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幼馴染は魔法使いの弟子
黄色い薔薇の物語編 17
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前半はサフィール視点。
後半はアニエス視点です。
********************************************
サフィールがようやくリゾットを完食した頃。
コンコンと、この時間には珍しい来客を告げるノックが響いた。
「こんばんは。…サフィール、居る?」
アニエスだ。
サフィールは無言で、扉を見つめる。
この扉の向こうに、今。
アニエスが、いるのだ。
「あっ、アニエス様ですにゃー! 今開けますにゃ」
人の姿のままのカルセドニーがすぐに扉に向かう。
「いらっしゃいませですにゃ、アニエス様」
「こんばんは、カルセドニー」
アニエスは微笑んで、カルセドニーの頭を撫でた。
サフィールはゆっくりと立ち上がり、戸口へ向かう。
「…サフィール」
かつて大して変わらなかった背丈は、この三年で差を増し。
アニエスを見下ろすように見つめる、サフィールの視線と。
サフィールを見上げるように見つめる、アニエスの視線が。
交わる。
何を言えばいいのか、わからない。
お互いに、言葉を探るような沈黙を最初に破ったのは、アニエスだった。
「あの…、また差し入れを持ってきたの…」
言って、バスケットを持ち上げる彼女。
サフィールはふと、その手が震えていることに気付いた。
「? …サフィール?」
サフィールの両手が、そっとアニエスの頬に触れる。
「……冷たい…」
「あっ」
この寒空を、歩いてきたのだろう彼女の頬は。
すっかり、冷え切っていた。
「…リゾット、ありがとう…」
美味しかった、とサフィールは呟くように言う。
「よかっ…」
「でも」
彼女の言葉を遮るように、サフィールは言った。
「無理しなくて良いよ」
「っ!」
「…鍋とこのバスケットは、明日洗って…」
返すから、と。
バスケットを受け取って、アニエスを帰そうとするサフィール。
その目には、はっきり拒絶の色があった。
こんな時間に、女が一人で出歩くなんて不用心すぎる。
そうさせているのが自分への差し入れなら、いらないとサフィールは思った。
「無理なんてしてないわ!!」
アニエスの声が、サフィールの耳朶を打つ。
彼女はバスケットを押しつけるようにサフィールに渡して、言った。
「突然押し掛けて、ごめんなさい…」
最初の剣幕が嘘のように、傷ついた顔で。
それだけを言うと、彼女は飛び出していってしまった。
(……あんな顔を…)
させたかった、わけじゃない…。
自分の言葉の足りなさに、吐くほどの嫌悪感を覚えて…。
それでもサフィールは、
「…サードオニキス…。彼女を送っていって…」
使い魔猫に、そう命じた。
アニエスの事を、想って。
(サフィールの馬鹿!!)
迷惑なら迷惑と、言ってくれたらいいのに!!
アニエスはそう思いながら、泣きそうになる目を拭い、歩く。
「まっ、待って下さいにゃー!!」
その背に、聞き覚えの無い少年の声が響いた。
驚いて振り返ると、そこに人影は無く。
「はあ、良かった~。間に合ったにゃ」
いるのは人の言葉を話す、一匹のブチ猫。
「あなた…も…サフィールの使い魔?」
「はいですにゃ。オレはサードオニキスっていいますにゃ」
ブチ猫のサードオニキスは、「ご主人様に、アニエス様を送り届けるようにって言われましたにゃ」と言った。
「一人でも大丈夫なのに…」
「だめですにゃ! アニエス様は美人だから、一人で夜道を歩かせられませんのにゃ!!」
「えっ」
猫は真剣な顔で、「だめですにゃ」と言う。
それがなんだか、可笑しくて。
「ふふっ」
アニエスは先ほどまでの腹立ちも悲しさも忘れて、笑ってしまう。
「ありがとう、サードオニキス。…長いから、キースって呼んでも良いかしら」
「はいですにゃ!」
アニエスは素直にキースと、サフィールの好意に甘えて。
送ってもらうことにした。
一人と一匹で、夜の港街を歩く。
「ご主人様は…」
と、キースが切り出した。
「アニエス様の事が、心配なんですにゃー。だから、さっきはちょっとキツイ感じに…」
「…ありがとう。慰めてくれるのね」
確かに私も不用心だったわ、とアニエスは言う。
「ところで、サフィールの所にはあなたとカルセドニーの他にも使い魔がいるの?」
「はいですにゃ。ぜんぶで六匹、いますのにゃ」
「そんなに!?」
それじゃあ今度からはあなたたちの分も、食事を用意しなきゃねとアニエスが微笑むと、キースは「本当ですかにゃ!!」と飛び跳ねた。
比喩で無く、本当にぴょーんと飛び上がったのだ。
「嬉しいですにゃ~。実は、アニエス様の差し入れは本当に良い匂いがして、美味しそうで…。ご主人様が羨ましかったのですにゃ」
「まあ」
「もう味気ないキャットフードは嫌ですにゃー」
心底嫌そうに言うキースに、アニエスは「ふふふ!」と笑う。
本当に楽しい猫だわ、と思いながら。
(…そうよ。今度サフィールに、迷惑だって言われたら…)
サフィールのためじゃない。猫達のためにやっているのって、言ってやろう。
サフィールなんて、ついでなんだから、と。
「アニエス様?」
「…なんでもない。本当にありがとう、キース」
************************************************
まあまだうまくいかない二人です…(^_^;)
