養っていただかなくても結構です!〜政略結婚した夫に放置されているので魔法絵師として自立を目指したら賢者と言われ義母にザマァしました!(続く)
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
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第55話 アデラ・フォン・ロイエンタール前伯爵夫人の訪問②
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息子に妻がいるにも関わらず、アデラが伯爵夫人としての仕事をしていれば、おのずと無能な妻と、それを支える有能で心優しい義母の図式が出来上がる。
アデラは、今なお美しく、有能で、無能な息子の嫁をサポートし続ける前伯爵夫人、という評価を手放すつもりは毛頭なかった。
イザークの妻が何も主張をせず、アデラの好きにさせ続けることで、アデラは社交界での地位を確固たるものとしていた。
わざとその役目を引き継がないのだということは、ロイエンタール伯爵家の内情に詳しい人間でなければわからないことだった。
「……まぁいいわ。今日はね、イザークの嫁の顔を見に来たのよ。」
「お母さま!それは……。」
イザークが目線をそらして言い淀む。
「なあに?なにか問題でもあるのかしら?」
「……いえ、問題はありませんが。」
歯切れの悪い口調でイザークが言う。
「だったらいいじゃない。聞いたところによると、魔法絵師になって、アデリナ・アーベレ嬢とも親しくなったのですって?
で?嫁はどこにいるのよ?」
「はい、それが……お母さま。」
「なにかしら?」
「妻は今ここにはおりません。」
イザークの言葉にアデラは目を丸くする。
「……はぁ?あなた何言ってるの?
そんな筈はないでしょうよ。あの社交嫌いが家にいないわけがないでしょう。」
「お母さま!ですから!今ここには妻はいないんです!!」
イザークが強い言葉で否定してくる。アデラは頭がついていかない。
今日は、自身の義理の娘、つまりイザークの妻であるフィリーネと対面する為に、わざわざ来たのである。
急に目立つ行動をするようになった息子の嫁に、釘をさす為に。そしてまた大人しくさせるつもりでいたのだ。
それなのに、この場に妻がいないと言う。
「どういうことなの?」
「ですから、お母さま。妻は今、ここにいないのです。」
イザークは同じ言葉をただ繰り返した。
「だから!それがわからないのよ!!どうしてあの生意気な嫁が家にいないの!ほんの少し交友関係を広げたからって、毎日出かける程の誘いがあの子にあるとでも言うの!?」
「……お母さま、落ち着いてください。」
「これが落ち着いていられるものですか!」
まさかあの地味な娘が、急に周囲にチヤホヤされだしたとでもいうのか。
それは自分の役目なのだ。未来永劫、ロイエンタール伯爵夫人と呼ばれるべきは、尊敬と注目を集めるのはこのアデラなのだ、と、アデラは苦々しく思っていた。
より地位の高い貴族との縁続きを願い、それを叶えられなかった挙げ句手に入れた下位貴族のお飾りの妻などに、ロイエンタール伯爵家の何も与えてやるつもりはなかった。
「お母さま……。」
母の形相に困惑するイザーク。
「で、どういうことか説明してくださる?」
手にしていた扇子をパチンと鳴らした。
「……はぁ……わかりました。ですがその前に応接室にお越しいただき、ソファーにお座りください。お茶を用意させますので。」
アデラを応接室のソファーに座らせるとまずお茶を出し、イザークは妻であるフィリーネがこの屋敷から出て行った経緯を話した。
「……ということなんです。」
「……はぁ……。」
アデラはすっかり呆れてしまった。まさか躾のつもりで家の外に出した嫁が、そのまま着の身着のまま屋敷を飛び出したなどと。
さすがのイザークも予想していなかったことだろう。前伯爵夫人であるアデラは、自身の息子夫婦の仲が良くないことを充分理解していたし、会話がないことも知っていた。
リハビリの為にメイドと話させたが、それでも自分の妻となった女との会話を、イザークはあまり好まなかったからだ。イザークの若い貴族の女性嫌いは治ることはなかった。
息子の口数が日々少なくなっているのにも気づいていたが、まさかここまでとは思ってなかったのである。大人しいだけの嫁が、逃げ出すほど息子を嫌っていたとは。
それにしてもやはり生意気な嫁だ。持参金がない名ばかりの貧乏貴族など、乞食と変わらない存在だとアデラは思っていた。
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アデラは、今なお美しく、有能で、無能な息子の嫁をサポートし続ける前伯爵夫人、という評価を手放すつもりは毛頭なかった。
イザークの妻が何も主張をせず、アデラの好きにさせ続けることで、アデラは社交界での地位を確固たるものとしていた。
わざとその役目を引き継がないのだということは、ロイエンタール伯爵家の内情に詳しい人間でなければわからないことだった。
「……まぁいいわ。今日はね、イザークの嫁の顔を見に来たのよ。」
「お母さま!それは……。」
イザークが目線をそらして言い淀む。
「なあに?なにか問題でもあるのかしら?」
「……いえ、問題はありませんが。」
歯切れの悪い口調でイザークが言う。
「だったらいいじゃない。聞いたところによると、魔法絵師になって、アデリナ・アーベレ嬢とも親しくなったのですって?
