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第32話 またひとつ変わる運命
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ムードン伯爵は穏やかに、しかし力強く続けた。
「それでも、コリンナを守ることを優先いたします。そこで……お願いがございます。ミリアム嬢の刺繍を、私たちの結婚式のドレスに施していただけないでしょうか?」
「ミリアムの刺繍を?」
「ご令嬢の作品は、もはや芸術の域に達しています。あの刺繍を纏えば、コリンナは……きっと、誰からも祝福される、批判の声にも負けない花嫁になれる。もしも令嬢にお許しいただけるのであれば……ですが。」
確かに、ミリアム以上に注目される刺繍の出来る人間はいないだろう。ましてやミリアムは今回の被害者の1人でもある。
そのミリアムが刺繍をしたということは、コリンナ令嬢を被害者が許したというアピールにもつながる。
ミリアムは少し考えてから、微笑んだ。「喜んでお引き受けいたしますわ。」
「おお……それはありがたい……!」
ムードン伯爵は嬉しそうに目を細め、コリンナ令嬢は驚いたようにミリアムを見つめてから、将来の夫の顔を見た。
まさかミリアムが引き受けるとは思っていなかったのだろう。未婚の令嬢にとって名誉を汚されるということは重たい。しかもこんな幼い娘を貶めようとしたのだ。
本来ならば親子ともども恨まれて当然、許してもらえずとも当然、なのだ。だがミリアムとしては、犯人の事情がわかった時点で、そこまで恨みは持っていなかった。
コリンナ令嬢は自ら罪に手を染めてしまいはしたが、もともと切羽詰まった状況を、ビーイング公爵自身に、脅しなだめすかされたということが大きい。
コリンナ令嬢自身が、ミリアムに害意があるわけではないのだ。長女の責任として弟と妹の未来を考えた時に、彼女には他に手段がなかった。愚かなことではあるが。
こうして未来の夫とともに謝罪をしてくれたことで、ミリアムとしては、じゅうぶんだわ、という気持ちになっていた。
「でも……折角ですもの、ムードン伯爵にもう一つご提案がございます。」
「提案……ですか?」
ミリアムはゆっくりと手を広げた。
「お父さまには、これが見えますわよね?」
「ぴう~!」
小さな帽子をかぶった、どんぐりみたいな縫製の妖精たちが、ぴょんぴょんと飛び出してきた。
「ぴうぴう~!」
「な、なんだねこれは……!?」
「これが私が新しく手に入れた力、縫製の妖精さんたちですわ。」
アリアドネのことも、縫製の妖精たちのことも見えないムードン伯爵とコリンナ令嬢は、驚く様子のローゼンハイデン公爵の姿にポカンとしている。
ローゼンハイデン公爵は苦笑しながら頷いた。
「ああ、見えているよ。……ミリアム、お前は本当に毎度驚かせてくれるな。それで、いったいこの子たちには何が出来るのだね?」
ミリアムはハンカチを一枚取り出し、妖精たちに指示を出した。
「みんな、ちょっとだけ手伝ってくれる?」
「ぴうぴう~!」
ミリアムが取り出したハンカチの上で、縫製の妖精たちが踊るように作業を開始する。コロンコロン動く様は大変愛らしい。
次の瞬間、ハンカチの上に美しい花と葉の刺繍が、一瞬で浮かび上がった。
「おお……なんということだ。こんなにも素早く刺繍が出来るのか?」
ムードン伯爵とコリンナ令嬢からすると、何もないところに、まるで魔法のように、糸が勝手に動き、完璧な模様を織り上げていくかのように見えていた。
「私はこのように、一瞬で刺繍の量産が可能ですの。これなら、ムードン伯爵領の綿花を使ったハンカチや洋服などに、私の刺繍を施して、国内外に売ることも可能ですわ。」
ムードン伯爵が呆然と呟いた。
「……こんなことが、連続で出来うると?このレベルの刺繍の量産が、出来るとおっしゃられるのですか?」
「はい。海外への貿易ルートは……お父さまが得意ですもの。お父さま、ムードン伯爵を助けて下さいますよね?」
ミリアムが横に座る父親を上目遣いで見上げると、ローゼンハイデン公爵がにやりと笑った。
「もちろんだ。ミリアムブランドの刺繍を全国展開しなくて、ローゼンハイデン公爵が名乗れるものか。──ムードン伯爵、うちが全面的に引き受けよう。」
「ほ……本当ですか!?」
興奮してソファーから立ち上がりかけたムードン伯爵に、そっと手を添えつつも、コリンナ令嬢も興奮した様子だ。
「加工した上で、貴族向けの高級品として売り出せば、ビーイング侯爵家を通さずとも、十分に利益が出る。……いや、むしろ、今までより遥かに儲かるだろう。」
ムードン伯爵は深く頭を下げた。
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます。」
「単なる結婚祝いですわ。それに、私も事業をやりたいと思っておりましたの。」
前世で失った自分の店を再び取り戻したい気持ちが、ミリアムは強かった。
数ヶ月後。ムードン伯爵とコリンナ令嬢の結婚式に、ミリアムはローゼンハイデン公爵家の家族とともに参列した。
コリンナ令嬢の純白のドレスには、ミリアムの刺繍が優雅に輝いていた。建国神話の女神の衣装を思わせる、繊細で神聖な模様。
