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4.飯テロ(ガチ
しおりを挟む「んで、クルル。ここってどこなんだ?」
とりあえずは、自分のいる場所が知りたかった。
『ここか?ここは【封邪の迷宮】と呼ばれるダンジョンじゃ』
「ダンジョン……」
やっぱダンジョンってあるのか、この世界。
ファンタジーだな。ちょっとわくわくしてきた。
しかし、【封邪の迷宮】なんて、随分物騒な名前だな……。
「……ん?ちょっと待て、【封邪の迷宮】?」
『うむ、そうじゃ』
「……なあ、この迷宮ってもしかして……?」
『ほほう、察しがいいのう。流石、我が契約者。お主の考えてる通りじゃ。このダンジョンは、儂を封じる為に造られたモノじゃ』
ドヤ顔で自分を指差すクルル。
やっぱりかよ。
道理で何か雰囲気が物々しいと思ったよ。
「でも、封印ってどういう事だ?」
『うむ、話せば長くなるのじゃが―――』
クルルは掻い摘んでこの迷宮の成り立ちを説明してくれた。
なんでも、このダンジョンが造られたのは、今からおよそ百年前。
当時のクルルというか、当時の契約者は色々とやんちゃをしたらしい。
邪神龍基準のやんちゃってどんなだよ?
気になるけど、聞きたくない……。
んで、それを見かねたある凄腕の魔術師が、クルルとその契約者を封じるためだけにこの迷宮を作り上げたんだそうだ。
そして、激闘の末、契約者と共にクルルをこの迷宮に封じ込められたそうだ。
『いやぁ、油断していたとはいえ、あの魔術師はかなりの腕前じゃったの。はっはっは』
クルルはあっけらかんと話しているが、当時は相当慌てたらしく、契約者と共にあの手この手でこのダンジョンから脱出しようと試みたが、結局駄目だったらしい。
迷宮内での動きは制限されてはいないが、外に出ようとすると封印が発動して出られなくなる仕組みになっているとの事だ。
「一緒に封印された契約者はどうなったんだ?」
『とっくに死んだよ。寿命じゃった』
岩壁の一角に石で掘ったお墓の様な物があった。
クルル曰く、「中々に気の良いやつだった」との事。
懐かしげに眼を細めるクルルだが、邪神龍の言う良いやつの基準ってどうなんだろうか?
そもそも、ソイツの所為で此処に封印されたんだよな?
やっぱり魔王とかそういう感じだったんだろうか……。
聞いてみたけど、はぐらかされた。
気になるけど、しつこくは聞かない。
俺だって人に昔の事をしつこく聞かれるのは嫌だしね。
しかし、封印かぁ……。
厄介だなぁ。
「なあ、てことはつまり、お前と契約した俺も外には出られないのか?」
『ん?なんじゃ、シズナは外に出たいのか?』
「いや、そりゃあ出たいだろ。こんな薄暗い洞窟で一生過ごすなんて、俺は嫌だよ」
せっかくの異世界なんだ。
外にどんな世界が広がってるか見て見たいじゃないか。
クルルの話っぷりからするに、どテンプレの剣と魔法のファンタジーっぽい世界だし。
『ふーむ、そうか。慣れれば、意外とここも住み心地はいいんじゃがなぁ……』
そう言いながら、ゴロゴロと転がる邪神龍。
「……お前、一応ここに封印されてるんだよな?」
どうやら、この邪神龍、封印されてる内に、すっかりここが気に入ってしまったらしい。
もはや、封印を破る気も無く、ここでのんびり過ごしたいそうだ。
うん、コイツ根っからの引き籠りタイプだわ。
俺の友達にもいたよこんな奴。
ゲーセンとかには行きたがらないけど、家で遊ぶならオッケーみたいなやつ。
『まあ、シズナが出たいと言うなら、止めはせんぞ。じゃが、そう簡単にはいかんと思うぞ?』
「どういう事だ?ていうか、出れるのか?」
『ああ、儂は封印を破らねばこのダンジョンからは出られぬが、お主は別じゃ。おそらく出ようと思えば、出る事は出来るじゃろう』
「へぇ……」
それは良い事を聞いた。
「んで、出るには如何すればいいんだ?」
クルルは首を上げ、考えるよう素振りをする。
『うーむ、教えても良いが、どうせ今のシズナには無理じゃよ』
「え、なんだよそれ。もったいぶらないで教えてくれよ?」
だがクルルは首を横に振る。
『まあ、その内教えてやるから心配するでない。それよりも、腹が減らぬか?今日は我らが出会い、契約を交わしためでたき日じゃ。祝杯を挙げたいのじゃ』
そう言われると、俺の腹がクゥゥとなる。
「んーまあ、確かに腹が減ったな」
若干はぐらかされた感はあるけど、ご飯が食べたい。
「でも、このダンジョンって食べ物とかってあるのか?」
『あるに決まっておろう。少し待っておれ。直ぐに狩ってくるからの!』
嬉しそうにそう言って、クルルはどこかへ消えていった。
狩ってくるって……やっぱそう言う事だよな?
何を狩ってくるんだろうか?
魔物か?
魔物なのか?
……食えるのか、魔物?
邪神龍。封邪の迷宮。そこに生息するであろう魔物。
俺は猛烈に嫌な予感がした。
――――そして、数分後。俺の予感は見事に的中する。
『ほれ、狩って来たぞ!どうじゃ、シズナよ!』
どさりと狩ってきた魔物を俺の前に並べるクルル。
「…………あの、クルルさん?」
『なんじゃ?』
クルルはパタパタと尻尾を振る。
すごくキラキラした目で俺を見つめてる。
「この黒いブニブニしたのはなんですか?」
『ダークポイズンスライムじゃな。舌の上でとろける美味さじゃ!』
「……この人くらいの大きさの蜘蛛は?」
『デッドリーポイズンスパイダーじゃな。風味豊かでとろける美味さじゃ!』
「…………この人の腕くらいある蛆虫は?」
『ヘドロポイズンワームじゃな。濃厚な味わいでとろける美味さじゃ!』
「…………このデッカイGは?」
『ダンジョンゴキブリじゃな。歯ごたえが良く、とろける美味さじゃ!』
「………」
とろける以外に美味さの表現ないのかよ。
俺は視線を下に向ける。
ぶよぶよ、ぶよぶよ。ジュゥゥゥゥゥ……。
キシッ、キシッ。
ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ。
カサカサカサカサカサカサ。
「…………」
そんな音ばっかり聞こえてきます。
ええ、見るからに有毒です。
吐きそうです。
『どうじゃ、シズナよ!美味そうじゃろう?褒めても良いんじゃぞ?こんなに一杯美味しい食材を狩ってきた儂を褒めてもいいんじゃぞ?』
尻尾を振り乱しながら、今か今かと俺の言葉を待つクルル。
そんな邪神龍に向けて俺はゆっくりと口を開き―――
「食えるかボケェェェェェェェエエエエエエエエエエエッッ!!!!」
『!?』
俺は一刻も早くこのダンジョンを出る決心をした。
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