で?嫁はどこにいるのよ?」
「はい、それが……お母さま。」
「なにかしら?」
「妻は今ここにはおりません。」
イザークの言葉にアデラは目を丸くする。
「……はぁ?あなた何言ってるの?
そんな筈はないでしょうよ。あの社交嫌いが家にいないわけがないでしょう。」
「お母さま!ですから!今ここには妻はいないんです!!」
イザークが強い言葉で否定してくる。アデラは頭がついていかない。
今日は、自身の義理の娘、つまりイザークの妻であるフィリーネと対面する為に、わざわざ来たのである。
急に目立つ行動をするようになった息子の嫁に、釘をさす為に。そしてまた大人しくさせるつもりでいたのだ。
それなのに、この場に妻がいないと言う。
「どういうことなの?」
「ですから、お母さま。妻は今、ここにいないのです。」
イザークは同じ言葉をただ繰り返した。
「だから!それがわからないのよ!!どうしてあの生意気な嫁が家にいないの!ほんの少し交友関係を広げたからって、毎日出かける程の誘いがあの子にあるとでも言うの!?」
「……お母さま、落ち着いてください。」
「これが落ち着いていられるものですか!」
まさかあの地味な娘が、急に周囲にチヤホヤされだしたとでもいうのか。
それは自分の役目なのだ。未来永劫、ロイエンタール伯爵夫人と呼ばれるべきは、尊敬と注目を集めるのはこのアデラなのだ、と、アデラは苦々しく思っていた。
より地位の高い貴族との縁続きを願い、それを叶えられなかった挙げ句手に入れた下位貴族のお飾りの妻などに、ロイエンタール伯爵家の何も与えてやるつもりはなかった。
「お母さま……。」
母の形相に困惑するイザーク。
「で、どういうことか説明してくださる?」
手にしていた扇子をパチンと鳴らした。
「……はぁ……わかりました。ですがその前に応接室にお越しいただき、ソファーにお座りください。お茶を用意させますので。」
アデラを応接室のソファーに座らせるとまずお茶を出し、イザークは妻であるフィリーネがこの屋敷から出て行った経緯を話した。
「……ということなんです。」
「……はぁ……。」
アデラはすっかり呆れてしまった。まさか躾のつもりで家の外に出した嫁が、そのまま着の身着のまま屋敷を飛び出したなどと。
さすがのイザークも予想していなかったことだろう。前伯爵夫人であるアデラは、自身の息子夫婦の仲が良くないことを充分理解していたし、会話がないことも知っていた。
リハビリの為にメイドと話させたが、それでも自分の妻となった女との会話を、イザークはあまり好まなかったからだ。イザークの若い貴族の女性嫌いは治ることはなかった。
息子の口数が日々少なくなっているのにも気づいていたが、まさかここまでとは思ってなかったのである。大人しいだけの嫁が、逃げ出すほど息子を嫌っていたとは。
それにしてもやはり生意気な嫁だ。持参金がない名ばかりの貧乏貴族など、乞食と変わらない存在だとアデラは思っていた。
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