君に出会うためのタイムリープ

吉田定理

文字の大きさ
1 / 4

その1

しおりを挟む
 フラれた。
 高校の卒業式の日。式が終わった後。
 クラスで一番可愛い女子――ユウカが、たまたま友だちの輪から外れ、一人でトイレに行くのを見かけて、トイレから出てきたところを廊下で待ち伏せた。
 そして、告白して、見事にフラれた。
「私のこと好きって、それって告白だよね?」
 そうだ、間違いなく告白だ。
 俺は学内カーストは底辺で、女子から一度もチヤホヤされることなく、灰色の高校生活を三年間過ごした。ずっと女子にモテたいと思っていたが、恋人はおろか、女友だちさえできなかった。最後に思い残すことがないようにと、クラスで一番可愛い女子に告白したんだ。
 ユウカはモデル並みの顔立ちをしていて、トレードマークの大きなリボンで左右にツインテールを結んでいる。明るくて、賑やかで、ちょっとギャルっぽい、俺とは真逆の世界に生きる人間だ。
 そんなキラキラした女子に告白するなんて……今思えばバカなことをしたと思う。
「マジで言ってるの? うけるんだけど」
 ユウカは俺の本気の告白をハナで笑った。
 その時点で俺は、告白なんてしなければよかったと後悔した。
 俺のマヌケその1――衝動的に行動してしまったこと。
「そもそも、あんた誰だっけ? えーっと、中村?」
「中山」
「ああそう。中山くん、私がシュンと付き合ってること、知らないの?」
「へ……?」
 俺のマヌケその2――この女に彼氏がいると気づかなかったこと。
 シュンと言われて思い浮かぶのは、野球部のエースでイケメンで成績も優秀なシュンだ。ユウカとシュンは教室でもよく一緒にしゃべっていたが、二人は単なる友だちであって、付き合っているわけではないと思っていた。こういうのを隠れビッチと言うのか?
 ユウカは嘲笑を隠すことなく、嫌味ったらしく続けた。
「知らなかったんだ? まあ、みんなには言ってなかったから、仕方ないけど。でもさぁ、仮に私に彼氏がいなかったとして、中山くんじゃ私と釣り合わないって、考えないの?」
 俺のマヌケその3――この女が性格ブスだと気づかなかったこと。
「それとも何? 私があんたみたいなのと、付き合う可能性が1%でもあるとでも思ったの? ゼロでしょ、普通、考えれば分かるって。あんたのどこに惚れる要素があるわけ? ないわ、マジで。これっぽっちも。あわよくばワンチャンあるかも、みたいに思われてることが気持ち悪すぎ」
 悪かったな。実際、あわよくば、だなんて思ってた俺がバカだったよ。
 心の中を言い当てられた俺は何も言い返せず、屈辱的な気持ちで立ち尽くした。初めての告白と、撃沈。胸が痛くて、握りしめた拳がふるふると震える。
「私、もう戻るけど、変なこと考えないでよね。二度と関わらないで。こういう待ち伏せとかあり得ないから。ストーカーなんてしたら速攻で警察に突き出して、人生終わらせてやるから」
 お前みたいな性格ブスをストーカーなんてするもんか! お前に彼氏がいて、しかもこんなひどい性格だと知ってたら、絶対に告白なんてしなかった! むしろ、こっちから願い下げだ! 顔がいいからって、調子に乗りやがって。
 友だちの輪に戻っていくツインテールの背中を、心の中でののしった。
 罵詈雑言はただの強がりで、本当は惨(みじ)めで、声をあげて泣きたいくらいの気持ちだった。
 痛い。胸がキリキリと痛む。こんなふうに、ストレートに罵倒されたのは初めてだ。
 ひと気のない廊下に取り残された俺は、シャツの胸元をぎゅっと握りしめて、痛みに耐えようとした。
 しかし、痛みはなかなか消えてくれない。
 むしろ、だんだんと耐えがたいものになっていき、俺は息も絶え絶えに、その場に座り込んだ。
 なんだこれ。息ができない。空気を吸い込もうと思っても、吸えない。
 病気? いや、持病なんてない。
 何かの発作? まさか失恋のショックで? 極度のストレスのせいで? そんなことで死ぬのか? マジで……?
「だれ……か……」
 このままじゃ本当にやばいと思って、俺は必死に助けを呼んだが、蚊の飛ぶような弱々しい声しか出ない。廊下は静まり返っていて、見回しても誰の姿も見当たらなかった。
 そうこうしている間にも、胸の苦しさはどんどん激しくなり、体を起こしているのも難しくなった。
 これ、冗談で済まないヤツだ。やばい。
 俺はその場に倒れた。
 冷たい床の感触。
 薄れていく意識。
 誰か助けてくれ……童貞のまま死にたくない……。
 女子とイチャイチャしてみたい……。
 このまま終わるなんて、いやだ……。
 誰か……。


***


 そもそも、高校の三年間で俺に彼女ができなかったのは、いい出会いがなかったからだ。運命的で劇的な出会いさえあれば、きっと、俺にも彼女ができていたに違いない。マンガやアニメの主人公だって、美少女ヒロインと劇的な出会いをするじゃないか。
 確かに、周りを見渡せば女子はたくさんいるのだから、俺が行動を起こさなかったのが悪いという見方もできる。カースト上位でなくとも、よく見ると案外可愛い女子がいたりするものだ。
 だけど、よく考えてほしい。
 何の用事もないのに、自分から女子に声をかけられるのは、イケメンか、コミュ力の高い男だけだ。俺みたいなヤツが急に「やあ、何の話をしてるんだい?」なんて話しかけてきたり、「俺も一緒にしゃべっていい?」なんて割り込んできたら、ドン引きされるに決まっている。
 実際、女子と仲良くなりたくて、勇気を出して声をかけてみたことがある。そうしたら、案の定、苦笑いされ、微妙な空気になったので、もう二度と話しかけないと決めた。
 つまり、脈絡もないのに急に話しかけたり、下心を持って近づいて行ってもダメなのだ。
 じゃあ、どうやったら、女子とお近づきになれるか?
 理想は、自然に距離が近づくような、きっかけがあればいい。
 最も理想的なのは、運命を感じさせるような出会いがあることだ。このことは、マンガやアニメにおいても、完璧に証明されている。主人公は美少女と、必ず運命的な出会いを果たし、そこから二人のラブロマンスが始まっていくのだ。逆に、この運命的な出会いがなければ、物語は始まりさえしないわけだ。
 まあ、それが分かっていても、運命的な出会いなんて、簡単には起こらないし、どうやら俺は死んでしまったみたいだし、今更なんだけどな……。


 このとき、俺は人生が終わったと思っていたのだが、むしろこれが始まりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...