君に出会うためのタイムリープ

吉田定理

文字の大きさ
2 / 4

その2

しおりを挟む
 胸が苦しい。息ができない。重いものに潰されているような圧迫感と息苦しさ。
 そして、暑い!
「お兄ちゃん! 何してんの!」
 この声は……妹のシオン!? なぜ? 俺は生きているのか?
「寝ぼけてないで早く起きなさいよ! 今日、入学式なんでしょ? 遅れるよ!」
 目を開けると、頬を膨らませた子供っぽい顔と見慣れた部屋の天井が見えた。
「あ、起きた」
「人の上に乗るんじゃねえ! 暑いし重い!」
 俺はシオンを押しのけて、ベッドからガバッと身を起こした。どう見ても俺の部屋。カーテンは開いていて、朝日が差し込んでいる。
「俺……助かったのか?」
「何言ってんの? 頭おかしくなった?」
「いや、だって、俺、廊下で倒れた後、どうなったんだ?」
「はあ? お兄ちゃん、倒れたの? なんで?」
「なんでって……高校生活ももう終わりだと思って、卒業式のあとに……」
「ちょっとちょっと。まだ高校に入ってもいないのに、何言ってるの? 怖いんだけど……」
「高校に入ってない……?」
「だって今日が高校の入学式じゃん」
「シオン、それ、本当なのか?」
「自分でスケジュール見ればいいじゃん……」
 あきれた様子のシオン。ふざけたり、からかったりしているようには見えない。
 なんだこれ。わけが分からない。俺は寝ぼけているのか? さっきのは夢? いや、そんなはずはない。確かに俺は、高校で三年間を過ごしたという記憶がある。
 スマホ画面を見た。
「四月十日!? シオン、今、何年だ!?」
「今日から私は中二だけど」
「そうじゃない。西暦何年?」
「2023年でしょ」
 愕然とした。俺が高校を卒業したのは2026年の三月。約三年の時間が巻き戻ったことになる。
 これって、つまり……タイムリープ!? もしかして俺って、時間を操れる系の能力者!? ちょっと待て。記憶を整理しよう。俺は高校の卒業式の後、クラスで一番可愛いユウカに告白して派手にフラれた。それで後悔していたら、急に胸が苦しくなって、意識がなくなった。その先は何も覚えていない。
 そして、目を覚ましたと思えば、高校の入学式の日に戻っている。
 なんで……?
 少し考えて、俺は天才的な結論を弾き出した。
 俺は高校の三年間、女子とほとんど接点がないまま過ごした。そして、もっと運命的で劇的な出会いがあればよかったのに、と思いながら突然死した。そこで、慈悲深い神様的な人が、俺に出会いからやり直すチャンスをくれたのだ! そうに違いない!
「この状況、すべて理解したぞ。アニメやマンガでよくあるヤツだ。予習しておいてよかったぜ」
「は? 何? お兄ちゃん、マジでキショいんだけど……」
「妹よ。どいてくれ。兄は忙しい。これから美少女との運命的な出会いが待っているんだからな!」
「あ、うん、どうでもいいけど、警察のお世話になるようなことだけはやめてね。朝ご飯はキッチンに置いてあるから」
 白い眼をして去っていく妹。
 俺はすぐに制服に着替えて家を出ることにした。今、七時五十分なので、もう少しすれば、みな登校し始めるはずだ。あまり時間の余裕があるとは言えないので、朝ご飯なんて食べている場合ではない。
 たいてい運命的な出会いは、通学路で起こる……ような気がする。例えば学校へ急いでいて美少女とぶつかったり、空から美少女が降ってきたり、不良に絡まれている美少女を助けたりだ。
 とにかく何らかの接点、きっかけを作る必要がある。それも、人間関係のグループが出来上がる前、つまり入学式前なら最高だ。そのあと、しれっと教室で再会して、「あっ! 今朝、助けてくれた人ですよね……?」などというふうに、展開が進んでいけば、来月辺りには俺の彼女になっていること間違いなしだ。
 そういうわけで、善は急げ。俺は自転車に乗って自宅を飛び出した。
 向かうはクラスで一番可愛いユウカの家……ではない。NOだ! あいつは性格ブスのビッチだと判明したから論外。だからクラスで二番目に可愛かったチサトの家を目指す。家の近くで待ち伏せすれば、確実に何らかの接点を作れるだろう。
 ちなみに、クラスの可愛い女子の家は、独自の調査によって把握している。こんなときのために調べておいて正解だったぜ。
