邪神龍の契約者 ~最凶と共に歩む異世界生活~

よっしゃあっ!

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5.俺の想像してた異世界生活と違う

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 こんなダンジョン、とっとと出よう。
 そう決意したその日は、とりあえず持っていたお菓子やジュースでお腹を満たした。
 が、そんな事いつまでも続くわけがない。
 いつか底をつくのは目に見えている。
 そして空腹感はいかんともしがたい。
 
 俺に怒鳴られて、隅でで丸まった邪神龍を再び説得(なでなで)し、俺は決心した。
 スライムや蜘蛛を食べる事を。

「―――頂きます」
 
 ぱくり、もぐもぐ。

「……ん、なんだ、案外味は悪くな―――~~~~~~!?おげえええええええええええええッッ!?」

 んで、吐いた。

 美味いマズイの問題じゃない。
 喰った瞬間、体がそれを拒絶したのだ。
 その後、酷い腹痛と頭痛に見舞われ、丸一日に苦しんだ。

『これは……もしや……』

 クルルは俺の体に触れ、その原因を調べた。

『ふむ、“魔力中(あた)り”じゃな』

「魔力中り……?」

『急激な魔力の吸収による体の拒絶反応じゃ』

 魔力、実にファンタジーっぽい単語が出てきたよ。
 クルルによると、この世界の生物は、人や獣、植物に至るまで、全てが魔力を持っているらしい。
 魔力とは、言葉の通り、魔法を使うためのエネルギーだ。

 そして、この世界に来たばかりの俺にはこの魔力に対する耐性が低く、高い魔力を含んだ食材を食べると、拒絶反応が起きてしまうらしい。
 その結果が激しい腹痛と頭痛。
 
 これを克服するためには、魔力の少ない食材を食べ、少しずつ耐性をつけるしかないらしい。

 そんなの如何すればいいのかと、悩んだが、その疑問はあっさりと解決した。
 
 このダンジョンには魔物の他に、野菜や果物も自生していたのだ。
 見た目は凄く禍々しいが、それでも魔物よりも含んでいる魔力が少なく、抵抗力の少ない俺でも十分に食う事が出来た。
 そして、味も意外と美味しかったのだ。
 
 かくして、俺のダンジョンでの食糧事情は解決した。

 ……なのだが。

「おーい、シズナよ食事にしよう」

 クルルが呼ぶ。
 食事の準備が出来た様だ。

 クルルは背中に熊のような魔物を背負っていた。
 初めて見る魔物だ。
 このダンジョンには随分と数多くの魔物が居るようだ。

『こいつは、ハーブグリズリーという。草食の熊で、主にハーブを好んで食べる』

「へぇー、旨そうだな」

 思わず生唾を飲む。何せ俺はこの世界に来てから、まだ果物しか口にしていない。
 魔力の抵抗力が低いから仕方ないのだが、これでも育ちざかりの高校生だ。
 肉汁がたっぷりとしたたるステーキにかぶりつきたいという欲求はいささか以上にある。
 そんな俺の視線を察したのか、クルルが申し訳なさそうに目を逸らす。

『無論、この肉は絶品である。だが、シズナには食えんよ。せめてあと数ヶ月は我慢して魔力の抵抗力を上げなければな』

「くうう……それってまだまだ先じゃ無いか!」

 肉が食いたいのは今なんだよ!食欲は現場で起こっているんだ!

『この肉には、以前のスライムや蜘蛛以上に魔素が多く含まれている。子供のシズナではまだその魔素を取り込んでも分解することが出来んのじゃ。食したところではき出すだけじゃよ。というか下手すれば死ぬかもしれんな』

「ぐぬぅ……」

 だから、俺は子供じゃない!もう高校生だ!

