315 / 453
第3章

第420話 ルカリア学園の裏庭の出来事①

しおりを挟む
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ルカリア学園の裏庭は、広くてとても明るく。大きな透明度の高い池が広がり、そこで恥ずかしそうにしながら少女が1人、指先を弄びつつ、呼び出した人物を待っていた。

「やあ、おまたせしたかな?」
 少女はその声に、紅潮させた顔をハッと上げて、目の前の人物を見上げた。

「ルーデンス王太子……!」
「しっ。声が大きいよ。いくら裏庭とはいえ誰かに気付かれてしまうかも知れないよ。」

 リシャーラ王国王太子、ルーデンス・ソバト・リシャーラは、人差し指を唇に立てて、声をそばだてるよう少女に命じた。

「あ、はい……。その……。いらしてくださってありがとうございます。」
「うん、君の用事はわかっているよ。」

 ニッコリと美しく微笑むルーデンスに、少女は更に恥ずかしそうに頬を紅潮させて、目線を下に向けた。

 ルカリア学園は、貴族の子息子女、商人や騎士の子、平民までもが通う、実力主義の学園だ。入学に際して大金を必要とするが、試験である程度の成績をおさめた者や、また有用なスキル持ちである場合には、その入学金も学費も免除を受ける。

 その為、魔法や近接職のよいスキル持ちであれば、無料で入学することは可能である。
 だが実際には、平民の中に中級以上のスキルを持ち合わせる人間は、ほぼ生まれない。

 しかしなぜか食いあぶれて冒険者になる者の中に、たまにいることがある。
 その為一定以上のランクの冒険者にも、広く門扉を開いているが、読み書きが出来る必要がある為、実際に入学することは少ない。

 貴族や裕福な商人の子であれば、読み書きは家庭教師から習ってきているが、平民はそもそもその機会がないからだ。

 たまに教会で週に1度、読み書きの教室を開いている祭司もおり、その地域に住む平民は読み書きが習えたりもするが、大抵の平民は文字が読めないし、書くことが出来ない。

 広く、といいつつも、実質貴族と裕福な商人の子が大半の学園なのだ。
 そんなルカリア学園在学期間中だけ、自由恋愛を楽しむ人間も少なくない。

 リシャーラ王国の貴族は法律により、親にのみ婚姻を決める権利が存在する。
 好きあっていようとも、親が認めない相手との結婚をすることが出来ない。

 その為、ルカリア学園在学中のみの恋人を作るというのが、ルカリア学園の伝統のようになっている。──卒業したら縁の切れる、かりそめの恋人たち。

 それでもつかの間の逢瀬を楽しむ若者たちは後をたたない。上位貴族の若者たちも、唯一自由恋愛が出来る期間として、在学中に積極的に恋人を探している。

 ましてや今年は、王太子、ルーデンス・ソバト・リシャーラ。法務大臣、フェアファクス公爵が子息、ハリソン・フェアファクス。

 財務大臣、デヴォンシャー公爵が子息、グレイソン・デヴォンシャー。筆頭補佐官、アルグーイ公爵が子息、ボビー・アルグーイ。

 宰相、エリンクス公爵が子息、ラーニー・エリンクス。防衛大臣、グリフィス侯爵が子息、ベンジャミン・グリフィスまでもが、同じ学園内に存在しているのだ。

 普段は近付くことすら出来ない上位貴族の令息たちに、自由に言葉をかけることが許され、親しくなれる可能性すらある。ルカリア学園に通う少女たちは浮足立っていた。

 ただし、年の終わり近くに、着飾ってのぞむパーティーがある為、男性のほうに、かりそめの恋人にドレスを贈ることの出来る財力があるか、女性のほうに自分でドレスを用意出来る財力を求められることが多い。

 もちろん極端に見た目がよければ、そういうものは抜きにして求められる場合も多い。
 少女は貧乏な子爵家の出だったが、見た目にはかなり自信があった。

 ましてや相手は王太子。ドレスを贈るのになんら不都合のない財力を持つ者だ。
 少女はわずかな可能性にかけて、王太子ルーデンスを裏庭に呼び出していた。

「私のような家格で、ルーデンス王太子に釣り合わないことはわかっています……。
 ですが今ルカリア学園にいる間だけでも、おそばにおいていただけないでしょうか?」

 顔を上げた少女は、ヒュッと息を飲んだ。
 笑顔なのに、どこか恐ろしいものを見たような気持ちにさせられる表情。ルーデンスの後ろにスッと現れて並び立つ少年たち。

 法務大臣令息・ハリソン、財務大臣令息・グレイソン、筆頭補佐官令息・ボビー、宰相令息・ラーニー、防衛大臣令息・ベンジャミンが、ニヤニヤとした表情で少女を見つめていて、どこかうす気味が悪い。

「あ……、あの……、これって……?」
 少女は急に不安になってたずねた。
 少年たちが1歩前に出て、少女は思わずあとずさるが、後ろは池だった。

「私と遊びたいんだろう?私はいつも楽しいことは、友人たちとわかちあっていてね。」
 ルーデンスは底冷えのする笑顔で言った。

────────────────────

ロクデナシの子はロクデナシ。
しおりを挟む
感想 71

あなたにおすすめの小説

初期スキルが便利すぎて異世界生活が楽しすぎる!

霜月雹花
ファンタジー
 神の悪戯により死んでしまった主人公は、別の神の手により3つの便利なスキルを貰い異世界に転生する事になった。転生し、普通の人生を歩む筈が、又しても神の悪戯によってトラブルが起こり目が覚めると異世界で10歳の〝家無し名無し〟の状態になっていた。転生を勧めてくれた神からの手紙に代償として、希少な力を受け取った。  神によって人生を狂わされた主人公は、異世界で便利なスキルを使って生きて行くそんな物語。 書籍8巻11月24日発売します。 漫画版2巻まで発売中。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。