中々甘くならないですね…。
後半はアニエス視点です。
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サフィールがようやくリゾットを完食した頃。
コンコンと、この時間には珍しい来客を告げるノックが響いた。
「こんばんは。…サフィール、居る?」
アニエスだ。
サフィールは無言で、扉を見つめる。
この扉の向こうに、今。
アニエスが、いるのだ。
「あっ、アニエス様ですにゃー! 今開けますにゃ」
人の姿のままのカルセドニーがすぐに扉に向かう。
「いらっしゃいませですにゃ、アニエス様」
「こんばんは、カルセドニー」
アニエスは微笑んで、カルセドニーの頭を撫でた。
サフィールはゆっくりと立ち上がり、戸口へ向かう。
「…サフィール」
かつて大して変わらなかった背丈は、この三年で差を増し。
アニエスを見下ろすように見つめる、サフィールの視線と。
サフィールを見上げるように見つめる、アニエスの視線が。
交わる。
何を言えばいいのか、わからない。
お互いに、言葉を探るような沈黙を最初に破ったのは、アニエスだった。
「あの…、また差し入れを持ってきたの…」
言って、バスケットを持ち上げる彼女。
サフィールはふと、その手が震えていることに気付いた。
「? …サフィール?」
サフィールの両手が、そっとアニエスの頬に触れる。
「……冷たい…」
「あっ」
この寒空を、歩いてきたのだろう彼女の頬は。
すっかり、冷え切っていた。
「…リゾット、ありがとう…」
美味しかった、とサフィールは呟くように言う。
「よかっ…」
「でも」
彼女の言葉を遮るように、サフィールは言った。
「無理しなくて良いよ」
「っ!」
「…鍋とこのバスケットは、明日洗って…」
返すから、と。
バスケットを受け取って、アニエスを帰そうとするサフィール。
その目には、はっきり拒絶の色があった。
こんな時間に、女が一人で出歩くなんて不用心すぎる。
そうさせているのが自分への差し入れなら、いらないとサフィールは思った。
「無理なんてしてないわ!!」
アニエスの声が、サフィールの耳朶を打つ。
彼女はバスケットを押しつけるようにサフィールに渡して、言った。
「突然押し掛けて、ごめんなさい…」
最初の剣幕が嘘のように、傷ついた顔で。
それだけを言うと、彼女は飛び出していってしまった。
(……あんな顔を…)
させたかった、わけじゃない…。
自分の言葉の足りなさに、吐くほどの嫌悪感を覚えて…。
それでもサフィールは、
「…サードオニキス…。彼女を送っていって…」
使い魔猫に、そう命じた。
アニエスの事を、想って。
(サフィールの馬鹿!!)
迷惑なら迷惑と、言ってくれたらいいのに!!
アニエスはそう思いながら、泣きそうになる目を拭い、歩く。
「まっ、待って下さいにゃー!!」
その背に、聞き覚えの無い少年の声が響いた。
驚いて振り返ると、そこに人影は無く。
「はあ、良かった~。間に合ったにゃ」
いるのは人の言葉を話す、一匹のブチ猫。
「あなた…も…サフィールの使い魔?」
「はいですにゃ。オレはサードオニキスっていいますにゃ」
ブチ猫のサードオニキスは、「ご主人様に、アニエス様を送り届けるようにって言われましたにゃ」と言った。
「一人でも大丈夫なのに…」
「だめですにゃ! アニエス様は美人だから、一人で夜道を歩かせられませんのにゃ!!」
「えっ」
猫は真剣な顔で、「だめですにゃ」と言う。
それがなんだか、可笑しくて。
「ふふっ」
アニエスは先ほどまでの腹立ちも悲しさも忘れて、笑ってしまう。
「ありがとう、サードオニキス。…長いから、キースって呼んでも良いかしら」
「はいですにゃ!」
アニエスは素直にキースと、サフィールの好意に甘えて。
送ってもらうことにした。
一人と一匹で、夜の港街を歩く。
「ご主人様は…」
と、キースが切り出した。
「アニエス様の事が、心配なんですにゃー。だから、さっきはちょっとキツイ感じに…」
「…ありがとう。慰めてくれるのね」
確かに私も不用心だったわ、とアニエスは言う。
「ところで、サフィールの所にはあなたとカルセドニーの他にも使い魔がいるの?」
「はいですにゃ。ぜんぶで六匹、いますのにゃ」
「そんなに!?」
それじゃあ今度からはあなたたちの分も、食事を用意しなきゃねとアニエスが微笑むと、キースは「本当ですかにゃ!!」と飛び跳ねた。
比喩で無く、本当にぴょーんと飛び上がったのだ。
「嬉しいですにゃ~。実は、アニエス様の差し入れは本当に良い匂いがして、美味しそうで…。ご主人様が羨ましかったのですにゃ」
「まあ」
「もう味気ないキャットフードは嫌ですにゃー」
心底嫌そうに言うキースに、アニエスは「ふふふ!」と笑う。
本当に楽しい猫だわ、と思いながら。
(…そうよ。今度サフィールに、迷惑だって言われたら…)
サフィールのためじゃない。猫達のためにやっているのって、言ってやろう。
サフィールなんて、ついでなんだから、と。
「アニエス様?」
「…なんでもない。本当にありがとう、キース」
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まあまだうまくいかない二人です…(^_^;)
中々甘くならないですね…。
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