87 / 192

第41話 こんなものいらない②

「はっ。この家を出てどうすると言うんだ。メッゲンドルファー子爵家ではお前1人養うことも難しいだろう。次は後妻を探している年寄に嫁がされるのがいいところだろう。」

「私、魔法絵師として魔塔に認められたの。
 あなたにも実家にも、頼らなくても生きていかれるのよ。残念でしょうけれど。」
「馬鹿馬鹿しい。お前の絵ごときで──」

「私の魔法絵は、特別なんですって。」
「なんだと?」
「魔法絵師のスキル持ちと、同じ効果を持つ魔法絵を、描くことが出来るのよ。」

「魔法絵師のスキルと同じ効果……?
 まさか、召喚絵を描けるというのか?
 お前ごときが?馬鹿も休み休み言え。」

「信じようが信じまいがご勝手にどうぞ。
 私はこの家を出ていかせてもらうわ。
 私にとって何より大切な、魔石の粉末入りの絵の具を売って、代わりに宝石ですって?
 私にとって絵は何より大切なものなのよ。
 それがわからない人とは暮らせません。」

「待て、離婚なぞ認めん。」
「あとは離婚協議場で会いましょう。さようなら、イザーク。短い結婚生活だったわね。
 明日の朝出て行かせてもらうわ。」

 私はそう言うと、イザークの執務室を出て自室に戻り、カバンに荷物を詰めて、ベッドに横になった。この家に私の持ち物なんてたかが知れているから、荷造りはすぐ済んだ。

 すると突然、ドンドン!とドアを叩く音。
 何事かと思ってドアを開けると、怒り狂った表情のイザークが、扉の前に立っていて、私は一瞬ヒュッと息を飲んだ。

「何をしている。早く出ていけ。」
「は?」
「この家の人間ではなくなるのだろう。
 ならこの部屋に泊めることは出来ない。」

「ちょっと──」
「ああ、ちょうどいい、荷造りも済ませてあるじゃないか。早く出ていくんだ。」

 イザークは私の荷物を持って、反対側の手で私の手首を掴んで、引きずるようにどんどんと歩いて行ってしまう。私は今パジャマ姿だ。この格好のまま出ていけと言うの!?

「ちょっとイザーク、今から馬車を探せというの?しかもこんな格好で?」
「出て行くと言ったのは君だ。当主の言うことに逆らう人間にはしつけが必要だ。」

 しつけ。しつけ。しつけ。ロイエンタール伯爵家では、当主に逆らう人間にはしつけが必要。あなたの中ではこれもしつけなのね。

「パジャマ姿で外に放り出されている女性を見て、通りすがりの人や、話を聞いた他の貴族たちがどう思うかしらね!?
 所詮それがロイエンタール伯爵家の恥だとわからないのね、あなたには。」

 私は精一杯の抵抗で、普段着に着替える時間を稼ごうとした。いくらなんでも上着も羽織っていないパジャマ姿で、馬車を捕まえる女性なんて、噂になるに決まっているもの。

「……。いいだろう。着替えてくるがいい。
 だが5分しか待たない。」
「あなたは貴族女性の服が、1人じゃ着られるものじゃないことも知らないのね。」

 私はアンがいなくなってから、1人で着られる服ばかりを着ていたから、もちろん1人で着られる服もあるけれど、それは自室で着る用のもので、当然外出着じゃない。
                                                              
「……メイドを叩き起こそう。だが、我が家が買い与えたものを持っていくのは許さない。君が実家から持ってきた服を着るんだ。」
「当然そのつもりよ。」

 明日の朝着ていく用に、実家から持って来た服をクローゼットにかけてあったのだ。
 私は自室に戻ると、メイドが来るのを待って、服を着替えるのを手伝って貰った。

 脱ぐことを考えると、コルセットをしめずに着る服でも、背中で結ばれた紐をほどくのが大変なのだ。今日は服を着たまま寝て、明日の朝アンに手伝ってもらう他ないわね。

 私は外泊なんて滅多にしない。ましてやイザークに旅行に連れて行ってもらったこともない。町に何があるのかも知らない。こんな時間に泊めてくれる宿屋を私は知らない。

 行くあてがあるとすればアンの住む村だけだ。絵の具工房の工房長から借りる予定だった家のガゼボなら、村から見えないからひと目につかないし、屋根があるから万が一雨が降っても、少しはさけられるでしょうしね。

────────────────────

少しでも面白いと思ったら、エピソードごとのイイネ、または応援するを押していただけたら幸いです。
感想 89

あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

【完】夫から冷遇される伯爵夫人でしたが、身分を隠して踊り子として夜働いていたら、その夫に見初められました。

112
恋愛
伯爵家同士の結婚、申し分ない筈だった。 エッジワーズ家の娘、エリシアは踊り子の娘だったが為に嫁ぎ先の夫に冷遇され、虐げられ、屋敷を追い出される。 庭の片隅、掘っ立て小屋で生活していたエリシアは、街で祝祭が開かれることを耳にする。どうせ誰からも顧みられないからと、こっそり抜け出して街へ向かう。すると街の中心部で民衆が音楽に合わせて踊っていた。その輪の中にエリシアも入り一緒になって踊っていると──

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。 挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。 だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……? 酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。 ※小説家になろうでも投稿しています

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

いくら時が戻っても

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。 庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。 思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは――― 短編予定。 救いなし予定。 ひたすらムカつくかもしれません。 嫌いな方は避けてください。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

病弱な愛人の世話をしろと夫が言ってきたので逃げます

音爽(ネソウ)
恋愛
子が成せないまま結婚して5年後が過ぎた。 二人だけの人生でも良いと思い始めていた頃、夫が愛人を連れて帰ってきた……