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クレス島の年越し 後編
しおりを挟む空が白み始める。
この頃になると、あれほど騒がしかった港も穏やかな静寂に包まれる。
人々はじっと、海を見つめていた。
子供達は、親の腕に抱かれて眠気眼を擦りながら必死に。恋人達は互いに寄り添いながら、じっと日の出を待つ。
何杯目かのホットワインのグラスを両手に持ち、アニエスもまたサフィールと肩を寄せ合って海を見つめていた。
猫達は互いに身を寄せ合い、暖を取りながら海を見つめている。
やがてゆっくりと、鮮やかなオレンジ色の太陽が昇り始めた。
明るくなっていく、空。
光さす、海。
何度見ても、涙が出るくらい美しい光景だ。
「…綺麗ね…」
「…うん…」
それ以上、言葉にはならなかった。
アニエスはただ、ぎゅっとサフィールの手を握り。
サフィールも、その手をぎゅっと握り返す。
幸せだわ、とアニエスは思う。
愛する人と、こうして。
愛する家族と、一緒にこの美しい朝日を見ることができて。
自分はなんて幸せなんだろう、と。
「…大好きよ、サフィール」
こてん、とサフィールの肩に頭を預けて、アニエスは囁く。
「うん」
俺も、とサフィールも囁く。
「大好きだよ、アニエス…」
そうして二人は口付ける。
それは新しい年の、最初のキス。
今年はいったい、どんな年になるだろう。
そんな期待を胸に抱く二人の前には、美しい夜明けが広がっていた。
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