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第55話 アデラ・フォン・ロイエンタール前伯爵夫人の訪問③

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 まともに結婚出来ない立場をもらってやったというのに、まさか婚家から逃げ出して、息子に恥をかかせるなどありえないことだ。

「で?あなたはそれをただ黙って見ていたというの?」
「いえ!彼女がいないことに気が付いて、私もすぐに後を追いかけたのですが……。」

 イザークはそう言って、すぐに俯いた。
「居場所はすぐに特定出来たのですが……。」
「あなたでは無駄でしょうね。」

「ええ、お母さまの言う通りです。私では連れ戻すことが出来ませんでした。」
「……そうでしょうね。で?結局あなたはそれでよいと思っているのかしら?」

「いいえ。よくはありません。ですが、妻の気持ちを考えると……。」
「ああもう!じれったいわね!!首でも掴んで引きずってくればよいのですよ!」

 アデラは勢いに任せてテーブルを叩き割りたい思いに駆られたが、なんとか抑えた。
「……そんな言い方はないでしょう。」

 イザークが何か言い返そうとしたが、それを遮ってアデラは続ける。
「いい!私はね!あなたみたいなウジウジした男は好きじゃないのよ!」

「私だって好きでこうなわけでは……。」
「だったらシャキッとしなさいな!
 ……まったく、どうして私の息子はこんなに情けないのかしら……。」

 子どもの頃から繰り返し躾けてきたというのに、その性質が変わる様子が見られないことに、アデラは頭を抱えてため息を吐いた。そしてまた口を開く。

「いいこと?あなたはフィリーネを妻として迎えたのでしょう?」
「ええ、そうですよ。彼女は今も、私の妻です。それは未来永劫変わりません。」

「──だったら!あなたの妻は今どこにいるの?」
「……それは……。」
 イザークが目線をそらした。

「まさかとは思うけれど、どこか別の所に家がある……なんて言わないでしょうね?」
「……ええ。そのまさかです。」
 アデラは頭が沸騰するかと思った。

 それがわかっていて、連れ戻すことも出来ずに、そのままその家に妻を住まわせているということだ。あんな女1人、無理矢理にでも引きずってくればそれで済むものを。

「馬鹿じゃないの!おめおめと戻って来るなんて!夫のほうが立場が偉いということを、あなたはわからせなくてはいけないのよ?」

「そんな言い方はないでしょう。夫婦はどちらが偉いということはないものの筈です。」
 ムッとしたようにイザークが言い返す。

「お黙り!あなた、フィリーネのことを何もわかっていないようね?」
 アデラはやれやれといった調子で息子に言う。そして続けた。

「あの子は強く言われれば逆らえない子なのよ?あなたは貴族としては優し過ぎるから、強く言えなかったのでしょう?私がいつも言っている通り、厳しく躾けてやれば、あの子はきちんと言うことを聞く筈よ。」

「お言葉ですが、私は妻に対してもう、躾けるだとかそういったことは、行わないつもりなのです。対等な関係を築きたいのです。妻のことも少し見守るつもりでいるのです。」

 イザークが妻を庇うような発言をしたのでアデラはかなり驚いた。今までの息子であればこんなことはなかった。自分たちの言いつけを守って、すぐにでも行動した筈だ。

「馬鹿をおっしゃい!」
 アデラはそう叫んでから頭を振った。
「いい?あなたが今しなくちゃいけないのはね、妻の後を追いかけることなのよ。」

「……それはそうかもしれませんが……。」
「本当に情けないわね!ほら、さっさと立って妻を連れ戻しに行きなさいな!」

「しかし……。」
 イザークは中々立ち上がらない。
 アデラは段々と強い怒りを覚えだした。

「いい?あなたは気の利いた言葉の一つも言えないのだから、妻を甘やかすような真似はおやめなさい!妻をつけあがらせるくらいなら、離婚した方がまだマシよ!」

「……お母さま。」
 そんな煮え切らない息子に、アデラは再び絶叫するように叫ぶ。そうしなければ気が済まなかったのである。そして、その叫びは屋敷中に響き渡ったのだった。

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