『仕方有るまい。まあ、シズナの貧弱さ、脆弱さを見抜けなかった儂にも責任はある。じゃから、ほれ、ドラゴンアップルじゃ」

 そういってクルルは手に持った果実を俺に渡す。
 サッカーボール位の大ぶりの果実だ。
 見た目の割には軽く、俺でも片手で持つことが出来る。
 このドラゴンアップルという果実が今の俺の主食だ。
 日本にいた頃のリンゴに近い形をしているが、味はどちらかと言えばグレープフルーツに近い。
 しゃりしゃりしゃり……。
 うん、旨い。歯ごたえはリンゴよりもずっと柔らかい。
 俺でも難なく食べることが出来る。
 おまけにこのドラゴンアップル、栄養価もかなり豊富らしい。
 この数日間、俺はこれ以外殆ど口にしていない。
 持っていたお菓子やジュースは貴重だからな。大事にしなければいけない。

 飽きないか?と言われれば、そうでもない。
 米や食パンと同じ感覚だ。飽きが来ないうまさとでも言うのだろうか。
 無論、このドラゴンアップル、栄養価だけでなく、微量ながら魔力も含んでいる。
 なので少しずつではあるが、俺の魔力抵抗力も上ってきている……筈だ。

「あーあー、毎日果物だけだと飽きるなー」

 チラチラと横顔を見ながら、わざと大きな声で言ってみるがクルルはどこ吹く風だ。
 涼しい顔でてきぱきと調理を始める。
 忌々しい……肉……忌々しい……。
 ぐぎゅるるる……ああ、腹減った。
 じゅーじゅーと。
 ハーブグリズリーの肉の焼ける音がする。
 クルルはどこからか取り出した鉄板ででかい肉の塊を焼いている。
 良い香りもしてきた。おまけに、ただ肉の焼ける香りじゃない。
 まるでカレーの香辛料のような胃を直撃するスパイシーな香りだ。

『こいつは別名『香魅熊肉』とも呼ばれてな。食欲をそそる良い香りだろう?』

「ああ、全くだな!俺は食えないけどな!」

『仕方があるまいて。シズナの分まで儂が食おう。ああ、心が痛む。心が痛むぞ』

「嘘つけ!」

 言葉では嘆いていても、その溢れんばかりのよだれとたるみきった頬が、全てを否定している。
 無茶苦茶旨そうだ……。
 クルルはまるで漫画に出てくるようなでかい骨付きの肉を口一杯に頬張っている。
 もっちゃもっちゃもっちゃもっちゃと、肉を咀嚼している。
 豪快に肉を食いちぎるたびに、その香ばしい香りが俺の方まで伝わってくる。
 ……くっ、食いてぇっ!

『ああ、心が痛む、心が痛むぞぉ』

 満面の笑みで言いやがってぇ……!
 殴りてぇ。
 あれか?
 俺が初日にお前の取ってきたスライムとか蜘蛛とかを散々な扱いしたから、そのあてつけか?

『もっちゃもっちゃもっちゃもっちゃ』
 
 正解らしい。
 わざと、クチャラーしてる辺り、コイツ本当に面倒臭せぇ……。
 香ばしく焼けた肉から目を逸らすように俺はドラゴンアップルにかじりついた。
 しゃりしゃりしゃりしゃり。

 ……うん、うまい。

 べっ、別に強がってなんていないんだからねっ!
 不意にクルルの周りに転がっている肉のこびりついた骨(食べカス)に目が行く。
 
 ……あれくらいなら……。

 ……ハッ!
 ぶるりと俺は首を振った。
 何を考えているんだ俺は!
 飽食の時代に生まれ育ったゆとり思考の高校生がそんないやしい事を考えるなんて!

 やって良いことと悪いことの区別はつく!
 そう、人の食べた残飯を食いあさるなんて、そんな意地汚い真似して良いわけが無い!
 というか社会的に大変危険な行為だ。
 ……うん。―――ぐぎゅるるるるるるるるる……。
 しゃりしゃりしゃりしゃりしゃり
 俺は無心にドラゴンアップルを貪った。

 うん、ウマイ。リンゴ超ウマイ。
 

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