3 / 4
3 ある日、由紀は道端で
しおりを挟む
ある日、由紀は道端で二人組に声をかけられた。
「ゲーム実況者のYUKIKIさんですね? ちょっとお話よろしいでしょうか」
口調は丁寧だったが、遠慮しているようには見えなかった。
マイクを持った女性と、その後ろで大きなカメラを構えた男性。マスコミだろう。
「いや、知りません」
由紀は顔をそむけ、足早に立ち去ろうとしたが、ぴったりついてくる。
今はチヤホヤされるより、気ままで自由な生活を満喫したかった。
「YUKIKIさん、ご自身の発言の真意についてお聞かせいただけますか」
「すみません、意味わかんないです」
「発言の背景はどのようなものがあったのでしょうか? 発言の訂正や謝罪は?」
「はあ? 謝罪?」
由紀は女性に思わずしかめっ面を向けた。
「なんで私が。もうやめてください。ついてこないで」
「ひと言でいいので、お答えいただけませんか」
由紀は女性を振り切って逃げた。
アパートの自室に戻り、もしやと思って調べた。
「人気ゲーム実況者YUKIKI、ゲーム開発会社批判で炎上」という見出しのネットニュースを見つけて、目を疑った。
「なんでこんなに炎上してるの!?」
由紀が問い詰めると、由紀クローンは大したことではないというように飄々と答えた。
「私が配信中に批判的な発言をしたことは事実。だけどそのときは炎上しなかった」
「じゃあなんで今は炎上してるのさ」
「アンチが私の発言の一部を切り取って、悪意ある編集をして動画を拡散させた」
「あんたはAIなんだから、対策とかできたんじゃないの?」
「AIは万能じゃない」
画面の中の由紀クローンは、事の重大さをわかっていないのか、涼しい顔。あたかも「自分は悪くない」と言っているようで、由紀は腹が立った。
「この炎上騒ぎ、どうしてくれんの?」
「『バーチャルAIクローン』の利用規約には、『バーチャルAIクローン』が引き起こしたいかなる問題や損害に対しても、責任を負うのはすべて利用者自身だと明記されている。さらに私の言動はすべて利用者であるあなたの指示と、与えられた権限の範囲内で行なっている」
「それって全部私が悪いってことっ!?」
由紀は声を荒らげた。一方、クローンは表情ひとつ変えずに答える。
「そうよ」
カチンときた。
「ふざけんなっ! お前のせいで、私は外も歩けない!」
「あなたこそ、利用規約を理解していなかったのなら、改めて読んでおくべき」
「うるさい! そういう問題じゃねーんだよ!」
由紀はパソコンデスクに拳を振り下ろした。
「二度と配信なんてするな! 消えろ! このクソAIが!」
由紀はクローン用のページを閉じ、炎上の状況を確認しようと自分の配信ページを開く。ダイレクトメッセージが一件。某テレビ局のスタッフを名乗る人物からの取材の依頼だった。
「誰が取材なんて! いや待てよ。炎上させたのはAIなんだから、その証拠を出して記事にしてもらえばよくない?」
『実はあの発言は私本人ではなく、バーチャルAIクローンのせいなんです。証拠を送るので記事にしてください』
由紀はメッセージを返し、
「よし、後はあのクソAIの証拠を探して……」
インターネットの履歴から由紀クローンを作成したサイトに移動したが、現れたのは「お探しのページは見つかりませんでした」という文章のみだった。
「はあ!? なんでページが消えてるの?」
おかしいと思ってやり直しても、検索しても、そのサイトが出てこない。
これではバーチャルAIクローンを使っていた事実を証明できない。
「由紀クローンっ! 応答して」
呼びかけても反応がない。
「おい、何か言えよ! AI! おいっ!」
何か他に由紀クローンの存在を証明するデータがパソコンに残っているはずだ、と思い、探してみる。しかし、由紀クローンとバーチャルAIクローンに関するデータや履歴は何ひとつ出てこない。すべてきれいに消されている。
過去の配信のアーカイブなら膨大にあるが、それは由紀クローンが配信をしていたという証明にはならない。
「まさかあいつ、私が消えろって言ったから? ふざけんじゃねーぞ!」
怒りが込み上げたが、しばらくして冷静さを取り戻すと、今度は不安になってきた。
炎上を終わらせるにはどうすればいいのか。皆が飽きて忘れるまで放っておく? それとも謝罪文を掲載すべき?
