旦那様は魔法使い 短編集

なかゆんきなこ

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ブチ猫の家族 前編

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本編完結記念リクエスト企画第五弾!
「キースが皆と一緒にミナライ達に会いに行く」お話です。
 長くなりましたので前後編に分けました。

リクエスト下さった方、ありがとうございました!!
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 それは静かな秋の夜のこと。
 使い魔猫達の部屋で自分の机に向かいながら、ブチ猫のキースは羽ペン片手に手紙を書いていた。
 宛先はかつての自分の飼い主、ミナライ。遠い遠い街に住む彼とは、もう何年も手紙のやりとりをしていた。
 最初は主人のサフィールが、アニエスとの結婚を決意してクレス島に定住することになった時、キースのかつての主人に所在と近況を知らせる手紙を書いたことがきっかけだった。それに返事が来て、最初はサフィールがキースの代わりに手紙を書いてくれていたが、使い魔猫達も読み書きを覚えるようになってからは、キースが自分で手紙を書いている。
 キースはこうしてミナライからの手紙を読んだり、彼に手紙を書いたりするのが好きだった。仔猫だった日々が、ミナライと一緒に暮らしていた楽しい日々が懐かしく思い出される。
 けれど同時に、少しだけ寂しくて、切なくて……。ちょっとだけ、苦しくもあった。
「……はぁ」
 手紙の終わりに、いつもと同じ言葉を書く。
 それと同時に零れるのは、ため息だ。
『ごめん、忙しくてそっちに行くのは無理そうだ。誘ってくれてありがとう! お嫁さんやじっちゃん、ばっちゃんによろしく。元気でな』
 数年前から、ミナライは手紙で『みんなでこっちに遊びに来いよ。顔を見せてくれ』と書いてくれる。会いたい……と、言ってくれている。
 でもキースは、それに頷くことができなかった。仕事が忙しい……のは嘘じゃない。けれど、サフィールもアニエスも、キースが彼らに会いに行くとなったら喜んで休みをくれるだろう。
 けれど、使い魔猫として立派になってから会いに行くと決めたから。
 一人前になるまでは、会わないと決めたから。
(オレは……、まだまだ、にゃ……)
 自分はまだ一人前ではない。だから会えないのだと、自分に言い聞かせる。
 目標とする『一人前の立派な使い魔猫』には、まだほど遠く感じられるのだ。
「はぁ~」
「「「「「「………………」」」」」」
 そんなブチ猫のため息を仲間の猫達がじっと見ていたことに、キースは気付かなかった。


 そして数日後……
 夕飯の席で、サフィールが言った。「今度、家族全員で旅行に行こう」と。
 客商売をやっているから、アウトーリ家はめったに旅行に行けない。行けたとしても、行く先は大抵が王都で、留守番役に使い魔猫の誰かが残る。
 だが今回は「全員で」と、サフィールは言った。
「やったぁ! みんなで旅行だ!!」
 最初に歓声を上げたのはステラ。ルイスも表情こそ変えないが、どこか嬉しそうである。
「どこに行くの? いつ行くの!?」
 ステラの問いに、サフィールはふっと微笑んである町の名前を告げた。
 それは……
「え……」
 それは、かつてキースが暮らしていた宿場町の名だった。
 驚きに目を見開くと、サフィールやアニエスだけでなく、他の使い魔猫達も訳知り顔で頷いている。
「キース、家族みんなで会いに行きましょう? あなたのもう一つの家族に」
「ど、どうして……」
「会いたいって、ずーっと思ってただろ?」
 戸惑うキースに、黒猫カルがそう言うと……
「手紙を書くたびに辛気臭い顔して、会いたいなら会いに行けばいいのにゃ。鬱陶しいから、僕達がご主人様に進言してやったのにゃ」
 白猫ジェダがツンと澄ましてそんなことを言う。
「ち、違うにゃ! ジェダもボク達もみんな、キースのことが心配でっ」
 そんな風に慌ててフォローしたのは茶色猫のネリー。隣では灰色猫のライトがうんうん頷いて、「……会える時に会っておいた方が良い」と言った。
 使い魔猫達は、前の飼い主や家族と悲しい別れをしてここにいる者が多い。そのひとりであるライトの言葉はずしんと重く響いた。そうだ、まだ若いミナライ夫婦はともかく、じっちゃんとばっちゃんはもう高齢で……
「…………」
「そ、それにさ~! キースが一人前じゃないならおれ達みーんな半人前ってことになるにゃ?」
 しゅんと項垂れるキースを励ますように、からからと明るく笑うのは縞猫のアクア。
「そうだ。キースも私達も、もう一人前。そうでしょう? ご主人様?」
 三毛猫のセラフィがそうサフィールに問い掛けると、サフィールもアニエスもうんと頷いてくれる。
「うん、頼りにしてる」
「みんな、私達の自慢の使い魔猫さんよ。どこへ出しても恥ずかしくないくらい」
「……みんな……、ご主人様……、奥方様……」
 優しいご主人様達に、仲間達。みんなの気持ちが嬉しくて、自分はなんて幸せ者なんだろうと、キースは思う。
「あ、あり……ありが……とう……ございます……っ……」
 ブチ猫の赤銅色の瞳から、ぽろぽろと涙が零れた。


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