で火を付けた」
ばあちゃんが、死んだなんて。
「…俺に後事を託して、な」
「嘘だ!! 信じるもんか!!」
オレは叫んだ。
ばあちゃんは誰よりもすごい魔女なんだ。
死ぬもんか!!
「…灰色の魔女からの、遺言だ」
魔法使いは一枚の紙を取り出して、ひらりと放つ。
それはゆっくりとオレの方に落ちて来て、ぽうっと火が灯った。
『辛気臭い顔をするんじゃないよ、灰色』
浮かびあがる灯から、しゃがれた声がする。
ばあちゃんの、声だ。
俺を灰色と呼ぶ、ばあちゃんの。
『生き物が死ぬのは、避けようの無いことだ。お前だって、いつかは死ぬ』
「ばあちゃん…」
『アタシは自分がいつ、どうやって死ぬのかわかっていた。でも、最期の時を穏やかに過ごせたのは…』
「ばあちゃん…」
『お前の、おかげさね』
「ばあちゃん!!」
『幸せになるんだよ、灰色。アタシとおんなじ、灰色の猫。お前のことは、この若造に頼んである。良い使い魔に、なるんだよ』
違うんだよばあちゃん!!
オレがなりたかったのは、ばあちゃんの…。
灰色の魔女の、使い魔だ!!
ばあちゃんの言葉をのせた、ばあちゃんの最後の魔法が燃え尽きる。
そして、ばあちゃんの家も。
オレは家が燃え尽きて、真っ黒い消炭になるまで。
泣いて、泣いて、泣いた。
黒いローブの魔法使いは、その間ずっと。
ずっと、ずっと、ずっと。
オレの傍に、居てくれた。
泣き疲れたオレが、眠るまで。ずっと。
そうしてオレは、この魔法使いの。
サフィール・アウトーリの、三匹目の使い魔猫になった。
シリアスです。
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生まれて来て、最初に見たのは真っ青な空。
後から聞いた。それがオレの瞳の色なんだと。
最初に空を見た時、オレは一匹だった。
もちろん、こうして生まれてきたからには俺にも父と母がいるのだろうけど。
たぶんオレは生れて来た時、小さくて、弱くて。
これから生きていけるかわからないくらい、ちっぽけだったから。
親に、捨てられたのだと思う。
育つかわからない子供を育てる余裕なんて、なかったんだろう。
そんな生まれたてのちっぽけなオレを拾ってくれたのは、灰色のローブを被った、ばあちゃん。
ばあちゃんは、森に住む魔女で。
灰色の魔女と、呼ばれていた。
ばあちゃんはちっぽけなオレを拾ってくれて。
温かい寝床を与えてくれた。
温かい山羊のミルクを与えてくれた。
オレに、色んな事を教えてくれた。
ばあちゃんの膝の上は、気持ち良い。
オレはいつも、そこで丸くなって。
ぱちぱちと燃える暖炉の火に目を細めながら、ばあちゃんに撫でてもらうんだ。
「どうしてオレを拾ってくれたの?」
オレがそう聞くと、
「お前がアタシとおんなじ、灰色だからさ」
ばあちゃんはそう言って、「ヒッヒ」と笑う。
いつも薬草の匂いのするばあちゃん。
村の子供達から怖がられているけど、本当はすっごく優しいばあちゃん。
オレはばあちゃんが大好きで。
早く大きくなって、ばあちゃんの使い魔になるんだと。
使い魔になって、ばあちゃんを守るのだと。
そう、心に決めていたのに。
ある日ばあちゃんとオレの家に、客が来た。
黒いローブを纏った若い男と、その使い魔らしい黒と白の猫達。
黒いローブの男は、近くの村に滞在して、この家に通うようになった。
ばあちゃんに、教えを請いに来たんだって。
ばあちゃんは、すごい魔女だからな。
「ねえばあちゃん。あいつは黒いローブを着ているから、黒の魔法使い?」
オレがそう尋ねると、
「いいや違うよ。黒の魔法使いは、あの若造の師匠の方さ」
ばあちゃんはそう答えて、また「ヒッヒ」と笑った。
「なあ、ばあちゃん」
「なんだい?」
「俺も使い魔にしてくれよ」
オレはまだ、仔猫だけれど。
同じくらい小さい、あの黒と白の猫だって。
あの魔法使いの、使い魔なんだ。
「お前、使い魔になりたいのかい?」
「うん。なりたい」
「そうかい…」
ばあちゃんはそう呟いた。「ヒッヒ」と、笑いもせずに。
オレは知らなかった。
この時、ばあちゃんが何を考えていたのかなんて。
「うそだろ…」
オレは茫然と、目の前で赤々と燃える家を見つめる。
森で遊んだ帰り、オレの家は。
ばあちゃんと暮らした家は、赤い炎に包まれていた。
「ばあちゃん!!」
まだ中にばあちゃんがいるかもしれない、助けなければと。
炎の中に向かおうとするオレを、何かが遮る。
それは、透明な壁で。
「なんだよ…これ…」
家を取り囲むように張り巡らされた、魔女の結界だった。
「ばあちゃん!!」
「灰色の魔女は死んだ…」
何度も何度も、透明な壁にぶつかっていくオレの傍に。
いつの間にか現れていたのは、あの若い魔法使いと使い魔猫達。
「死んだ…?」
「灰色の魔女は、自分の死期を知っていた。それが、今日だ」
嘘だ、そんなの。
「彼女は自分の身体も研究書も何もかも、この世には残さないと言って、自分で火を付けた」
ばあちゃんが、死んだなんて。
「…俺に後事を託して、な」
「嘘だ!! 信じるもんか!!」
オレは叫んだ。
ばあちゃんは誰よりもすごい魔女なんだ。
死ぬもんか!!
「…灰色の魔女からの、遺言だ」
魔法使いは一枚の紙を取り出して、ひらりと放つ。
それはゆっくりとオレの方に落ちて来て、ぽうっと火が灯った。
『辛気臭い顔をするんじゃないよ、灰色』
浮かびあがる灯から、しゃがれた声がする。
ばあちゃんの、声だ。
俺を灰色と呼ぶ、ばあちゃんの。
『生き物が死ぬのは、避けようの無いことだ。お前だって、いつかは死ぬ』
「ばあちゃん…」
『アタシは自分がいつ、どうやって死ぬのかわかっていた。でも、最期の時を穏やかに過ごせたのは…』
「ばあちゃん…」
『お前の、おかげさね』
「ばあちゃん!!」
『幸せになるんだよ、灰色。アタシとおんなじ、灰色の猫。お前のことは、この若造に頼んである。良い使い魔に、なるんだよ』
違うんだよばあちゃん!!
オレがなりたかったのは、ばあちゃんの…。
灰色の魔女の、使い魔だ!!
ばあちゃんの言葉をのせた、ばあちゃんの最後の魔法が燃え尽きる。
そして、ばあちゃんの家も。
オレは家が燃え尽きて、真っ黒い消炭になるまで。
泣いて、泣いて、泣いた。
黒いローブの魔法使いは、その間ずっと。
ずっと、ずっと、ずっと。
オレの傍に、居てくれた。
泣き疲れたオレが、眠るまで。ずっと。
そうしてオレは、この魔法使いの。
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