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第41話 こんなものいらない①

 ──バシッ!!!
 カラカラカラカラ……。コロン、ポトリ。

 私がイザークに叩きつけた宝石箱が、執務室の床の上を転がって、壁に当たって蓋が完全に開き、中のペンダントが転げ出た。

 思わず左手で顔面をかばうかのように、手のひらで宝石箱を受け止めるかのような体勢をとったイザークは、呆然としたまま、瞬きもせずに私を見つめていた。

「君は……。気でも狂ったのか……?」
「──それはあなたよ、イザーク。
 ……いいえ、ずっと前から、あなたはおかしな人だったわ。」

「どういう意味だ。」
 釈然としなさそうにイザークが答える。
 予想外の私の行動に、完全に虚をつかれたようね。いつもなら今頃怒りだしている筈。

「あなたとお義母さまは、これをしつけだと言ったわね、この家に来た時から。いつも私のすることを、やることなすこと、否定して来たわ。それこそ些細なことまで。」

「ああそうだ。君は我が家の決まりに従って行動出来ていない。それをしつけるのは、母であり、私の役目だからな。」

「それがおかしいと言っているのよ。」
「──なんだと?」
「私の家が子爵家なのは、覚えているでしょう?そしてこの家は伯爵家だわ。」

「それがどうした?」
「侯爵家以上の上級貴族や王族と、それ以外の貴族ではマナーが違うわ。だから嫁いだ場合、それを覚える必要があるでしょう。」

「当然だな。王族は挨拶ひとつとっても違う。
 それがわからないから、全貴族が集合する新年の挨拶以外で、下位貴族は呼ばれることが少ないんだ。それで?なにが言いたい。」

「私の実家のメッゲンドルファー子爵家と、ロイエンタール伯爵家で、大きな違いがあること自体、おかしいのよ。あなたの家は、いいえあなたたちは、まるで自分たちが王族であるかのように勘違いをしているわ。」

「……なんだと?」
「当主が食べ始めるまで料理を口にしてはいけない。当主が食べ終えたら食べ終えなくてはいけない。当主より先に大浴場を使ってはいけない。どこに行くにも何をするにも当主の許可を得なくてはならない。不道徳だからボードゲームをしてはいけない。パーティーでは右側にいる人から話しかける。甲殻類を食べてはいけない。毛皮を身に着けてはいけない。座る時は足首をクロスさせる。──どれもこれも、王室のルールじゃないの!!」

「……父が決めた、我が家のルールだ。」
「あなたのお父さまが、異常に王室に執着があったのは知っているわ。いざロイエンタール伯爵家に王女さまが降嫁された際の為に、あなたを王室のルールに則って育てたのだということもね。そうでなければ縁戚として王宮に呼ばれた際に恥をかくから。」

 だけど、と私はため息混じりに言った。
「我が国ひろしと言えども、実際に縁戚でもないのに、ましてや伯爵家以下でそんなことをしているのは、ロイエンタール伯爵家だけだと言うことよ。それを今更覚えてなんになるというの?お義父さまの言う通り、次世代こそ王室と縁付かせる為?馬鹿馬鹿しい!」

「なんだと!?父を馬鹿にするな!」
「ロイエンタール伯爵家が、あなたが皆に笑われているのはね、あなたに王女さまが降嫁しなかったからだけじゃない。分不相応に王家の猿真似をしている家だからよ。」

「お前……よくも……!」
 イザークがグッと拳を強く握りしめた。
「家の中でも外でも、私にまでそのルールを強要するから、私まで笑われているのよ!」

「こんなことをして、私を嘲笑って、ただですむと思っているのか?」
 イザークは宝石箱を拾って言った。

「こんな馬鹿みたいなルールに、大人しく従う妻が欲しいのなら、他をあたってちょうだい。見つかるとは思えないけどね。私はもうたくさんよ。──離婚して下さい。」

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