 途中、見知らぬ婆さんが、横断歩道で転んでいた。気の毒だが、見なかったことにして、とにかくチサトのところへ急いだ。なんせ高校の三年間がかかっているのだから、時間は大切にしなきゃならない。
 俺の記憶によると、確か入学式に遅刻してきた恥ずかしいヤツが一人いたはずだ。もし美少女と運命的な出会いを果たしても、式に遅刻していたのでは格好が悪すぎる。あんな見知らぬ婆さんは無視するのが正解だ。
 十分ほど自転車を走らせると、チサトの家の前に着いた。ひと目で裕福だと分かる、立派な一戸建てだ。ちなみにチサトは、育ちの良さをうかがわせる、おっとりした性格のお嬢様だ。温厚で、器が広くて、性格ブスのユウカとは対照的。
 ところで、家の前に来たのはいいが、ただ待っているだけでは平凡な出会いにしかならないような気がしてきた。
 どうすれば運命的な出会いになるんだ?
 都合よく女性に絡んでくれそうな不良が歩いているわけもない。いたとしても、正直、俺は不良を追い払える自信も勇気もない。
 そうだ! とりあえず、曲がり角でぶつかろう。それで、倒れそうになったチサトを抱き留め、紳士的に振る舞い、好感度を上げる。名前は名乗らず、入学式で再会すれば、自然と会話できるに違いない!
 俺は作戦を実行すべく、チサトの家が見える曲がり角に隠れて待機した。
 さあ、来い!
 しばし待っていると、制服姿のチサトが玄関から出てきた。豊かなロングヘアがふわりと風になびく。……可愛い。あんな美少女とイチャイチャしたい!
 なぜかチサトの後に着飾った両親も現われた。三人は車に乗り込む。高そうな黒のBMW。
 両親も式に参加するなんて想定外だ! これじゃ、チサトとぶつかれない。運命的な出会いも起こらない……。
 車にエンジンがかかった。
 どうしたらいいんだ!? このままチサトを見送って、のこのこ登校したのでは、今までの三年間と何も変わらないではないか。せっかく神様がくれたチャンスなのに。だけど車に乗ってしまった以上、もう声をかけることもできない。
 こうなったら、今から別の女子のところへ行くか? いや、もう間に合わないかもしれない。時間がない。
 BMWがゆっくりと門から出て、俺が隠れている曲がり角へ向かってくる。助手席にチサトが見える。やっぱり可愛い。あんなお嬢様な女子と普通におしゃべりしてみたい。お近づきになりたい。そのきっかけが欲しい。もうあんな、灰色の三年間を繰り返したくない!
 俺は決意して、車の前に飛び出した。とにかく接点を作りたいという気持ちが、俺を駆り立てたのだ。車はあまりスピードを出していなかったが、急ブレーキを踏んで制御を失い、スリップした。チサトの驚いた顔。迫りくる鋼鉄の塊。
 衝撃、そして浮遊感。
 俺は車にぶつかって吹っ飛ばされ、アスファルトに叩きつけられた。
 頭がクラクラして、やけに暗い青空がぼんやりと見えていた。誰かの悲鳴が聞こえる。頭が濡れている気がして、手で触ってみたら、血黒いものがべったりと付いていた。
「おいおい、マジかよ。これって、やばくね?」
 そう呟こうとしたのに、呂律(ろれつ)が回らない。
「大丈夫ですか!? ねえ!」
 チサトが俺をのぞきこんでいる。だけど、視界がぼやけて、顔がよく見えなくなっていく。どんどん暗くなっていく。
 どうやら俺は失敗したみたいだ。打ち所が悪かったらしい。考えてみれば、車の前に飛び出すなんて愚かだった。最悪の出会いだ。
 せっかくタイムリープしたというのに、また死ぬのか……?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

妹の仇 兄の復讐

MisakiNonagase
青春
神奈川県の海に近い住宅街。夏の終わりが、夕焼けに溶けていく季節だった。 僕、孝之は高校三年生、十七歳。妹の茜は十五歳、高校一年生。父と母との四人暮らし。ごく普通の家庭で、僕と茜は、ブラコンやシスコンと騒がれるほどではないが、それなりに仲の良い兄妹だった。茜は少し内気で、真面目な顔をしているが、家族の前ではよく笑う。特に、幼馴染で僕の交際相手でもある佑香が来ると、姉のように慕って明るくなる。 その平穏が、ほんの些細な噂によって、静かに、しかし深く切り裂かれようとは、その時はまだ知らなかった。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...