会場中が息を呑むほどの美しさだった。式の後、コリンナ令嬢がミリアムに近づいてきた。
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「ミリアムの刺繍を?」
「ご令嬢の作品は、もはや芸術の域に達しています。あの刺繍を纏えば、コリンナは……きっと、誰からも祝福される、批判の声にも負けない花嫁になれる。もしも令嬢にお許しいただけるのであれば……ですが。」
確かに、ミリアム以上に注目される刺繍の出来る人間はいないだろう。ましてやミリアムは今回の被害者の1人でもある。
そのミリアムが刺繍をしたということは、コリンナ令嬢を被害者が許したというアピールにもつながる。
ミリアムは少し考えてから、微笑んだ。「喜んでお引き受けいたしますわ。」
「おお……それはありがたい……!」
ムードン伯爵は嬉しそうに目を細め、コリンナ令嬢は驚いたようにミリアムを見つめてから、将来の夫の顔を見た。
まさかミリアムが引き受けるとは思っていなかったのだろう。未婚の令嬢にとって名誉を汚されるということは重たい。しかもこんな幼い娘を貶めようとしたのだ。
本来ならば親子ともども恨まれて当然、許してもらえずとも当然、なのだ。だがミリアムとしては、犯人の事情がわかった時点で、そこまで恨みは持っていなかった。
コリンナ令嬢は自ら罪に手を染めてしまいはしたが、もともと切羽詰まった状況を、ビーイング公爵自身に、脅しなだめすかされたということが大きい。
コリンナ令嬢自身が、ミリアムに害意があるわけではないのだ。長女の責任として弟と妹の未来を考えた時に、彼女には他に手段がなかった。愚かなことではあるが。
こうして未来の夫とともに謝罪をしてくれたことで、ミリアムとしては、じゅうぶんだわ、という気持ちになっていた。
「でも……折角ですもの、ムードン伯爵にもう一つご提案がございます。」
「提案……ですか?」
ミリアムはゆっくりと手を広げた。
「お父さまには、これが見えますわよね?」
「ぴう~!」
小さな帽子をかぶった、どんぐりみたいな縫製の妖精たちが、ぴょんぴょんと飛び出してきた。
「ぴうぴう~!」
「な、なんだねこれは……!?」
「これが私が新しく手に入れた力、縫製の妖精さんたちですわ。」
アリアドネのことも、縫製の妖精たちのことも見えないムードン伯爵とコリンナ令嬢は、驚く様子のローゼンハイデン公爵の姿にポカンとしている。
ローゼンハイデン公爵は苦笑しながら頷いた。
「ああ、見えているよ。……ミリアム、お前は本当に毎度驚かせてくれるな。それで、いったいこの子たちには何が出来るのだね?」
ミリアムはハンカチを一枚取り出し、妖精たちに指示を出した。
「みんな、ちょっとだけ手伝ってくれる?」
「ぴうぴう~!」
ミリアムが取り出したハンカチの上で、縫製の妖精たちが踊るように作業を開始する。コロンコロン動く様は大変愛らしい。
次の瞬間、ハンカチの上に美しい花と葉の刺繍が、一瞬で浮かび上がった。
「おお……なんということだ。こんなにも素早く刺繍が出来るのか?」
ムードン伯爵とコリンナ令嬢からすると、何もないところに、まるで魔法のように、糸が勝手に動き、完璧な模様を織り上げていくかのように見えていた。
「私はこのように、一瞬で刺繍の量産が可能ですの。これなら、ムードン伯爵領の綿花を使ったハンカチや洋服などに、私の刺繍を施して、国内外に売ることも可能ですわ。」
ムードン伯爵が呆然と呟いた。
「……こんなことが、連続で出来うると?このレベルの刺繍の量産が、出来るとおっしゃられるのですか?」
「はい。海外への貿易ルートは……お父さまが得意ですもの。お父さま、ムードン伯爵を助けて下さいますよね?」
ミリアムが横に座る父親を上目遣いで見上げると、ローゼンハイデン公爵がにやりと笑った。
「もちろんだ。ミリアムブランドの刺繍を全国展開しなくて、ローゼンハイデン公爵が名乗れるものか。──ムードン伯爵、うちが全面的に引き受けよう。」
「ほ……本当ですか!?」
興奮してソファーから立ち上がりかけたムードン伯爵に、そっと手を添えつつも、コリンナ令嬢も興奮した様子だ。
「加工した上で、貴族向けの高級品として売り出せば、ビーイング侯爵家を通さずとも、十分に利益が出る。……いや、むしろ、今までより遥かに儲かるだろう。」
ムードン伯爵は深く頭を下げた。
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます。」
「単なる結婚祝いですわ。それに、私も事業をやりたいと思っておりましたの。」
前世で失った自分の店を再び取り戻したい気持ちが、ミリアムは強かった。
数ヶ月後。ムードン伯爵とコリンナ令嬢の結婚式に、ミリアムはローゼンハイデン公爵家の家族とともに参列した。
コリンナ令嬢の純白のドレスには、ミリアムの刺繍が優雅に輝いていた。建国神話の女神の衣装を思わせる、繊細で神聖な模様。
会場中が息を呑むほどの美しさだった。式の後、コリンナ令嬢がミリアムに近づいてきた。
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