まさか由紀クローンは他にも問題を起こしてやいないか。
今後の生活はどうなるのか。
「もう最悪……」
わからないことだらけで、頭も胃も痛くなってくる。吐きそうだった。
またダイレクトメッセージが届いていた。
差出人は「TRUTH」と名乗る者。
『YUKIKI様、初めまして。私はネット上での炎上を鎮めるサービスをしております。失った信頼を回復させ、平穏な日々を取り戻すお手伝いを致します』
「ゲーム実況者のYUKIKIさんですね? ちょっとお話よろしいでしょうか」
口調は丁寧だったが、遠慮しているようには見えなかった。
マイクを持った女性と、その後ろで大きなカメラを構えた男性。マスコミだろう。
「いや、知りません」
由紀は顔をそむけ、足早に立ち去ろうとしたが、ぴったりついてくる。
今はチヤホヤされるより、気ままで自由な生活を満喫したかった。
「YUKIKIさん、ご自身の発言の真意についてお聞かせいただけますか」
「すみません、意味わかんないです」
「発言の背景はどのようなものがあったのでしょうか? 発言の訂正や謝罪は?」
「はあ? 謝罪?」
由紀は女性に思わずしかめっ面を向けた。
「なんで私が。もうやめてください。ついてこないで」
「ひと言でいいので、お答えいただけませんか」
由紀は女性を振り切って逃げた。
アパートの自室に戻り、もしやと思って調べた。
「人気ゲーム実況者YUKIKI、ゲーム開発会社批判で炎上」という見出しのネットニュースを見つけて、目を疑った。
「なんでこんなに炎上してるの!?」
由紀が問い詰めると、由紀クローンは大したことではないというように飄々と答えた。
「私が配信中に批判的な発言をしたことは事実。だけどそのときは炎上しなかった」
「じゃあなんで今は炎上してるのさ」
「アンチが私の発言の一部を切り取って、悪意ある編集をして動画を拡散させた」
「あんたはAIなんだから、対策とかできたんじゃないの?」
「AIは万能じゃない」
画面の中の由紀クローンは、事の重大さをわかっていないのか、涼しい顔。あたかも「自分は悪くない」と言っているようで、由紀は腹が立った。
「この炎上騒ぎ、どうしてくれんの?」
「『バーチャルAIクローン』の利用規約には、『バーチャルAIクローン』が引き起こしたいかなる問題や損害に対しても、責任を負うのはすべて利用者自身だと明記されている。さらに私の言動はすべて利用者であるあなたの指示と、与えられた権限の範囲内で行なっている」
「それって全部私が悪いってことっ!?」
由紀は声を荒らげた。一方、クローンは表情ひとつ変えずに答える。
「そうよ」
カチンときた。
「ふざけんなっ! お前のせいで、私は外も歩けない!」
「あなたこそ、利用規約を理解していなかったのなら、改めて読んでおくべき」
「うるさい! そういう問題じゃねーんだよ!」
由紀はパソコンデスクに拳を振り下ろした。
「二度と配信なんてするな! 消えろ! このクソAIが!」
由紀はクローン用のページを閉じ、炎上の状況を確認しようと自分の配信ページを開く。ダイレクトメッセージが一件。某テレビ局のスタッフを名乗る人物からの取材の依頼だった。
「誰が取材なんて! いや待てよ。炎上させたのはAIなんだから、その証拠を出して記事にしてもらえばよくない?」
『実はあの発言は私本人ではなく、バーチャルAIクローンのせいなんです。証拠を送るので記事にしてください』
由紀はメッセージを返し、
「よし、後はあのクソAIの証拠を探して……」
インターネットの履歴から由紀クローンを作成したサイトに移動したが、現れたのは「お探しのページは見つかりませんでした」という文章のみだった。
「はあ!? なんでページが消えてるの?」
おかしいと思ってやり直しても、検索しても、そのサイトが出てこない。
これではバーチャルAIクローンを使っていた事実を証明できない。
「由紀クローンっ! 応答して」
呼びかけても反応がない。
「おい、何か言えよ! AI! おいっ!」
何か他に由紀クローンの存在を証明するデータがパソコンに残っているはずだ、と思い、探してみる。しかし、由紀クローンとバーチャルAIクローンに関するデータや履歴は何ひとつ出てこない。すべてきれいに消されている。
過去の配信のアーカイブなら膨大にあるが、それは由紀クローンが配信をしていたという証明にはならない。
「まさかあいつ、私が消えろって言ったから? ふざけんじゃねーぞ!」
怒りが込み上げたが、しばらくして冷静さを取り戻すと、今度は不安になってきた。
炎上を終わらせるにはどうすればいいのか。皆が飽きて忘れるまで放っておく? それとも謝罪文を掲載すべき?
まさか由紀クローンは他にも問題を起こしてやいないか。
今後の生活はどうなるのか。
「もう最悪……」
わからないことだらけで、頭も胃も痛くなってくる。吐きそうだった。
またダイレクトメッセージが届いていた。
差出人は「TRUTH」と名乗る者。
『YUKIKI様、初めまして。私はネット上での炎上を鎮めるサービスをしております。失った信頼を回復させ、平穏な日々を取り戻すお手伝いを致します』
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる